会敵 クラス6のレヴナント
レヴナントを問題なく処理する。それからさらに2体のレヴナントと遭遇したが、いずれも問題なく対処できた。
「もうすぐ貯水タンクエリアか……」
確認できた死体の数もかなり多い。いつレヴナントが現れるかもわからない。十分に警戒しながら足を進めた時だった。近くから戦闘音が響く。
「これは……! 近くで誰か戦っている!?」
音から察するに、激しい戦闘が繰り広げられているのが分かる。俺は音の方向に向かって足を速めた。
「っ……!?」
不意に感じる強い気配。経験上、俺はこれが魔力によるものだと分かっていた。咄嗟にその場を跳ぶ。すぐ後に青い魔力波動が飛んできた。
「魔力持ちのレヴナントか! ……!?」
そのレヴナントは確かに魔力持ちだった。だがこれまで見てきたレヴナントと比較すると、異様な出で立ちをしていた。
黒い外骨格を身に纏っているところは同じ。だが寸法が……輪郭が、人間とあまり変わらないのだ。
普通のレヴナントは、手足や身体が基になった人間よりも膨張している。少なくとも目の前のサイズのレヴナントは初めて見る。
「クラス……6!?」
そしてもう一つ。その魔力のすさまじさだ。歴史上確認されたレヴナントの最大魔力クラスは7。クラス6はその一歩手前。
少なくとも生きている間にそう目にする事はない。目の前のレヴナントは、人間の様な動作で俺に近づき、接近戦を挑んでくる。
「なめるな!」
対レヴナントやブルート戦を想定し、機鋼鎧は大きめに作られている。そのため人間サイズのレヴナントを相手にするのは初めてだという事もあり、最初はその取り回しに違和感があった。
だが《ラグレイトmk-2》は俺が開発し、長年自分の手足として扱ってきた機鋼鎧だ。俺は直ぐにその動きを、目の前のレヴナントに合わせたものに最適化する。
「はっ!」
左腕部からブレードを展開、大きく振るう。そのまま補助ブースターを吹かせて、素早く体勢を整えると右手に持った大型ブレードを振るう。大型ブレードの刀身はノア・ドライブの輝きを纏っていた。
「これも躱すのかよ……!」
腹部に搭載された銃を発射し、相手をけん制する。しかしレヴナントも、人間くさい動きでそれらを躱しながら距離をとると、俺に人差し指を向けてきた。
「!」
指先から魔力で作られた閃光が放たれる。その動きはまるで、子供が指鉄砲で遊んでいるかの様だった。
「うおお!」
左肩に装着された対魔力装甲板で受け流す。そのまま腰のブースターを吹かし、一気に距離を詰める。
魔力を纏うレヴナントに通じる兵装は、ノア・ドライブが組み込まれたもののみ。つまり魔力を持っている事が確認できた時点で、俺には接近戦しか選択肢はない。攻撃はかわされるが、俺は手ごたえを感じていた。
(いける……! 計測される魔力はクラス6だが、なぜか大出力な攻撃はしてこない! おそらくブルートと違い、魔力の扱い方に慣れていないんだ……!)
考えてみれば、このレヴナントはまだ変化してからそれほど時は経っていないだろう。だが放っておくと、自分の力の使い方について学習するかもしれない。段々動きも見えてきた。もうすぐだ。そう思った時だった。
「っ!?」
今日何度目になるか分からない、嫌な気配。俺は補助ブースターを使って真横に跳ぶ。レヴナントの伸ばした右腕から雷が放たれたのはほぼ同時だった。
「な!?」
あと数瞬跳ぶのが遅かったら。俺はまともに雷を受けていただろう。対魔力装甲板は魔力波動には強い耐性を誇るが、炎や雷といった何らかの属性が付与された攻撃には弱い。
それはまた別の……対熱装甲板や絶縁装甲板が必要になる。そうした装甲板を取り付けたシールドもあるが、今回は状況を鑑みて装着してこなかった。
「属性付与ができるのか……!」
だがそれがなんだというのか。俺には天性の感覚というものがある。何故だか時に計測器よりも早く、魔力の反応を知覚できるのだ。
これは数値化できない、感覚的なものだった。しかし今回も含め、この感覚はちゃんと機能して役に立っている。
「やってやる……!」
まさか今の攻撃を躱されるとは思っていなかったのか。レヴナントはどこか人間くさいしぐさで、驚いている様子だった。
実際はただの化け物だし、そんなはずはないのだが。仕切り直しかと考えていると、レヴナントの後方から二体の機鋼鎧が姿を現した。二体ともレヴナントに向けて牽制の射撃を加える。
「ダインか!」
「ルーフリー!? それにリノアも!?」
ここで先行していた二人と合流する。レヴナントはこの状況をどう判断したのか、軽快な身のこなしで上空へと移動し、そのままその場を離脱した。
「あ……! あいつ……!」
「ダイン、待ちなさい! あのレヴナントは普通じゃないわ! 一旦落ち着いて! 互いの状況を整理しましょう!」
そう言ってリノアは俺の前に立ちふさがった。俺は戦闘でハイになった状態で声をあげる。
「そんな時間はない! 見ただろ、クラス6相当の魔力だぞ!? 早く仕留めないと、レヴナント化被害がより増える!」
「ダイン! お前の言うことももっともだが、あいつは明らかにおかしい! お前も戦ったのなら分かるだろう!」
ルーフリーも続けて声をあげる。何となくルーフリーが何を言いたいのかは分かっていた。
あのレヴナントは他のレヴナントと違い、ただ闇雲に暴れてはいなかった。まるで何らかの意思を持って動いている様に見えた。
