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19.騒ぎ

フローフィリィアたちは、すぐに行動した。

けれど、事態はそれよりも早く進行してしまっていた。


友人のトルーティアが、キリスとララに対峙して、それを周りが囲むような状態になっている。


「あの、誰かエスコート役が必要だって、親切で言ってくださったのです!」

慌てたララの声が聞こえてくる。

少し幼い甘ささえ感じる可愛らしい声だ。


「あなたとお話することはないわ。私は、キリス様にお尋ねしたのです」

キッパリと言い切ったのは友人のトルーティアだ。


近づきながら、心配でフローフィリィアはエントールの腕に沿える手に力を入れた。


「キリス」

エントールが、少し苦々し気に一言だけ名前を零す。

それからフローフィリィアの耳元に囁く。

「私たちは部外者だ。口を挟まず様子を見るべきだ」

「でも。トルーティア様はお1人で」


「だが二人の問題だ」

「本当に?」

本当にそう思うのか? ララに甘い顔をするのはエントールも同じではないか。

今回は、ララのエスコート役に踏み切ったのがキリスというだけでは?


「少し様子を見る」

強くたしなめられるように言われて、フローフィリィアは悔しさを感じながら黙り込んだ。


エントールが黙り込んだフローフィリィアを連れ、人垣の一番前に出た。

キリスとララが良く見える。トルーティアもよく見える。


キリスとララとトルーティアは、エントールとフローフィリィアに気付いたようだ。

キリスはどこか警戒するような表情になり、ララは不安そうに助けを求めるような顔をした。

トルーティアは硬い表情のままだが、フローフィリィアに少しだけ挨拶するようにごく軽い礼をした。


「キリス様」

話を促したのはトルーティアだ。

このような大勢の前で強く振る舞えるのは、トルーティアの心が、すでにキリスから離れきっているからなのかもしれない。


キリスはムッとしたようだ。

「今日のパーティは簡単なものだ。誰と参加しようが構わない、自由だ。必要な時はきみを立ててきた。だけど今日ぐらい構わないだろう。今日のは一人で参加しても構わないものだし、きみは、私のエスコートなしでも構わないだろう? とても気が強いのだから」


まぁ、と聞いているフローフィリィアの顔が怒りで染まりそうになる。

だけど我慢する。

トルーティアの反撃を信じたい。


「キリス様。私は、これでも心配して差し上げているのです。どうして惑わされていらっしゃるの? その人、他の方たちにも良い顔をされていますのに。特別に扱う必要がどこにありますの? 人の婚約者のエスコートを喜んで受けるような礼儀知らず」

「この人を侮辱するな!」

キリスが怒鳴った。

ララも何かを言いかけたが、キリスの方が早かった。何も言えなくなったララは困ったようになりながらも、きつい物言いのトルーティアをグッとにらんだ。


「事実ですわ。お名前は差し控えますけれど、どれだけの関係をかき乱すのでしょう。私とキリス様の間は冷え切って。けれどキリス様、その人は他の方とも同じように仲良くなさって。お気づきでありませんの?」

「醜い嫉妬だな、トルーティア嬢。この人をそんなに悪く言うとは、後で後悔しても遅い」


「今言わなければ生涯悔やみそうですわ。大きなお世話です。キリス様はお馬鹿ね、私が教えないと何も分からない泣いてばっかりの男の子のまま!」

トルーティアの明らかな挑発に、キリスはますます顔を赤らめた。

ララが庇った。

「それ、酷いです、その、ちょっとした善意で、私を誘ってくださっただけなのに」

「あらぁ。ちょっとした善意?」

トルーティアの棘がララに向かうので、キリスは真っ赤な顔をして睨みつけながら、ララを後ろに隠そうとした。

だけどララは言い返した。

「そうです。楽しい思い出にって、言ってくださったの。善意だわ」


トルーティアは意地悪く笑った。

「学校内の中には、懇意な人はおりませんものね、ララさんには。学外の方を誘うことができたら、その素敵な人にエスコートをお願いできましたのにね。お気の毒に」


この言葉に、ララは目を丸くしてから、動揺を見せて顔を赤らめた。

キリスが、ララのそんな表情を目にして驚いた。


「まぁ」

フローフィリィアは、零してしまった声を遅まきながら静めるように口に片手を当ててみた。

チラ、と傍のエントールを見上げてみると、エントールもララの様子を驚いたように見つめている。


詳しくを知りませんけれど、効果的で素敵ですわ、トルーティア様。

フローフィリィアはトルーティアに熱い視線を送り、精いっぱい内心で応援する。


「だからといって、ホイホイと、他の者の手を取るなんて。浅ましいにもほどがありますわ。善意? 心底そんな風に思っていらっしゃるの? 下心なしに婚約者を放置してまであなたに声をかけるなんてありませんわよ。常識をどこかに置いていらしたの?」

「そっ、酷いです、ただ一緒に来ただけでそこまで言われる覚えはありません!」

「本当に?」

「・・・っ!」

ララは言葉に詰まった。チラとキリスを見る。キリスが動揺を見せているのを見て、ララは肩から力を抜いた。


「・・・申し訳ありません。あの、簡単なパーティだと聞いて、構わないし許してくれると、聞いて、それで私も勝手が分からなくて・・・」

ララはため息をそのまま言葉にするように謝罪した。

ツン、とトルーティアが馬鹿にしたように顎を上げる。

「私はあなたからではなくキリス様とお話をしているのです」


ララが、チラリとキリスを見る。

キリスはじっとララを見ていた。


キリスは、何度か息を飲むようにして、やっとトルーティアを見た。そして睨んだ。

「あなたのような心の狭い、言葉に棘ばかりある人とは私は一緒にいたくない」


この発言に、エントールが驚いたようだ。

一歩前に出ようとした、のを、瞬間的にフローフィリィアは腕に絡める手の力を強めて引くようにする。

エントールが驚いたようにフローフィリィアを見る。

フローフィリィアもじっと見上げる。


もう少し様子を見ましょう。

と視線で訴える。


だって、このままいけば。


キリスは破滅する。


それを察したから、エントールが動こうとした。

だけど、フローフィリィアはトルーティアの友人だ。キリスが自爆するなら、その方がトルーティアにとって良い。きっと、トルーティアはそれを狙っている。


大勢の前で騒ぎにして、トルーティアはどうしてもキリスを切り捨てたいのだ。

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