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ダインの機鋼鎧と帝国政府の技術士官

 マリゼルダたちについては、通達の他にもオリエからちゃんとした説明を受けることができた。俺は今、外災課ビルのオフィス内にあるフリーデスクに座って、オリエと向かい合っていた。


「つまり帝国政府の研究機関が開発した、新兵装の実施試験が目的だと?」

「はい。詳細は伏せられたままですが、マリゼルダさんたちはその新兵装を扱う訓練を受けているそうです」

「新兵装ね……」


 言われて思い出すのは、やはりあの時見た空飛ぶボートと白い機鋼鎧だ。マリゼルダはノア・ドライブが使われていないと話していた。


 だがこの箱舟において、ノア・ドライブ以上に効率のいいエネルギーユニットなど存在しない……はずだ。少なくとも俺には思いつかない。


「マリゼルダさんたちはあくまで窓口。新兵装を扱える人は彼女たちを含めて5人いるそうです」

「5人の操縦者に5つの新兵装か」


 技術者としてはとてもくすぐられるな。


「なぁ。マリゼルダたちの機鋼鎧はどこにあるんだ? 一目見てみたいんだが」

「それは難しいですね」

「なんでだ?」

「ビルのワンフロア丸々立ち入り禁止区域に指定されていまして。お目当ての機鋼鎧関連はそこに保管されています。メンテナンスするにも、研究機関から派遣された技術者でないと触れられないという徹底ぶりですよ」


 それだけ機密の多い兵装という訳か。そう言われたら増々興味が湧くが、研究機関の対応にも理解はできる。無理を言っても見せてはもらえないだろうな。


「機鋼鎧といえば。ダインさんはどうするんですか?」

「ああ……」


 俺が公殺官に復帰するにあたり、ほとんどの手続きは完了した。だがまだ使用機鋼鎧の申請が終わっていなかった。


「とりあえず《ラグレイトmk-2》をそのまま使おうと思っているが。問題も多いんだよな……」


 俺がかつて使用していた《ラグレイトmk-2》だが、兵装一式と合わせて外災課で保管してくれていた。だが長く使っていなかったため、メンテナンスに出す必要がある。


 それに俺自身、本格的な機鋼鎧の扱いは久しぶりになる。しばらくはリハビリを兼ねて、トレーニングも必要だろう。


「今、《ラグレイトmk-2》をメンテに出したら、いつくらいで返ってくる?」

「確認してみますが、早くて1週間。遅くて2週間くらいでしょうか」

「わかった。とりあえずその方向で手配してくれ」


 俺の微妙な言い回しが気になったのか、オリエは抱いた疑問を口に出してくる。


「何か気になることでもあるんですか?」

「ん……ああ……」


 あるといえばある。それはやはり機鋼鎧関連だった。


「俺の《ラグレイトmk-2》も、今や5年以上前のモデルになる。俺からすれば細かい動きはしやすいし、取り回しもいいんだが。兵装はその限りではないだろ?」


 公殺官にもよるが、機鋼鎧の乗り換え頻度は割と早い。一度の戦闘で破損個所が増える事なんてざらだし、交換や修理対応をするくらいなら新型に乗り替える者が多いのだ。


 現役時代の数年、ずっと同じ機鋼鎧を修理しながら使い続けた俺は稀なケースだろう。


 正直、《ラグレイトmk-2》自体はまだまだ使える。俺の操縦センスも《ラグレイトmk-2》に特化されているため、下手に乗り替えるよりもこのまま乗り続けた方が、実戦で生き残れる可能性は高いだろう。


