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6.影響

「ララさんを見張ってちょうだい。もし、エントール様と会いそうになったら邪魔しなさい」

「はい」

フローフィリィアの命令に、ノルドは頭を下げた。


「あなた1人では大変かもしれない、でも頼みましたよ。エントール様との接触を避けることが一番重要だけど、他の方々との接触もできる限り邪魔をしなさい」

「はい」

「できる?」

「可能な限り、最大限の努力をして尽くします」

「ありがとう。期待しているわ」

「ご期待に沿えるようにいたします」

丁寧に頭を下げるノルドに、フローフィリィアは笑んでみせた。


***


ノルドをララの元に放ってからも、やはり、友人である令嬢からはララに関する訴えは途絶えない。

フローフィリィアは、令嬢たちに、自分が付き人の一人をどのように使っているかを話して聞かせた。

ご令嬢方も深く頷くようにフローフィリィアのアイデアを褒めた。


すでに5人の令嬢が、自分の使用人をララの周辺に置いている。

彼ら自身も、人数が増え、負担が減っているようで何よりだ。


たまに目にするララは、一人でいることが多い気がする。

少し元気がないようだが、一人きりなのに笑顔満開でいる方が不気味なので、あれが普通の表情かもしれないとも思われる。

それに、令息との接触を妨害しているが、令嬢との接触は特に妨害などしていないはず。

なのに傍に誰もいないというのなら、ララのそれまでの人脈が令息ばかりである証拠だろう。


その状態に、皆でララがどれほど嫌な女であるかを話し合う。


***


「フローフィリィア」

エントールからの打診で2人で会ったある日。

急に声まで改めて、エントールが真っ直ぐにフローフィリィアを呼んだ。

2人の時は基本的にエントールは愛称を呼ぶ。なのに略さず呼んだという事はとてもまじめな話なのだろう。


フローフィリィアが見つめると、エントールは少し怖い顔をした。

「ララ嬢に、嫌がらせを行っているようだね。すぐに止めるんだ」


この言葉に、フローフィリィアは眉をしかめて嫌悪を示した。


「リィア。心の狭い行いだ。改めなさい。嫉妬しているのだと大目に見ていたけれど、いつまで嫌がらせを続けるつもりだ。交友関係を断ち孤立させるなんて、全く褒められた行いでは無い」

エントールはまだ叱ってくる。


フローフィリィアは頬を軽く膨らませるようにして少し怒ったことをアピールしてみせ、対抗した。

「お言葉ですが、私たちはご令嬢方との接触を防ぐような行いまではしておりません。つまりララさんがお一人なのは、同性のご友人がおられないからです。それはララさんの交友関係の問題ですわ」

「気の毒だろう。同性同士の方が身分の差に敏感だ。私たちは哀れに思って声をかけているだけだ」


「では! トールは、それと同じような立場の男性に私が声をかけ続けても何とも思われないの!」

フローフィリィアは声を上げた。

エントールは難しい顔をしてフローフィリィアをじっと見ている。


「じゃあ、私も、私だって」

話しているうちに、理解してくれないエントールに腹が立ってきたフローフィリィアの言葉は震えていった。

エントールはため息をついた。

「落ち着いて。私は、きみに立場をわきまえて欲しいだけだ。きみはそんな些末なことに気を取られるべきじゃない。むしろ、そのような行為を窘めるべき知性と寛容を身に着けているべきだよ」

「嫌です!」

フローフィリィアはむきになった。


「・・・理解してくれると思っていたのに。失望してしまうよ、リィア」

「あなたは同じ立場になったことが無いから理解できないのです、トール!」

全く引こうとしないフローフィリィアに、エントールはまたため息をついた。


「せっかくのお茶の時間が台無しだね。残念だよ」


こんな言い方をされる覚えはない。

フローフィリィアは悔しくて奥歯を噛みしめた。


エントールが急に立ち上がり、フローフィリィアに近づいてくる。

フローフィリィアは何事かとじっと見た。

エントールの冷めたような顔!


「ほら。リィア」

ちょん、とエントールは、額を指先で軽く触れる程度につついた。

「そんなに怒っていては、せっかくの可愛く可憐な顔が台無しだよ」


怒らせているのはエントールではないか。

フローフィリィアがますます不満げになると、エントールは肩をすくめ、それから仕方なさそうに落胆したように、それでも笑みを浮かべてみせた。

「そのような行いは、きっとリィアに返ってくる。人の上に立つ者は、自ら行いを律しないと。きみだって分かっているだろう?」

「・・・」


言葉を受けて、ふっと怒りが抜けたフローフィリィアに気付き、エントールが改めて笑んだ。


***


大好きなエントールがフローフィリィアに告げた言葉。


フローフィリィアは、その後の授業も、夕食も、ぼんやりと言われた内容について考えた。


窓ガラスに自分の姿が映れば少し目に留める。


貴族令嬢のフローフィリィア。

可憐で可愛くて。美しくて。全てを手にしていて。


確かに、平民のララなんか足元にも及ばない人物であるべきだ。


廊下を歩き、誰かと会話し、建物の外に出て、空を見上げ、風が吹くのを感じて。

大勢の人がここに集まっている音も聞いて。


フローフィリィアは思った。


私は。こんな立場にいて、生きているのだから。


きっと後悔はしない。


好きに、自由な言葉を話して、生きていくの。


嫌なものは嫌だと言うし、さらに嫌な事になりそうなら、それを避けるために権力さえ振るうでしょう。


だって、そんな立場を得ているのだから。


それで、もし。


その結果として、もし、死んだあの子が怯えたような災難が、私に起ったら。


私は、嫌がって泣いて叫んで拒絶して、それでも満足するはずだ。


好きに振る舞った結果だと、受け入れるだろう。


その覚悟を持って、自由に生きていこう。

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