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【連載版】エルフの旦那と魔術師の嫁   作者: さつき けい


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森のエルフと平凡なエルフ

 「始まりの町」露店商の青年エルフが目覚めたのは、知らない部屋だった。

身体がだるくて重い。おそらく今の自分には何かが足りないのだろう。

そう思いつつ、恐る恐る回りの状況を見る。

やがてバタバタと足音がして扉が開く。


「おはよう、ギドちゃん。もう夕方だけど!」


ぱふん、と自分の寝ているベッドに座り顔を見る。

大丈夫、分かる。これは妻のタミリアだ。

脳筋魔術師で家では食いしん坊で、今では最愛の人。容易く触れないけどなー。


「あー、おはよう。どれくらい寝てたかな?」


扉の横に待機していたダークエルフの若者がコホンと咳をして答えた。


「丸一日ですね。今はお倒れになられた翌日の夕方です」


彼は自分達の護衛で、最近は雑用係り兼任のカネルさんだ、とギードは思い出す。


(うん、ちゃんと頭は動いている)


自分は露店商で、森の守護者の使いっぱしりで、エルフのギード。

森に帰りたい。精気が足りない。

決して逃げる訳じゃない。

いや、断じて。

ごめん、もう少し考えさせてください。

ギードは心の中で言い訳をつぶやき続ける。

起き上がると後を頼んで、一旦森へ飛ぶことにした。





 ギードが出かける準備をしていると、暗赤色の髪の女性騎士が部屋に入って来た。

この人はニヤニヤした顔が普通なのかな。女性なのに何て残念なんだ。


「どうだい?、いい物件だろう?」

「いえ、まだ何とも」


とりあえず体調を戻すため、一旦森へ帰るというと睨んでくる。

怖い、この人。普通にしてても殺気が漏れてる。

若いからだろうが、エグザスみたいに上手に隠して欲しいものである。

部屋を出てタミリアを探す。


「タミちゃん、ちょっと出かけるから後をお願い」

「森へ行くの?」


着いてきたそうにしているが、今は自分自身の精気が足りないので二人で飛ぶのは難しい。

森の奥だから大丈夫だよ、となぐさめて軽く抱きしめる。

驚いて身体を硬くしたのは分かったが、お返しとばかりに頬に口付けされた。

やーらーれーたー。殴られるのを覚悟してたのに、そうくるかー。

顔を赤くしたまま「じゃあ」と飛んだ。



 エルフの森の帰還魔法は、母なる木の根元へと飛ぶ魔法である。

今までは他のエルフの目を避けていたが、今回はまだたくさんのエルフ達が木の根元で憩っていた。

そこへ現れたギードの姿に周辺はざわついた。

今はそんなことに気を使えない状態であるギードは、奥へ向かって歩き出す。


「何しに来た!、ここはお前の来るところじゃないぞ」


誰かが叫んだ。皆一様に汚れたモノを見るように顔をしかめる。

ギードがここで大勢のエルフに姿を見せるのはずいぶんと久しぶりのことだろう。

しかし長命で基本引きこもりの彼らの態度は何にも変わっていない。

自分はこんなにも変わったというのに。

 罵声だけでなく、石や小枝も飛んできた。そのほとんどは足元に落ちるだけで当たりはしない。

ギードは足を止め、あえてそれらを見る。

子供の頃、その石は容赦なく彼の身体を傷つけた。

しかし今は大人の姿をしている彼には、あのエルフ達は報復を恐れ、直接危害を加える事が出来ない。


(そうか、小心者っていうのは自分だけじゃなかったんだ)


ギードは、引きこもりで小心者というのはエルフ全体の特性なのだと今初めて知った。


 誇り高いエルフ族の戦士は戦で多くが亡くなった。

生き残った彼らはすっかり心が弱くなってしまったのだ。

傲慢で横柄。それは裏返せば弱いからに他ならない。依存心が強く、同じ民族で固まっていないと安心出来ない。

人族との争いが終った後、一致団結して怒りを、哀しみをぶつける対象を求めたのだろう。

自分達より弱いモノを、簡単に反抗できないモノを、自分達が安心するために。

そしてそこにたまたま現れた異質な赤子をその対象としたのだ。


(なんだ、簡単なことだったんだな)


