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復職1ヶ月 ダインの予感

「おおおお!!」


 俺が公殺官に復帰して一ヶ月が経った。この間にも何度かレヴナントを討伐していたが、今俺は復帰3度目となるレヴナント事件の真っ只中にいた。


 右手に持った細身のブレードで対象を切り裂き、距離の離れたレヴナントには内蔵された銃口を向ける。今回も何の問題もなく、任された持ち場を片付けることに成功した。


「こちらダイン。指定ポイントのレヴナントの殲滅を確認」

『了解です。では次のポイントを送信……あ、待ってください。そっちも終わった様です。念のため周囲を確認し、異常なければ帰還してください』

「了解」


 この《ヴァリアント》を駆って実戦に出たのも3度目になる。結論から言うと、俺はこの機鋼鎧を大いに気に入っていた。


 使い勝手や取り回しは《ラグレイトmk-2》と変わらず、なおかつ出力は上がっている。兵装を使いこなす慣れは必要だが、任務に大きな影響が出るほどでもない。


 何より予算度外視で作られただけあり、納得の性能を実感できていた。


(こりゃ確かにクセになるな。リノアが金に糸目を付けず、オーダーメイドの機鋼鎧を使い続けていた理由も分かる)


 バックパックのアタッチメントに装着できる兵装の種類も豊富だし、《ヴァリアント》自体にも多くの内蔵武器がある。ノア・ドライブの出力と相まって、継戦能力は非常に高いだろう。


 そのまま周辺を歩いていると、青い機鋼鎧と合流した。


「お疲れ様です、ダインさん」

「ああ。そっちもな」


 青い機鋼鎧は《ザフィーラ》。仮面の男、エグバートの駆る機鋼鎧だ。見た目からバランス型に設計されたものだろうと推測される。


 エグバートも複数のレヴナントが現れた地点に向かっていたはずだが、機鋼鎧にはどこにも損傷した箇所が見当たらない。性能はもちろん、エグバート自身も相当な操縦技術を持つのだろう。


