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12.会う

手紙に目を通す。

端的に言えば、フローフィリィアの事が気になる、あなたに会いたいという内容だ。

以前のエントールなら、これはいつもの事だった。だが、最近では無かったことだ。


フローフィリィアは少しだけ思案し、以前のように返事をしたためた。


「アリア。午後にエントール様をお招きするわ」

「はい。かしこまりました」

アリアが、フローフィリィアの快い返事を受け取って礼をする。


アリアが退出してから、フローフィリィアは部屋の中の姿身に目を遣り、自分の姿を見つめた。


手紙があったその日に会うなど、普通は稀な事だろう。

だがエントールとフローフィリィアにおいては、打診してすぐに会うなど日常茶飯事だった。以前なら。


基本的には、エントールからの打診に、フローフィリィアが『いつでも大歓迎』と答えるからそのようになる。

それはフローフィリィアがエントールに惚れていたからで、エントールも迅速に動く程にフローフィリィアに愛情を持っていたからだろう。


立ち上がり、フローフィリィアは姿見に近寄る。

己の姿をじっと見つめて、

「さて」

と呟いた。己に言い聞かせるように。


私は、以前までのフローフィリィアではない。


もともと、エントールがフローフィリィアに好意を寄せていたのは一目惚れだったらしい。

とはいえ、身分や年齢からフローフィリィアが王子の相手に適任だった。だから会う機会が設けられた。そして見事に王子はフローフィリィアを気に入り自分のものにしたがり、幼いフローフィリィアも優しく見目の良い王子をすぐ好きになった。

それから、2人は交流して2人の時間を育てていく。


つまり。

王子は外見に惚れたというわけだ。


王子は幼い方が好みなのだろうか。確かあのララは幼い雰囲気だ。

一方で、すでにフローフィリィアには大人の美しさの方が優っている。


フローフィリィアは決心した。

彼の好みに寄せるべきだ。

私はもう本物ではない。本物の行動を真似たところで所詮は嘘だ。

ならば。

ララのせいで別人になってしまったのだと比喩のように言いながら、新たなフローフィリィアが王子を魅了していこう。


***


フローフィリィアは、アリアとモリノを急かせて、王子のためのもてなしの空間を作った。

さりげなく、思い出の品を配置する。ふと話題になるように。


王子の好みの茶葉は分かっている。それは当たり前。

だが、同じものばかりを出す必要はない。少しアレンジを施したい。


「お嬢様・・・申し訳ございません。時間的に、お口に合うブレンドを決めるのは難しいかと・・・」

うなだれたようにモリノが頭を下げた。

フローフィリィアは瞬いたが、

「そう」

と呟いた。


「できないものは仕方ないわ。・・・そうね、中途半端なものは良くないもの。では、何か良いアイデアはないかしら?」

「お嬢様は、新しさを、エントール様に印象付けたいのでしょうか?」

「えぇ。お心を掴みたいの」

正直な告白に、モリノは痛ましそうな心配そうな顔になる。


「・・・媚薬を、お使いになりますか?」

などと申し出てきたので、フローフィリィアは目を丸くした。


***


まるで昔のように、エントールは返事をもらってすぐにフローフィリィアを訪れた。

フローフィリィアはニコリと軽く笑んで見せるに留めた。

今までの印象から変えるために。今までは自らいそいそと出迎えに行っていたが。


エントールも今までとは違う様子に少し不思議そうだ。

それから部屋もぐるりと見回した。

「・・・随分、片付いている部屋だね」

などと感想を漏らしたが、これは『殺風景な部屋だね』というのを曖昧に表現しただけだ。


フローフィリィアは丁寧に頷いて見せた。

「はい。他の部屋はドレスの採寸などで片付いておりませんの。けれどエントール様にはぜひ来ていただきたいと思いましたから。それに男性はシンプルな部屋も好むと聞きましたし。何より、エントール様は私に会いに来てくださるのですもの、お部屋がこちらでも構いませんでしょう?」

「・・・あぁ、そうだね」

エントールは戸惑ったようだ。軽く扱われたのか判断しかねている様子。

なお、部屋の変更を提案したのは、恋愛指南役にしたグルマンだ。急な声掛けにも反応をしてくれたところは好ましい。給金をたっぷり弾むとしよう。

ところでモリノの媚薬案は今回は不採用である。初めから薬に頼って良いのか判断がつかなかったからだ。


「いつもとは違う雰囲気でお話するのも良いかと思いましたの」

改めてフローフィリィアが説明して、アリアが用意してきた茶器を手元に寄せた。

エントールが不思議そうに見ている。

少し不器用な手つきで、フローフィリィアがティーカップに紅茶を注いだ。


少し見つめてから、エントールが笑った。

「どうした、リィア? 新しい趣味かな」

「トールに、いれてみたかったんですの。でも案外難しいですわ」


「そのようだね。私の方がうまくできそうだよ」

「まぁ。じゃあ、私にいれてみてくださる?」

少し拗ねたようにおねだりをする。


エントールはどこか不思議そうにフローフィリィアを見やってから、すぐに穏やかな表情に落ち着いた。

「周りの者の仕事を取り上げるのは良くない事だよ」

「まぁ。たまには良いと思います」


エントールはおかしそうになりながら、

「でも、せっかくだから頂くよ、リィアの入れたお茶をね」

と言った。

「私もトールの入れてくださるお茶を飲みたかったですわ」

フローフィリィアが拗ねながら、アリアが注ぐお茶を見つめる。

エントールが少しバツの悪そうな顔をした。


「リィアは、なんだか、印象が変わったね」

エントールがそっと確認するように呟く。


「そうでしょうか」

フローフィリィアは、まずは軽くうそぶいて笑ってみせた。

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