27.卒業に向けて
本日2話目
浮かれるような日々が過ぎていく。
フローフィリィアは卒業となるので、教師から特別な授業も受けた。教師がどうしても伝えたい箇所をギュッと凝縮して教えてくれるのだ。しかも特製の図などももらえる。
相当な特別扱いだとフローフィリィアにもよく分かる。
一応、異性の教師と2人きりを避けるために、科目別に、その授業に高い興味を持つ友人も連れていくが、皆も教師のフローフィリィアへの一生懸命さに驚き感心している。
どうやら、フローフィリィアに熱心に教え込む教師がいるのを知った他の教師が、未来の王妃確定のフローフィリィアに、我も我もと争う様子。
有難いけれど、ちょっと迷惑でもある。争うように時間を確保しようとするのだから。
一方で、それぞれの教師が、様々に考え抜いた贈り物をしてくるのが楽しみでもある。
ただ、ほとんどが、フローフィリィアにとっては興味が無い品物だ。やはり学校の教師は変わっていて、相手の興味のあるものよりも自分の興味ある品を贈ろうとする。おそらくフローフィリィアを理解者だと感じているのだろう。そう思うと、老齢の教師たちの行動も微笑ましい。
せっかくの品物だが、きっと価値をきちんと理解できる教師たちの元にあった方が良いだろう。だから、基本的にはフローフィリィアは贈呈を受けつつも、品物自体は保管など一番理解している教師に託す、という形に収めている。その形が一番、教師も喜ぶようだから。
友人たちからも、何かにつけてお別れを惜しむ品を続々と貰う。
こちらはフローフィリィアが使用することを考え抜いた品である事が多くて、喜んで受け取る。
一方で、こちらからの御礼の品物も考えなければ。
***
「モーリス、商人として何か良いアイデアをお持ちでは無くて? 品物が決まれば、あなたの商店から買わせていただくこともできますわ」
本日も中庭でのお茶をすることになったフローフィリィアは、エントールの隣にいるモーリスに尋ねてみた。なお、トルーティアも同席している。つまり、トルーティアとモーリスの仲を取り持つ計画は未だに進行中だ。
「あぁ、じゃあ、いっそ全員に同じものを渡したらどうでしょうか。仲良しの証で同じ品物。これから流行るやり方のはずだ」
フローフィリィアへの口調も、丁寧に改める努力をしているモーリスが答える。
「まぁ。皆様に同じ品物ですか?」
「リィアからなら、皆喜ぶと思うな」
驚いたフローフィリィアに、優し気にエントールが口を出す。トルーティアも頷いてフローフィリィアを見る。
「そうですわね・・・」
フローフィリィアは考える。
皆で同じもの。喜んでくれるもの。
そうだ、皆、可愛いペンを作っては自慢する事も多い。ペンではどうだろう。
「可愛く作ったペンにいたしましょうか。皆様のお名前も入れたいわ」
「良いね」
と即座に肯定するのはエントールだ。
「あの、フローフィリィア様」
「なぁに」
遠慮がちにトルーティアが申し出てきた。
「貰えなかった方が寂しい思いをすると思いますわ」
「・・・まぁ」
聞いていたエントールが怖い顔になった。
けれどフローフィリィアには分かっている。トルーティアは聡明だから、フローフィリィアのために心配して言ってくれたのだろう。
「そうですわね。それは可哀想ですわ。どうしましょう」
「いっそ学校中、皆にやったらどうだ」
とは少し面倒くさそうなモーリスだ。
「モーリス、それだけの数を揃えられますの? 全てオーダーメイドにいたしますわよ、私」
「・・・」
少しモーリスが動揺して返事をしそこねた。最高級品、しかもそれぞれカスタマイズ希望だとしたらきっと間に合わないはず。
「それに、親しい方へのお礼の品物ですもの。学校の方全てに同じものというのは、私自身が納得できませんわ」
「モーリス。・・・差し出がましいようだけれど、例えばフローフィリィア様がペンを下さったとして、それを羨ましがった誰かがモーリスに依頼すれば、同じようなものは作れますの?」
「・・・作って良いならな」
モーリスが少し不思議そうにトルーティアに答える。
フローフィリィアもキョトンとトルーティアを見つめる。エントールはじっと観察しているようだ。
「あの、でしたら・・・」
少し顔を赤らめながらも、トルーティアはフローフィリィアをチラと見ながら恥ずかしそうに言った。フローフィリィアはつい応援に手を握りしめてやりたくなった。
「貰えなくて寂しくなったり憧れた者は、モーリスから買える許可を皆様に出されてはいかが? 同じデザインのものを」
「まぁ」
少し意味が掴み兼ねて声を上げただけのフローフィリィアに、トルーティアは一生懸命告げた。
「その、フローフィリィア様から贈っていただけたらとても嬉しいですわ、きっと考えて贈ってくださるのだと分かりますもの・・・。ただ、不平が出ては問題になりますし、実際もらえなかった者はとても落胆すると思いますの。ですから、フローフィリィア様とは直接接点がなくとも憧れているような人でも、自分で購入さえすれば似た品物を持つことができるようにされた方が、きっとフローフィリィア様のために宜しいと思いますの。その方が不満や不平が少なくなると思います。フローフィリィア様は皆が憧れる人なのですから」
友人のトルーティアの言葉に、フローフィリィアは驚いて言葉も出ない。
困ってエントールを見ると、彼はゆっくりと柔らかく頷いた。トルーティアの案に賛成のようだ。
モーリスは、と見ると、ニヤニヤ嬉しそうだ。
「どうしてそんな顔をしていますの?」
不思議になってフローフィリィアがつい尋ねる。
ニマニマとした表情を隠せないままモーリスが答える。
「良い商売になると思うと。つい」
それからモーリスは良い笑顔でトルーティアを見た。よくやった、とでも言うような顔だ。しかし商人が令嬢にそんな表情をするのは失礼ではないか。
モーリスの失礼さ加減にムッとしつつ、フローフィリィアはトルーティアに視線を戻した。
トルーティアは困っている。フローフィリィアの判断が出ないからだ。失礼な提案をしたのかもしれないと不安そうにも見えた。
「考えて、みますわ。貴重なご提案をありがとうございます、トルーティア様」
「はい。あの、不要な意見でしたら、気になさいませんように」
「良い案だと俺は思うけどな」
とモーリスが楽しみにするように言った。確かに、モーリスの懐はとても潤いそうだ。
「どう思われます、エントール様」
「良い案だと思うよ」
エントールが包むように穏やかに答えるので、フローフィリィアは安心を覚える。それから嬉しくなって笑みが出る。
***
一方で、寮についても、退出の準備を進めている。一度自宅に戻る事になるが、すぐに準備のためにエントールの住む王城に移る事になるだろう。
結婚式は、卒業してから1年後のはず。
通達してから、実際の準備に1年ほどの期間が必要だからだ。
式は1年後になるが、実際はフローフィリィアは準備期間として城に住み、エントールの婚約者としての扱いを受けて過ごす。エントールがフローフィリィアを傍にと望んだから。