「しかしレヴナントというのは、こんなにも高頻度に現れるものなのですね……」

「いや、最近はちょっと異常だ。こんな頻度で現れ続けていたら、いくら公殺官がいても足りなくなる」

「そうなのですか?」

「ああ。特にこの一ヶ月は異常だな」


 俺達は今、64区に訪れていた。年々レヴナントは増加傾向にあるが、この一ヶ月は特に60区以降での出現頻度が特に高いのだ。


 そして60区以降の場合、公殺官が到着するまで時間がかかる。公殺官は全員10区~30区内に居住地を構えるからだ。


 統計をとると、60区以降でのレヴナント出現率は確かに高い。それは除染施設など、どうしてもリスクの高い環境にあるから当然とも言える。


 だからといって毎日出る訳でもないレヴナントのために、60区以降に在中したい公殺官など誰もいない。また機鋼鎧などのメンテも考えると、余計な手間暇や金もかかる。


 そうした理由もあり、いざ60区以降でレヴナントが出現した場合、現場に到着した頃には被害が拡大している事は多々あるのだ。


 今回もそのケースと言えた。だが64区には除染施設はないし、いくら何でもレヴナントが出すぎだ。魔力持ちが生まれていなかったのは、不幸中の幸いと言える。


 俺はエグバートと共に《クロスファイア》に乗り込み、隔離車両で機鋼鎧から出た。


 ここからの5日間で、《ヴァリアント》の除染及びメンテが行われる。《ザフィーラ》から出て来たエグバートも、いつも通り仮面を付けていた。


「お前たち、いつも仮面を付けているよな」

「ご不快に思わせてしまったら申し訳ございません。装着は義務でして」

「ああ、分かってる」


 この一ヶ月で、俺は何度かエグバートと話す機会があった。この男は物腰が柔らかく、話しやすい印象を持っている。


 しかしマリゼルダ同様、常識的な部分で知識の欠如も見られた。おそらくマリゼルダと同じく、特殊な環境で過ごしてきたのだろう。


「そういえば外災課に出向して1ヶ月経ったんだ。給料が出ただろ? 何か買ったりしないのか?」

「きゅう……料?」

「おいおい。まさか無給で働いている訳でもないだろ?」


 それとも、本当に金など必要としない環境に今までいたのだろうか。


「ああ、すみません。どういうものかくらいは知っているのですが。僕たちの口座は別の者が管理していますので。あまり触れる機会がないのです」

「なんだそりゃ……」


 どうやら本当に思っていた通りの環境にいたのかも知れない。


 しかし俺も何度かマリゼルダとエグバートの戦い振りを見たが、二人とも腕は確かだった。一朝一夕で身に付く動きではない。


 間違いなく長時間に渡って訓練してきた者の動きだ。だからこそ、偶に見せる世間とのズレが余計に気になるのだが。





 そうして次の日。ビル内の自室のインターホンが鳴った。扉を開けると、立っていたのはマリゼルダだった。


「ダイン。今日から強制休暇よね?」

「ああ」

「私も今日までなの。ご飯、行こ?」

「そりゃ構わんが。強制休暇中の公殺官はあらかじめ指定されたエリアを出る事はできない。俺はこのビルに設定してあるから、外出には別途許可か監視が必要だぞ」

「ビル内にも食堂はあるじゃない?」

「ああ、そこで良いのか。なら大丈夫だ。行こう」


 この一ヶ月でマリゼルダとはより話す様になった。マリゼルダ自身こうしてよく訪ねてくるし、俺自身話したいと思っているため、別に問題はない。


 ただしやっぱりマリゼルダと一緒にいると、よく目立つ。食堂で食事をとりながら、いつもの様に会話をしていた。


「私の好きなこと?」

「ああ。なにか趣味とかないのか? 例えば、俺はノア・ドライブ弄りや車、あと何人か好きなアーティストなんかもいるんだが」

「分からない。……あ、でも。シャーベットは好き」

「そういやマリゼルダ、いつもデザート食べてるな……」


 マリゼルダやエグバートは、これまで栄養補給自体は問題なく行ってきたが、味付けの濃い物は食べた事が無かったそうだ。


 エグバートは塩味が濃いもの、マリゼルダは甘みが濃いものが好きな様子だった。


「あと。恐竜も好き」

「恐……竜?」


 なんだ。頭のどこかが痛い。


「知らない? こことは違う世界の大昔。そこで栄えていた動物なの」


 何故か焦燥感が募る。この気持ちは一体なんだ?


「肉食に草食。大きさも様々、空を飛ぶ種類もいたのよ」

「あ……」


 初めて聞いたはずなのに、初めてとは思えない感覚。俺は……昔。恐竜の話を聞いた事が、ある……? 


 微かに頭痛を感じながらも、情報端末を操作してみる。しかし恐竜という種類の生物についての情報は、何も出てこなかった。


「すまない、マリゼルダ。ちょっと頭が痛くて……」

「大丈夫?」

「ああ……。一応、メディカルチェックを受けた後、自室で休むことにするよ」

「そう、分かったわ。お大事にね」


 俺は席を立つと、簡易メディカルチェックを受け、そのまま自室に戻った。


 検査の結果は異常なし。どこにも問題はない。ではこの心に感じる重しの様なものの正体はなんなのか。


(そもそも。マリゼルダと会って以来、こういう事は何度かある。原因はマリゼルダ……? いや。直接何かされた訳じゃない。一体どうなったんだ、俺の身体は……)


 気を紛らわせるために、別の事に思考を割く。


「そう言えば。《ラグレイトmk-2》、まだ返ってきていなかったんだったな……」


 メンテに出した《ラグレイトmk-2》だが、整備が後回しにされており、まだ返ってきていなかった。


 この一ヶ月、公殺官の出動回数が多かった事もあり、整備会社も大忙しなのだろう。俺は《ラグレイトmk-2》がメイン機体ではないため、後回しになるのは仕方がない。


 それに数年前のモデルで1年の放置期間もあったため、一度しっかり見させて欲しいと要望があったのだ。これを了承した事も返却が遅い理由になっていた。


 改めてこの一ヶ月を振り返ってみる。公殺官としては、順調な復帰と言えるだろう。


 現在は黒等級でも序列はついていないが、そろそろ暫定序列もつくはずだ。1位は今も昔も変わらないだろうけどな。


「しかしやはりレヴナント出現率の高さは異常だ。誰もレヴナントになんかなりたくないだろうし、わざと瘴気を浴びている奴がいる訳ないだろうが……」


 強制休暇が明ければ、きっとまたすぐに出動する事になるだろう。俺はそんな確信めいた予感を感じながら、目を閉じた。

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