ずっと思っていた。何故自分がこんな目に遭うのか。なぜ、なぜ、どうして。

ギード自身が傲慢なエルフにならなかったのは、ひとえに彼がひとりだったからだ。

他のエルフ達に混じっていれば、もしかしたら彼らと同じになっていたかもしれない。

ギードはそんな恐怖に身を震わせた。


 彼を追いかけて来た子供のエルフが、木の枝で彼を殴りつける。

何も知らないはずの子供でもこうやって彼を傷つける。

たぶんそれを避けても「生意気だ」とか言って、ギードを罵るだろう。

何年も姿を見せなくても、ただギードという存在だけが彼らの心のよりどころだった。

子供の行為に身も心も傷つきながら、ギードは回りのエルフ達を見る。


「長老たちに伝えて下さい。森の守護者たる老木の精霊の使者のギードが話しがある、と」


明日の朝、また来ますと告げて再び奥へと歩き出す。

初めて彼の声を聞いたエルフ達は呆然とする。堂々とした青年エルフの声だった。

追って来る者は居ない。





 木のウロに到着すると、古木の精たちが歓迎してくれる。


「よく戻ったな、ギードよ」

「ただいま、じーちゃん」


彼の覚悟を見ていた老木の精は、彼の部屋に大量の果実などの食べ物を出してくれた。

ギードはそれを少し口にしただけで横になった。

やはりまだ精気が足りない。

その時、ギードは自分の中のあのいにしえの精霊が動いたのが分かった。

しかしどうすることも出来ず眠りに落ちた。

 夢の中で彼は不思議な声を聞いていた。


 妖精王の眷属たる、いにしえの精霊よ

 この若者をどうするつもりなのだ


 我は何もせんよ

 この者の親に頼まれたから守ってやるだけだ


 この若者がわしの覚えておる夫婦の子供ならば

 容姿がだいぶ違っておったが


 おそらく簡単に見抜けぬよう加護をかけたのであろうな

 我が見たあの者はエルフの古代種、先祖がえりのような姿をしておったぞ


 ほぉ、ではやはりあの夫婦の子供なのだな

 あの衣装があの青年の本来の姿を取り戻す


 我もこの者が古代の衣装を持っておるとは知らなかった

 しかしあの夫婦は何故、森を出てまであの子供を守ったのであろうか


 大きな戦の後、この森もエルフも変わってしもうた

 あの子供が異常な力を持っておることが分かれば、また戦になるやもしれんと恐れたのであろう


 それを押し込めるための加護があの子供を苦しめておった

 我はあの子供の中でずっとその姿をみておった、哀れなものだった


暗闇の中、その夢はギードに囁き続ける。

しかし彼はそろそろ目覚めるだろう、最後までその声を聞き続ける事は出来なかった。

それでも、彼の知らぬところで話は続いていた。


 いにしえの精霊よ

 あの青年を妖精王とするのか


 それはまだ先の話であろうよ、老木の精霊よ

 そしてそれを選ぶのは我ではなく、あの者自身であるしな


彼がその話を聞いていたら、きっとひっくり返って再起不能になっていた事だろう。



 翌朝、しっかりと休んだギードはいつも通りの時間に起き出した。

不在中分の森の世話をし、遺跡を見回り、そして食事を取る。


「行ってくるよ、じーちゃん。また明日ね」


木のウロの彼の部屋にはまた新しい備蓄が出来ていた。


「ああ、また頼む」


ギードは母なる木の根元に向かう。

そこにはすでに長老たちが集まっていた。



 現在、長老と呼ばれているエルフは五名ほどである。

エルフ族に限らず妖精族の中でも普通よりも長く生きる者は長老と呼ばれる。

そしてエルフの森では長老たちによる会議で物事が決められている。

最高責任者といえる最長老は今空席である。彼らが牽制しあっているため決まっていないのだ。

 その中でもギードの養父たる長老は、やはり他のエルフからは疎まれていた。

赤子であろうと異物は異物なのだと、未だに大半のエルフは納得していなかった。

それが彼の娘ネイミにとっては面白くなかったのだ。

おそらく最初のエルフの調査はネイミ自身か、彼女の親の調査だったのだろう。

その結果、長老としての地位の低さはギードのせいだとされても仕方がない。

この国ではやさしさより力が尊ばれるのだ。


(ネイミには悪いことしたな)


でも過ぎてしまったことはどうしようもない。

ギードはやれることしか出来ない。

そう諦めて切り替える。それが早い。


「お集まりいただいて感謝致します」


母なる木の中には一定の者しか入ることを許されない空間が存在する。

長老会議など、大切な事を話し合うための場所だ。

今そこには五名の長老と一人の青年のエルフがいる。


「我々には何も話すことはない。さっさと立ち去るがいい」

「今お前は町に住んでおるのだろう、帰ってこずともよいぞ」

「老木の精霊には新たなる使者を推薦しておこう、お前は解雇だ、よいな」


見かけはまだ若いエルフだが、彼らはすでに何百年も生きた老エルフである。

先の戦での生き残り。戦うことを恐れる、弱者のエルフを作ってきた者たちだ。

ギードは自分の養父である長老を見る。


「ネイミ様にお会いしました。美しくご成長され、この国の第二王子のご寵愛を受けておられました」


彼女はその弓の腕を見込まれ国の弓兵隊に所属していた。

長く戻って来ていないようで、養父は相好を崩して喜んだ。

周りの長老達がざわめく。何故そんなことを知っているのか、と詰め寄ってくる。


「私はある人族の女性と結婚しました。彼女は国王に謁見を賜るほどの強者なのです」


そこでネイミに逢ったと報告した。

そしてギードは他の長老達を無視して、養父にだけ話をする。


「私はこの先、おそらく妻と一緒に人族の中で暮らすでしょう」


長い間お世話になりました。と深く敬意を込めて頭を下げる。


「でもこれから先、もし私の力が必要になりましたら、いつでも声をかけて下さい」


養父がうれしそうに頷く中、他の長老達が嘲るように笑う。


「お前ごときが何が出来るというのだ」

「小さな精霊ひとつまともに扱えないくせに」

(あー、いにしえの精霊様、出番です)


その時、ギードの背後にゆらりと黒い影が生まれた。

その影はゆっくりとエルフの戦士の形をとり始める。

美しいその瞳と髪は黄金、肌は透き通るように白い。深緑の鎧に包まれた身体は強者の者だ。

しかしその周りに広がる黒い影はうごめき、他を威圧する。


(へー、そんな姿をしていたんですねー)


にやりと笑うその精霊は、長老達を見回した。


ーーー我はいにしえの精霊にして、この者の眷属であるーーー


「ひぃいいい」


長老達は驚いて逃げ出す者さえいた。

養父も驚いてはいたが、微笑ましくギードを見ていた。


「ギードよ、結婚おめでとう」


今度町に遊びに行こうかの、と養父はのん気そうに笑った。

ギードはいつも自分をかばってくれていた養父をずっと嫌いにはなれなかった。


「はい、いつでも」


今まで養父に心配をかけていたことを改めて詫び、町へ帰った。

(早くリデリア用のお菓子を作らないとな。誰かさんに似てうるさそうだし)


 その日、エルフの森では長老の全員が推薦し、ネイミの父親が最長老の座に着いた。



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