だがそんな事はありえない。ありえないはずだ。
「だが俺ならやれる! 今だって、もう少しで仕留められていたんだ!」
「あなたが強いのは分かっているわ。でもここにいる公殺官は、私たち以外はもう全滅しているの」
「……え?」
「あのレヴナントだ。見事に俺たち以外の公殺官を仕留めていったよ。途中から銀等級と銅等級の公殺官は下がらせている」
どうやら二人は俺より先にあのレヴナントと交戦しており、その際に他の公殺官に大きな被害が出た様だった。
だがこれを聞いて、俺はなおさら自分の出番だと思った。俺にはこの魔力を知覚する感覚がある。あのレヴナントは俺でなければまともに対処できない。
現にリノアたち二人そろって逃がしているのだから。そう思い、その場を黙って動こうとした時だった。俺の後ろから複数のレヴナントが姿を現す。
「な……」
「! こっちも!」
リノアたちの後ろからもレヴナントが複数現れる。いったい今までどこにこれだけのレヴナントが隠れていたのか。中には魔力持ちも何体か計測できた。
「あのレヴナントがおびき寄せたの……?」
「分からない! だがここは、協力して処理するぞ!」
レヴナントは発見次第、必ず処理しなくてはならない。放置や見逃すという選択肢はあり得ない。だが俺は、先のレヴナントが立ち去った方角へその足を向けた。
「ダイン!?」
「こうしている間もあのレヴナントを逃すかもしれない! 俺はあいつを追う!」
「ちょっと!?」
俺はブースターを吹かせると、進行方向にいるレヴナントの群れに突っ込む。通り過ぎさまにレヴナントを斬りさき、そのまま突破した。
リノアとルーフリーにあの場を預けることになるが、二人ならあの程度のレヴナント、どうという事もないだろう。
何しろ黒等級の序列7位と2位だ。多少魔力持ちが混ざっているくらいでは、いくらレヴナントを寄せ集めたところで脅威にはならない。見たところ二人とも、フル装備だったしな。
それより俺の相手はあのレヴナントだ。あいつは……俺じゃないと対処できない! レヴナントの群れは二人に任せ、俺はあいつをやる! この場ではこれがベストな判断だ!
「どこだ!?」
各種計測器をフル稼働させる。だがクラス6のレヴナントは発見できない。気づけば俺は貯水タンクエリアに立ち入っていた。今回の事件の発端となった場所だ。
「これは……?」
そして汚染水が洩れたという貯水タンクを確認する。辺りは水浸しになっており、相当量が洩れていた。しかし俺が驚いたのは、貯水タンク自体だ。
「一体どうやったら……こんな風になるんだ……?」
貯水タンクは半ばから荒々しく破壊されていた。明らかに外部からの影響によるものだ。どこかから漏れ出たとか、そんなレベルではない。
「誰かが……狙って壊したのか……? いや、そんな事をして喜ぶ奴なんて、箱舟にはいない」
逃げ場のない箱舟内で、わざわざ汚染リスクを上げる人間などいるはずがないのだ。仮に何か企みがあってそんな事をしても、自分がレヴナントになってしまったら意味がない。
周囲にレヴナントはいない。俺は貯水タンクの状況を映像記録に残しながら、その場を後にした。
「……一度戻ろう」
結局あのレヴナントは発見できなかった。いくらか冷静になった頭で、先ほどの事を思い出す。
「……二人にも謝らないと」
あの時の俺は、あの場でクラス6のレヴナントを倒せるのは俺だけだと思っていた。戦闘直後という事もあり、実際に手ごたえを感じていたせいもある。
しかしそれは、目の前のレヴナントの群れを放置して良い理由にはならない。
確かにあの二人なら、問題なく対処できる程度のものではあった。しかし負担を強いた割に、俺が何の成果も挙げられなかったのは間違いない。
それに今さらながら違和感も覚えた。クラス6なんて魔力、レヴナント化して即得られたとも考えづらい。
魔力持ちは成長する事が知られているが、クラス6まで成長するには相応の時を要するはず。
「俺は何を焦っているんだ……」
思えばこの数ヶ月、俺は何かに憑りつかれた様に、公殺官としての業務に打ち込んでいた。
それだけ機会が多かったのもあるが、そうする事で俺は優秀な公殺官であり、自分の生き方に間違いなどないという感覚を得る事ができていた。
どうしてその感覚を欲したのか。ジュリアを迎えに行った日の事、リノアたちと飲んだ日の事、ディアヴィと一緒に暮らしていた日の事、そして決別した日の事を思い出す。
そうして最後に思い出したのは、親父と一緒に暮らしていた日の事だった。
「……はは。何やってんだ、俺」
何に向けて言った言葉なのか、自分でも分からない。心に重しを抱えたまま、俺はリノアたちの元へと戻った。
【レヴナント】
……またレヴナントの一部には、魔力を持つ個体も存在する。レヴナント化した直後の魔力クラスは1か2である。
成長が早い個体は1時間足らずでクラス3に届くが、レヴナントの魔力成長は周囲の瘴気汚染濃度と相関するというレポートもある。
ただし、これまで5時間以内にクラス4まで成長した個体は存在しない。
また歴史上初めて確認されたクラス7のレヴナントは、当初計測された魔力クラスは1であった。(中略)そして半年後に再び姿を現したのだが、その時の魔力クラスは7まで成長しており、多くの帝国民が……
(帝国データベースより一部抜粋)




