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デイノニクス 10区内のレヴナント

 ソレは闇をさ迷っていた。最初は無だった。だが時を経て肉体は多くの刺激を受け、ソレに自意識が芽生え始めた。いや、取り戻しつつあった。


 まだ自分が自分でなくなる時はある。意識がない時も多い。しかし身体は動き続けていた。


『我ヲ▲◾️ホ△⚫︎ヨ』


 時折、頭の中におかしな声が響く。言っている言葉は理解できないし、以前はこの声が響く度に暴れていた様に思う。


 しかし今は、ただうるさいだけのモノになっていた。一方で、何かしなければならないという使命感も生まれてくる。


 だが具体的に何をするべきなのか、声は何を求めているのかが分からない。結果、やはり無視という結論になっていた。


 ある日、ソレは地上へと出た。何かをしなければと、そこで朦朧とした意識の中、力を解放する。


 目の前で逃げ惑う多くの生物。それらを追い立てながらも、意図して自分と同じ存在に変質させる。何故かそうしなければならないと感じた。


 だが自分に立ち向かうモノがいた。そのモノはとても強く、一度は逃げ出した。そして多くの同位体を用意し、再び挑んだ。


 だが自分は敗北した。地に横たわる自分の前で、同位体にしたモノと最初に戦っていたモノが音のやり取りを行う。


 その音を聞いた時、ソレはこれまでよりも大きく自分という存在の輪郭を掴む。


「…………!」


 ニクス。デイノニクスのニクス。生きていたのか。大きな衝撃と共に、自分の名を思い出す。No.1。いいや、違う。自分は……。


「ル……ィ……アァ……」


 音が正しく発音できない。しかし完全に自分を取り戻した。


 そう、自分はディノ。デイノニクスのディノだ。様々な事を思い出す。あれからどれだけの時が経った!? ここはどこだ!? 


「ガ……ルィ……バァ……」

『我ヲ解⚫︎△◼️ヨ』


 また頭に声が響く。幻聴ではない。狂おしいほどの使命感が湧いてくる。自分が何をすべきなのか。ここからどう生きるべきなのか。考えろ。考えろ。考えろ。


「デ……ドゥ……グウゥゥ……」


 何をすべきか。決まっている。自分がこうなった原因、その元凶となった人物。ディンドリック・ディナルドを。


 殺す。





 ディンドリック・ディナルドは常に10区内に滞在していた。


 別に生まれが貴族という訳ではない。しかし10区内には政府直轄施設も多い事から、そこで働く者たちには特別滞在許可証が与えられていた。


「ふふふ……」


 最高の環境で最高の研究を行う。ディンドリックはそれが可能な今の人生にとても満足していた。


 箱舟で長く続いてきたアーク計画。これを自分の手で大きく前進させた。この事に対する満足度はとても高く、更なる好奇心を生み出していた。


「そろそろ6世代目に着手するとしよう。魔力を操る人造人間……人の姿をしたレヴナントよ……」


 自分の研究も数多く枝分かれしたアーク計画の一端に過ぎない。だが間違いなく、自分が一番リードしているだろうと考える。


「おお、そうだ! 6世代目にはNo.2とNo.4。それにNo.5の遺伝子を受け継いだ子をベースにしよう! 動物実験では、親世代の魔力を継承する確立は高かった。まぁいずれも直ぐに死んだのは残念だったが。しかしここの問題が解決しない事には、せっかく子を作らせてもすぐに死ぬ可能性もある訳か……。ふぅむ。……まぁ作らせてから考えればよいだろう。何はともあれ、話は素体を用意してからだ」


 閃きに任せて、一瞬で多くの計画書を作成し始める。作成しながら、次々に多くの実験も思いつく。


「ふむ……! 念のため、No.2と一般人の間にも子を作らせよう! 比較対象がなければ、検証の幅も狭まるというもの! 相手はわしかブロワールでいいだろう! ふふ……! いいぞ! わしの手で! 新たなアークを生み出すのだ……!」