 しかし機鋼鎧に装着する兵装はその限りではない。


「俺もこの1年でリリースされた兵装はチェックしていたんだが。年々ノア・ドライブの出力が高いモデルが出てきているんだよな……」


 ノア・ドライブが組み込まれた兵装には、いくつかそのスペックを計る項目がある。その中で主なものが、出力と安定性だ。


 出力を上げればより相手にダメージを負わせやすくなるが、モノ自体に耐久性が伴わなければ、出力の向上は兵装の寿命を縮めることになる。


 それに高出力というのは、総じて安定しての維持が難しい。ノア・ドライブを組み込んだ兵装にはその辺りも含めた、全体でのバランスが求められる。


 だが技術者たちも優秀だ。年々、こうした問題は進歩を見せている。剣一本とっても、俺が使っていたものよりも高出力かつ安定性が高いモノがリリースされているのだ。


 ちょっとでも良いモノを使いたいのは、公殺官としては当たり前だ。何しろ前線で命を張っているのだから。


 しかし《ラグレイトmk-2》は、俺が開発してきた兵装とは相性が良いが、それ以外となるとその都度調整を加えつつの確認が必要になってくる。


 新たな剣や斧、槍やメイスなど試してみたい気はあるが、それならそれらの兵装を初めから十全に使いこなせる機鋼鎧が欲しくなるというものだ。


 だが俺にも意地がある。やはり自分の最高傑作たる《ラグレイトmk-2》を使い続けたい気持ちもあるのだ。


 《ラグレイトmk-2》で新たな兵装を使いこなせる様に調節する事も視野にいれつつ、追加兵装を発注しようかと考えていた。


 効率と資金面でとても賢い判断とはもちろん思っていないが。


「とりあえず俺が復帰するのも、《ラグレイトmk-2》がメンテから戻ってからだな……」

「ダイン・ウォックライドさんですね?」


 名を呼ばれて振り返ると、そこには見慣れない女性が立っていた。年齢はジュリアと同じくらいだろうか。


「そうだが。あんたは?」

「初めまして。ミルヴァ・フェルバランと申します。今こちらにおられると聞いたものですから、訪ねさせてもらいました」


 外災課の者……ではないな。制服を着ていない。オリエも知らない人物の様だ。しかし外災課の所有するビルのオフィスにいるんだ。関係者だろう。


「俺に何か用か?」

「はい。まずは公殺官への復帰、おめでとうございます」

「どうも」

 

 単におめでとうと言うためだけに、ここに来た訳ではないだろう。座りながらミルヴァの続きを待つ。


「ダインさんの戦闘記録、拝見させてもらいました。《トライベッカ》でレヴナントはおろか、魔力持ちのブルートまで抑え込む。さすがは黒等級だと感心いたしました」

「ファルゲンには良いモノを作ってくれたってお礼を言わなくちゃな」

「ふふ、本当に。……ところで復帰するにあたって、使用される機鋼鎧は決まっているのですか?」


 俺は何となくミルヴァの正体に気付きながらも、会話を続ける。


「今のところ《ラグレイトmk-2》を使うつもりだが」

「ヴァルハルト社に勤めておられた時に、ダインさん手ずから設計されたものですね。確かにあの機鋼鎧は素晴らしいスペックです。ですが……」

「今も続々と開発され続けている兵装との噛み合わせを考えると、時代遅れになりつつあるってんだろ?」


 途中で遮った俺の言葉に対し、ミルヴァは薄く笑う。


「さすがですね。開発側の立場が分かる公殺官というのは、得難い人材です」

「前置きはいい。あんた、マリゼルダたちが扱う新兵装とやらの技術者だろ? 俺に何の用だ?」


 このビル内において、外災課の制服を着ていない者は三種類。警備員などを含めた外部業者か、公殺官。そしてマリゼルダと同じく、帝国政府の研究機関に所属する者だ。


 話の内容から、俺はミルヴァが帝国の技術士官だと察した。新兵装とやらを唯一整備できる人材だろう。


「率直に申しましょう。我々の開発した機鋼鎧、使ってみる気はありませんか?」

「……なに?」


 箱舟内で機鋼鎧を研究開発しているところは限られている。


 ヴァルハルト社の様な民間企業がいくつかと、帝国政府の研究機関だ。多額のコストと時間が必要になるため、時に官民共同で取り組まれる。


 だがミルヴァは帝国政府の研究機関が独自に開発した機鋼鎧を、俺に提案してきた。


「それはノア・ドライブとは違う、新機軸のユニットを組み込んだ機鋼鎧のことか?」

「あら……詳しいですね。ですが残念ながら違います。あくまでノア・ドライブが組み込まれた機鋼鎧の方になります」


 新兵装の方ではない、か。俺も一度見ただけだが、確かにあっちの機鋼鎧を扱おうと思うと、これまでとはまた違う訓練が必要になりそうだしな。


「マリゼルダたちの扱う機鋼鎧。これらは彼女たちに合わせた専用設計になります。ですがその機鋼鎧を完成させるまでに、いくつもの試作品が作られてきたのですよ。どれもマリゼルダたちが扱うに相応しい、尖った性能を持っています。ですがこれらは日の目を見ないまま、廃棄処分される予定なのです」

「で、どうせなら現役の公殺官に使わせようってか? それは良いんだが、それならもっと下の等級の奴にくれてやればいい。きっと泣いて喜ぶぞ」


 黒等級ともなると、時にラボ自体のバックアップを受ける事ができる。だが下の等級はそうはいかないし、機鋼鎧の破損率も高い。


 予備の機鋼鎧はいくらあっても邪魔ではないのだ。しかしミルヴァはゆっくりと首を横に振った。


「いいえ。我々の開発した機鋼鎧を使いこなせる者は少ないでしょう。それこそ《トライベッカ》でブルートを相手取れる様な、操縦者として一級の腕前の方くらいでないと」


 ……なるほど。きっと俺の交戦記録を見て、これなら自分たちの機鋼鎧を十全に扱ってもらえると考えたのだろう。


 確かに技術者なら、自分の開発したものは使いこなしてほしいと思う。俺にはミルヴァの気持ちも分からないでもない。


「……まずはどんなスペックのものなのか。それを確認させてくれ」

「ええ。もちろんです」


 それに俺自身、帝国政府の研究機関が独自に開発したという機鋼鎧には興味がある。


 俺はミルヴァから、情報端末を介して機鋼鎧の諸元表を見せてもらった。

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