28.卒業
本日3話目
いよいよ、卒業の日が明後日に迫った。
フローフィリィアは、皆へ贈り物を渡していった。お菓子と、オーダーメイドで作らせたペン。
皆、友情の証というペンに感激した。
それぞれの名前を彫り込み、一人一人に合わせて少しだけ意匠も変えてある。一人一人が好む花や宝石にヒントを得た。普段から交流がなくては作れないものだ。
なお、一体感ももたせたいために、共通したデザイン部分もある。つまり工夫して作った品物だ。
なお、もし、他の人が、この品を望んだ場合、モーリスに頼めば自費購入とはいえ入手できる、という情報も同時に皆に伝えておく。
その方法があると先に知っていてもらった方が良いと判断したためだ。
初めは皆不思議そうだったが、トルーティアの提案だというと、なるほどと皆納得した様子だ。
教師にも、同じようにお菓子とペンと手紙を贈った。ペンは、友人たちの分の装飾に凝った品とは違い、実用的で重厚なものを選んだ。
皆それぞれ喜んでくれた。フローフィリィアも一安心だ。
そして。
***
「ティア。迎えに来たよ」
「はい」
盛大にパーティが開かれる学校の最終日。皆が思い思いに別れを惜しみ、前途を祝う日。
寮の部屋にまでエントールが迎えに来てくれた。学生最後の日だから、と言って。
現れた姿にフローフィリィアは見惚れた。
絵に描いた、煌めく王子様だ。
それが自分に向けて優しい、しかも自分に焦がれていると分かる眼差しを向けてくれている。
自分の姿に見惚れてくれている。
最近、フローフィリィアは胸が高鳴りすぎて言葉が出せない。
赤面してしまう。堂々としていられない。
ただの恋する少女のようだ。
「行こう」
照れてしまったフローフィリィアをエントールがエスコートしてくれる。
今日のドレスには、エントールが今日のためにと贈ってくれたネックレスを合わせた。
エントールの胸元にも、フローフィリィアが選んだ装飾品がつけられている。
幸せだと思う。
***
パーティは華やかだ。
皆が口々にフローフィリィアの卒業を祝い、別れを惜しむ。
手をギュッと握ってくる。涙さえ浮かべて。
フローフィリィアも感激してしまう。
エントールの傍にいるが、皆が押し寄せるように取り囲むので、エントールの方が苦笑している。
「フローフィリィアの人気はすごいな」
「エントール様がおられてこその私ですわ」
と答えると、周囲から憧れるようなキャァという悲鳴が上がる。恥ずかしくなって思わず口をつぐんで俯いてしまう。エントールが嬉しそうにフローフィリィアの腰を引き寄せる。
ダンスを始めだす者たちがいる。
挨拶が殺到して動けなかったが、あまりに人だかりが過ぎるために、エントールが人の輪から抜けるためだろう、声を上げてフローフィリィアをダンスに誘った。
勿論、フローフィリィアが断るはずもない。
大勢が注目する中で二人で踊る。
王子様にお姫様。
きっと誰から見ても素晴らしく美しい事だろう。
ダンスの中で、フローフィリィアはエントールの胸元にそっとよった。
「幸せで、夢のようです」
「私も同じだ」
囁き合うだけでこれ以上ないほど幸せが満ちる。
夢ではない事も知っている。
だけど、奇跡だとも知っている。
なんて、愚かなの、お姫様は。この煌めきを自ら放り捨てたなんて。
なんて美しいの。この場所は。昔のあの泥だらけの生き方だって、本物だったのに。
信じられない。でも、これが現実。
***
2曲続けて躍ったので、エントールが皆のためにとフローフィリィアとのダンスを終えた。
「私たちは憧れの存在だからね。きっと他にダンスを切望している人がいる。今日だけは大目にみよう」
エントールの言いように、クスクスとフローフィリィアは笑った。
「えぇ。今日だけは大目に見て差し上げますわ、エントール様」
皆の方を揃って向けば、皆も、ダンスに誘って良いタイミングと理解したようだ。
期待したような顔で近寄ってくるものが早速いる。皆それぞれに高揚している。
フローフィリィアには令息が。エントールにも令嬢がアピールしてくる。それぞれ快く申し込みを受けた。
***
「俺と、踊ってもらえませんか。フローフィリィア様」
少し休もうかと思ったところに、フローフィリィアは視線を上げた。モーリスだった。
「まぁ」
とフローフィリィアは呟いた。
モーリスがらしくなく真剣な顔でフローフィリィアを見つめていた。
「最後の思い出に」
少し離れて令嬢たちと談笑中のエントールが、こちらに反応したのがフローフィリィアには見えた。少し雰囲気を険しくしたので、警戒した様子。
「・・・どうか」
と切望するように乞われて、フローフィリィアは頷いてやった。
モーリスがホッとした様子。
***
どこか硬い表情のモーリスとダンス。
何も言わないので、フローフィリィアからお礼を言った。
「感謝していますわ、モーリス。私たちの卒業後も色々期待していますわ」
「分かってる」
「あら。私にはやっぱり乱暴な口調が出ますのね」
モーリスが酷く真剣な顔でじっと見つめる。
「お顔がとても厳しいですわよ」
「踏まないように注意してるからだ」
「そうでしたの」
でも、トルーティアと踊っていた時はもっと気楽に笑っていたはず。
「・・・聞いてみたかった。もし・・・俺が取り持たなかったら、どうしてた?」
「え?」
クルリ、と回転させられる。きれいに周る。
「あんたが余ったら、あんたが、俺のところに来たか?」
フローフィリィアも真顔でじっとモーリスを見た。
「行きませんわ」
とフローフィリィアは少し逸らした視線を、モーリスに再び戻して、真っ直ぐに告げた。
「エントール様のところにしか、行きません」
「そうだな」
モーリスが優しく笑んだ。
またクルリとターンさせられる。
「おめでと。あんた、最高に綺麗だよ」
「ありがとうございます」
「手が届かないほど綺麗だ」
とモーリスが言った。
「そうですわ」
とフローフィリィアは微笑んでみせた。
***
「リィア」
モーリスとのダンスが終わるのを、エントールが焦ったように待っていた。フローフィリィアを囲むように迎えてくれる。
「戻りましたわ」
とフローフィリィアは冗談のように笑って見せた。
エントールがじっとフローフィリィアと視線を合わせる。覗き込もうとする。
まるで、いつかの日、フローフィリィアの正体を見抜こうとしたように。
エントールは心配そうにしてから、息を吐いた。
「楽しかった?」
と問いかけてきたが、ぎこちない。無理をして取り繕っている。
エントールは、モーリスを警戒している。
きっと、モーリスがフローフィリィアを特別に思っているのに気づいている。
困ったので、フローフィリィアはエントールの手を取って、指を握ってみせた。意味はない。ただ接触したかっただけだ。
「疲れた?」
「いいえ」
と笑って答えて、エントールを見つめる。
エントールは心配したようにじっと見ている。
きっと、フローフィリィアがモーリスの想いに気付いたことに気づいている。




