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日本語の丸かじりで課題(ラスボス)退治★

高校生にもなって、未だ私は読書感想文のひとつも書けない。

本が読めないのではない。語彙力がないのだ。

目の前の原稿用紙をただただ見つめて、唖然とする。部屋の時計のカチカチという音が聞こえる。ダメだ。

夏休み最大にして最難関の課題。

だがあらゆる手を講じてもコピペ意外に完成させるしかないらしい。

コピペ……その言葉の響きがいかに誘惑に満ちているのか、あなたは知る由もないだろう。文章にしたときの私の語彙力は終末的なのだ。だがコピペなどしたが最後、夏休み最初の朝、うまい具合にクラス全員揃ったところで、教室のスピーカーがハウリングして「二年八組ぃ、馬場里ぃ、今すぐ職員室に来ぉい」と呼ばれるに決まっている。私の敵はいつも抜かりなどない奴らだ。

言うまでもなく私の名前は馬場里 杏(ばばりあん) 17歳。性別:たぶん女 語彙力:2、のいたって標準的な高校生だ。

あー、っと軽く叫んで椅子に寄りかかる。ギイと軋む椅子。こういう時は、一旦感想文など捨てて街に出よう。うん、そうしよう。


私服に着替え、ハイカラなキャフェーと足を向ける。

キャフェーに着いても、何度も感想文感想文感想文と現実が耳もとでボソボソ言っていたが、ガン無視を決め込んだ私はクールな顔してホットケーキを注文した。

いつ来ても感じのいい店内。幸せだなぁーとぼんやりしていると、向こうから「あっ」と声が聞こえた。ぽわーっとした顔であろう私はその声の主に赤面する。私のマブではないか。

「あ、阿久瀬ちゃん」

「杏もこの店来てたんだー」

「うん、けっこう前から」

「ところでさぁー昨日のライブさぁーやばすぎてさぁー」

「分かる分かる!いやもうかっこよすぎてー泣けたわ」

「特に50分あたりのとこずっと号泣しててー」

「ああもうやばかったよねーあれねー」

「うんもうやばすぎたー」

「すごすぎて圧倒だったわあれ」

彼女、私のマブ阿久瀬ちゃんは果てし無い受容力、とくに私の推しに関しては理解などという言葉以上の理解を有する。とにかく、マブだ。阿久瀬ちゃんとは高校に入ってからのクラスメートだけど、異常なまでにわかり合える。

「ってかさー」

「ん?」

「課題がさぁー」

「あー多いよね終わらないよね」

「読書感想文終わった?」

なぜ、そうなる。再び私はリアルという現実に逆トリップする。

「……いや、まだかな、あとちょっと残ってるかな」

私のうそつき。

「そー。私ね、もう終わったんだ。なんの本読んだの?」

「んーSDGsのやつかな」

「え、あれ読んだの?」

「……うん」

「私はクラシオドグノフトスキーのやつ読んだよ」

なんて答えたらよいのかもう分からない。

いいなあ語彙力のある人は!


そんなこんなで結局現実から逃げられないまま一日が終わろうとしていた。ベッドに体を投げ出し、ぼんやりとスマホを眺めながら、少し泣きそうになる。

何か降りてこないだろうか。アイデアみたいなものが。


……聞け……



「!?」


私は違法なヤクに手を出した覚えはない。同様に宗教的な境地に至ってもいなければ、RPGのやり過ぎでもない。断っておくが、もちろんイヤホンもしていない。



……お前に知恵の実を授けてやる…



あーありがとうございます感謝しますと、恐らく自分の幻覚であろう声に例を言う。



何だろう。何かすごい力が抜けて気持ちいい。ふわふわ浮いているみたいな、そんな感じがする。



はっ、と目を覚ます。寝起きのぼんやりとした頭で寝ていたことに驚く。



何と、目の前にA森県の特産品らしき果実が置いてあった。



魔が差す。



これを食えば、アダムとイヴ的な原理で語彙力が手にはいるんじゃね、と。



恐る恐る、丸かじりを試みる。やったことないな。



赤いその表面に前歯をたてたが最後、シャオッという小気味のいい音と共に果汁が溢れ出る。



……そこまでは、覚えている。



目を覚ました瞬間、私の脳は微かな疼きに気づく。あれだけ語彙力を欲していた私は、果たしてその目的を成就させたのだろうか?純粋な子犬のように自らの希求に応えようとする営みは、昨日も今日も変わらない。


ん?何か変だぞ……と思うそばから、



ふと、弾け出す言葉の色彩の豊かさに心踊ると共に、最前の疑問が頭をもたげる。


ややこしい上に回りくどい言葉で思考回路に電流が流れるもはやこれは不可抗力……



私は語彙力を手にしたのだ。



人類の最大の発明品あるいはごく限られた生き物しか手にすることができない言語は、このように経口摂取されたのだろうか。


あらゆる不条理或いは解明不能な神秘がその躯の一部を私という完結された全体集合に示す。



その誘惑に近い人間的好奇心と出発を心待にする思索の船を何とか振り払い、昨日のままの机に向かう。





そこには原稿用紙があった。




可能だ。




昨日の不可能が可能になった気がする。

原稿を手に取り、裏に一回下書きをしてみる。


まずは論旨の把握だ。こういう文章は作品の理解を示せば容易に文章になる。まずは全体を図式化し、筆者の事例に沿いなおかつ読者の興味を引く話題を探す。ニュースでもよいし、有名な作品や人物の逸話でもよい。





とりあえず導入部分の下書きはできた。あとはこれをどう自分の主張に持っていくか、だ。



トントン拍子で進む作業。



昨日までの私に言わせるなら「うそぉーナイわそんなこと絶対ないから」を実現化したのだ。


私は歓喜の山の頂上で鬨の声を上げる。遠かった雲に手が届きそうだ。



私の語彙力に満ちた生の一瞬が、今ここに確かな存在という軌跡を描く。最高の武器、最良の友を手にした私は、困難に満ちた若く膨大な人生への扉を開こうとしていた。


サラサラサラサラ……



ガクッ。



意識が遠ざかっていく。眠い。何かつまらない小説の主人公にでもなったような気分だ。



どうせなら、エルダーでテイルなゲームの世界にある日突然吸い込まれる小説の主人公になりたかった。そうそう、メガネをキュピーン!ってさせて、アニメ化もノベライズ化も果たすような、そんな小説の主人公に……



そうなったら、脱税にはくれぐれも気をつけてさ……





ラスト一文字を書いて、我が帝国語彙軍は撃沈した…… 




まあ皆さん……語彙「力」とはいっても、語彙「を適切に、正しく活用し、相手に伝わる能力」ではないということが、薄々お気づきになったでしょう……


あ、全てが全てこんなイカツイ調子ではありまっせん。語彙の実の持続時間には限りがあるとばい。

(語彙というより方言が出始めたこのへんで失礼)

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