8 海斗は『極大暗黒弾』を作りたい
「とりあえず、闇属性の魔法を合わせていくのがいいよな」
カイは考える。もしかしたら、『分裂』と組み合わせるといいのではないかとも思ったが、特性スキル2つで魔法スキルが生まれるとは考えづらい。そのため、闇属性の魔法を使って合成するのが吉と考えた。
「あまり、無駄にはしたくないけど……物は試しだ」
そう言って、カイは『双魔法の知識』と『ダーク』を合成する。流れる通知は『スキル廃棄物』を獲得したというものだった。
「やっぱりそう単純なものじゃないよなあ」
それならと、『双魔法の知識』と『闇弾』を合成する。……これも外れ。
ベースとなるのは闇属性の魔法のはずなので、残ったゴールドで買えるだけ、といっても3つだけだが、『ダーク』を購入することにした。
「『ダーク』よりは『闇弾』の方が強いし、近いよな」
そう思い、まずは『闇弾』を作ろうとする。カイは『ダーク』と弾系のスキルを合成するとできるだろうと考えた。
「弾系だと……『アイスボール』でいいか」
カイは『ダーク』と『アイスボール』を合成する。できたのは『闇弾』、狙い通りだ。しかし、ここから手掛かりがない。『スキルマテリアル』を確認しても『???』と書かれているだけだった。
カイは情報収集したほうが効率がいいか、と思いスキル獲得方法掲示板にアクセスする。
スキル獲得掲示板はその名の通り、スキルの獲得方法を共有する掲示板である。スキル獲得については攻略サイトに書いてあるが、最新の情報を手に入れるにはこの掲示板を利用したほうが手っ取り早い。
「たしか、『極大暗黒弾』に関するスレが立っていたような」
少し画面を下にスライドすると、『極大暗黒弾』獲得方法スレが存在した。カイはそこに書かれている内容を流し読みしていく。どれも、「100体討伐ではなかった」や「装備を杖だけにして討伐しても獲得しなかった」など、あまり有益な情報ではない。と、ここで1つの投稿が目に入った。そこには「スキルの性質が『ホーリーレイン』に似ているからそれでとどめ指すとかじゃね?」と書かれていた。それに対する返信は「ダメだった。もしかしたらほかの条件もいるかも」であった。
『ホーリーレイン』それは聖職、いわゆるヒーラーの主な攻撃手段となっているスキルの一つだ。魔法攻撃力ではなく、魔法防御力で計算するため、魔法攻撃力が低くても魔法防御力が高い聖職にとって、貴重なダメージソースである。しかし、カイは取得していない。取得条件に魔法防御力を要求してくる上に、需要が高く、市場に出回ることもほとんどない。
「『ホーリーレイン』は譲ってくれるわけないしなあ。……『ホーリーレイン』から作るか」
と、どんなスキルを合成しようかと考えたとき、ふと、カイは思いついた。この時間なら聖職が死霊の森で狩りをしてるんじゃないかと。カイは思い立ったが吉日と、死霊の森へと駆けていく。死霊の森とは、カイが『獄炎の一撃』を試し打ちした森のさらに奥にある森である。夜になるとゾンビ系モンスターが多く発生して、光魔法を得意とする聖職にとってかなり、効率がいい。
カイが思った通り、死霊の森には多くの聖職がパーティを組んで狩りを行っていた。
見るだけでいいんだ。端の方にいよう、そう考えたカイはモンスターの湧きが悪い辺りの岩に座り込む。
しばらく待つが、誰も『ホーリーレイン』は使用しない。それもそのはず、そもそも『ホーリーレイン』はレアよりのスキルであり、この場でレベル上げをしている聖職で所持している人はほとんどいなかった。さらに言えば、最近は、攻撃系の魔法スキルを多めにとって、魔法攻撃力をあげる聖職が流行ってきており、そこにいる人たちも魔法攻撃力依存の光魔法を使っているパターンが多かった。
見て盗むより、誰かに頼むほうが早いかとカイは考え、岩から腰をあげようとしたとき、1人の女性から声をかけられた。
「あら、傷ついたの? 『ヒール』で回復させてあげよっか?」
「あ、いや。そういうわけじゃないんだ」
その女性はまさに聖職であった。長い髪に、ベールをかぶせ、純白のローブを着ていた。装備品の豪華さから、高レベルのプレイヤーであると推測された。それなら、とカイはこのチャンスを逃さない。
「あの、もしよろしかったら『ホーリーレイン』を見せていただけませんか?」
女性は少し困惑したが、見せたところでそのスキルをどうにかするスキルは確認されていない。また、『ホーリーレイン』は既に取得条件が広まっているスキルである。取得条件を確認するスキルを持っていたとしても意味がない。そう判断した女性は、分かったわ。と言って『ホーリーレイン』を放った。空から降ってくる光の雨はその範囲内にいるモンスターにダメージを与える。カイはそのタイミングで『スキルマテリアル』を使用すると、女性にお礼を言い、ついでにMPポーションを渡してその場を後にした。
その様子を不思議そうに女性は眺めていた。
カイは再び路地裏に戻ると、『スキルマテリアル』の結果を確認する。
『ホーリースピア』+『???』→『ホーリーレイン』
と記されていた。カイはしめた、と思った。『ホーリーレイン』のもう一つのもととなるスキルはあたりをつけていたのだ。それは、『ホーリーレイン』を獲得する際に必要となるスキル『癒しの雨』である。『癒しの雨』は幸い購入している。カイはこれでできるだろうと確信して、『ホーリースピア』と『癒しの雨』を合成する。そして、数秒後、カイは『ホーリーレイン』を獲得する。予測通りのスキルが獲得できて喜んでいると、
「なんなの? そのスキル?」
カイの後ろには『ホーリーレイン』を見せた女性が立っていた。
☆☆☆☆☆☆
魔法スキル『ダーク』
・スキル屋で常時購入可能。
《闇の霧で攻撃》
魔法スキル『闇弾』
・闇属性の攻撃で爆弾ボーイにとどめを刺す。
《闇属性の弾を飛ばす》
魔法スキル『アイスボール』
・雪合戦で優勝する
《雪玉を飛ばす》
魔法スキル『ホーリーレイン』
・魔法防御力が100を超えている状態でかつ、『癒しの雨』を使用している状態で、モンスターを同時に2体以上光属性の魔法でとどめを刺す。
《光の雨で攻撃 ※魔法防御力参照》
魔法スキル『ヒール』
・聖職の初期スキル。スキル屋で常時購入可能。
《仲間1人を小回復させる》
魔法スキル『ホーリースピア』
・光属性の攻撃で槍兵ジュニアにとどめを刺す。
《光属性の槍を飛ばす》
魔法スキル『癒しの雨』
・天気が雨の状態の時、回復魔法を10回使用する。
《使用者の周りにHPが微回復するゾーンを生み出す》