 初めて棺の中で眠るアークを見た時の事は、今でも鮮明に思い出せる。そしてこの世界が保有している謎に、大いに魅了された。


 箱舟内においても、数えるほどの者しか入った事のないエリア。絶対封鎖領域「エリアXX」。


 そこには約450年前、当時の地上探索部隊が地上より回収してきたモノが封印されていた。


「ああ……アークよ! 瘴気の王よ!」


 ディンドリックは絶対封鎖領域「エリアXX」でそれを見てからというもの、アークという言葉に憑りつかれていた。


 そして同時に、無限の可能性を見ていた。興奮に任せて情報端末を操作していたが、そこにアラートが鳴り響く。


『レヴナントです! 研究所にレヴナントが現れました!』

「なに!?」


 すぐに状況を確認する。どうやら地表部分の研究所にレヴナントが現れた様子だった。


「なぜここにレヴナントが……? ここは10区内だぞ……?」


 10区内は特にレヴナント出現率が低い。それだけ汚染に対して敏感な区画だ。過去に出た事もあるが、その原因ははっきりしていた。


 逆に、理由がはっきりせずに10区内でレヴナントが現れる事など、まずありえない。そこまで考えたところで、ディンドリックにはある予感が働く。


「まさか……」

『局長!』


 同時にブロワールから通信が入る。


『地上で現れたレヴナントですが……!』

「No.1……だな?」

『! は、はい! 見た目、特徴ともに一致しています!』


 ブロワールの報告を聞き、ディンドリックは嬉しさで笑みを抑えきれなかった。


 何故No.1はここに姿を現したのか。微かに人だった頃の意識の残滓が残っていたのか。それとも。


「完全に意思を持っているのか……!?」


 その声は、自分でも驚くほど喜色に富んだものだった。


『現在、地上部分との間では隔壁を何重にも敷いてあります! し、しかし……! 対象の魔力、クラス7を記録しています……!』

「ほう! ほうほう! 素晴らしい……! レヴナントとしては過去最高記録ではないかね!?」

『既にレヴナント警報は発令されています! 局長、このまま地下道を通ってこの場を離れてください!』

「ばか言ってはいけないよ、ブロワールくん」

『は……?』

「外災課にもクラス7の情報は渡っているだろう? だとすれば! 出動するのは我が子たちだ! くく……! ははははははははは!」


 現在、No.4は地上探索部隊に同行し、箱舟を留守にしている。となると、残りの4人の中から少なくとも2人は出てくるだろう。


 ディンドリックは急遽始まった展開に、どことも知れぬ存在に感謝を捧げた。





 強制休日が明け、しばらく経った頃。その時は突然やってきた。


『7区でレヴナント警報が発令されました! 指示を受けた公殺官は直ちにクロスファイアへ向かってください!』

「7区だと……!?」


 一瞬で様々な疑問が頭をよぎる。しかし考えるのは後だ。何故なら、俺にも出動要請がかかったからだ。


 俺はすぐさま地下の特別列車 《クロスファイア》のオペレーター室へと向かった。


(10区内でのレヴナント発生率は極めて稀だ。いくら年々レヴナントが増加しているとはいえ、さすがに異常だ……!)


 おそらく今、《クロスファイア》の整備車両には俺の《ヴァリアント》が運び込まれているだろう。


 列車が動き出すまでにしばらく時間がかかる。その間に状況が確認できるだろうと考え、オペレーター室へと入った。


「あ、ダイン」

「ダインさん」


 中に居たのはマリゼルダとエグバート。それに何人かの外災課のスタッフだった。中にはジュリアもいる。


「来たわね。時間も押しているし、早速説明に入ってもいいかしら?」

「頼む」


 ジュリアは現在分かっている状況を説明していく。


「7区に突如現れたレヴナントは1体。現在、7区にある政府直轄の研究施設を破壊しているわ」

「え……」


 地図を見て、マリゼルダとエグバートは驚きの感情を滲ませた声を発した。そちらも気になるが、今は別の事の方が気になる。


「施設を破壊? レヴナントが? 人を襲うのではなくか?」

「人も襲っていると思うけど。PEKラビットから送られてきた映像を見る限り、人よりも施設の破壊を優先した行動にも見えるのよね」

「ふぅん……? まぁレヴナントの行動原理なんざ誰にも分からないか」

「ええ。ただ、問題もあるの。現在確認できている魔力はクラス7よ」

「は……?」


 誰の声だろうか。もしかしたら自分のものかもしれない。


「クラス7だと……!?」

「ええ。下手すれば周囲一帯にいる人が全員、瘴気の影響を受けるかもしれない。そしてそんな高ランクのレヴナントに相対できる者も限られている」


 なるほど。そうして選ばれたのが、俺たち3人という訳か。これだけの大物だ、下手な公殺官は参加させても無駄死のリスクが高い。


「3人には先行部隊として状況の把握に努めてもらいます。可能と判断すれば、これを撃破してください。また現在、他の黒等級公殺官及び特務隊にも出動のために動いてもらっています。後続も控えていますので、撃破に動くにしても判断は慎重に願います」


 今すぐ向かえるのは、たまたまビルにいた俺達だという訳か。レヴナントが出現した場所を考慮し、第一波だけでも迅速に出動させる判断を下したに違いない。


「まさかこんな形でお前たち2人と共闘する事になるとはな」

「ダイン。私たちは特別。任せて」

「さすがにクラス7のレヴナントは初めてですが。ダインさんがいれば心強いです。よろしくお願いします」


 公殺官に復帰して早々にこんな大物に当たるとはな。してやられたという気持ちが無い訳ではない。


 だが同時に、《ヴァリアント》の全力が出せる事を期待している自分もいた。

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