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【連載版】エルフの旦那と魔術師の嫁   作者: さつき けい


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お久しぶりの人

 エルフの青年は久しぶりの自分の部屋での眠りだったが、あまり良く眠れなかった。

まあもう子供ではないのでそんなに睡眠は必要としないのだが。

隣のベッドで寝ていた女性を起こす。


「早く町に帰って朝食にしよう。ここにはもう食材が無いんだ」


備蓄が無いだけで採集してくれば済むのだが、今はその時ではないだろう。

朝食と聞いてちゃんと起きる良い娘だ。脳筋だけど。

準備が終って町へ飛ぶために彼女を抱き寄せようとしたら、その前に帰還魔法で飛んで行った。


(うん、分かってた)


エルフの青年は明らかに残念がる。


「じーちゃん、行ってきます」


老木に、最後になるかも知れない挨拶をするエルフの元・引きこもり青年の名はギード。

先に町に戻り、彼の朝食を待っている腹ペコ魔術師の女性の名はタミリア。

何とか準備が間に合い、ふたりは今日、王都へ向かう。

 しかし、その前に……ある人族の男性が彼らの家で待ち構えていた。




 師匠が来ているかも知れないとは思っていたが、この男性が来るとは予想もしていなかった。


「はーい、おひさ」


リーダーである人族の勇者の子孫の男性であった。


「ん、久しぶり」


タミリアは普通に接しているが、ギードはあまりにも久しぶり過ぎて何て挨拶すればいいのか分からない。


 とりあえずお茶の用意、そして朝食の準備を始める。

台所といっても、居間も食堂も兼用なので、話は筒抜けである。

久しぶりに聞く彼の話のほとんどは、相変わらずグループの勧誘がいかに大変であるかに終始している。

いつものように、パンケーキの山に甘い樹液を添え、薬草茶を出す。


「おお、うまそう〜。ギドちゃんってこんな事も出来たんだねえ」


美味しそうに食べてくれるのはいいが、リーダーとタミリアのふたりが大量に消費していくせいで、ギードの分はなさそうだ。


「すいません、ちょっと出かけてきます」


得意先に薪の配達をしてしまいたい。倉庫の中の物を整理しておきたい。

ギードはイヴォンが来る前にやりたい事がまだあるのだ。


「あー、ちょっと待って。その前に話したい」


ギードが立ち上がりかけると、リーダーが待ったをかける。

大事な話だからと、自分の前の皿を片付け、一息つく。


「僕はね、ある町で運命の女性に出会ったんだー」


大げさな身振り手振りで、いかにその女性が素晴らしいかを語りだす。

タミリアはただ食べることに集中している。今は食後の果物に夢中だ。


「でもさー」


ちょっと悲しい顔をする。


「その女性が田舎は嫌だって?」


聞いてないはずのタミリアがズバリと話を切る。

一瞬固まったのち、リーダーはうんうんと顔を縦に振る。

ギードはどういう意味なのか分からず、二人の顔を見比べている。


「つまりグループの家を、ここを手放すのね」

「ええぇ?!」


タミリアの言葉にギードが驚嘆する。ギードにとって、三年近く世話になった、住み慣れた家だ。


「仕方ないわねぇ」


そう、仕方のないことだった。



 今まであまり人族の習慣や歴史に興味が無かったギードは、この冬、懸命に勉強した。

ファルのように若いエルフがこれからも認識の違いで騒動に巻き込まれないようにしたいと思ったからだ。

 その中でグループの事もたくさん調べていた。

グループの家は全員の合意で決められるが、その持ち主はリーダーである。

彼が自分の活動する拠点を移す場合は、その家も移動させなければならない。

というか、この町の家を手放し、新しい町で購入するしかないのである。

彼が決めたことには基本的に逆らうことは出来ない。

嫌ならグループから離れるしかないのだ。


「新しい家は決まったの?」

「ううん、まだだよ。だから慌てなくていいけど、そのつもりでね〜ってこと」


しかしグループの拠点というのは帰還魔法に関係してくる。

どこか知らない遠い場所で狩りをしていても、グループに所属している限り、帰還魔法で飛ぶのはこの町になる。

すでに初心者のレベルを超えている他のグループの者たちも、いちいちここへ帰るのも面倒だろう。

もっと効率のいい狩り場に移動しているはずなのだから。


「この町も良かったけどねえ。もうみんな強くなっちゃって、あまり使わなくなったしね」

(いやいや……まだ便利に使ってる者もいるんですが)


ギードの心の声は届かない。


 このグループの家は、ほぼリーダーの資産で購入されているそうだ。

勇者の血筋は伊達じゃないんだよ、と微笑む。かなりの資産家らしい。


「一番の目標だった美女エルフも勧誘できなかったしなあ」


ぼそっと小さな声が聞こえた。チラっとこっちを見た気がしたので、なんかすいませんと謝っておいた。

リーダーはバツが悪かったのか立ち上がった。


「じゃあ、また決まったら連絡出すから、そしたらお引越しよろしくね」


そそくさと出て行った。タミリアが後を追って外に出て、しばらく話込んでいた。




「もしどうしても無理なら、ふたりがグループから離れても仕方ないと思ってる」


リーダーの声が薄い壁の向こうから聞こえた。ギードは窓からそっとふたりを見る。


「タミちゃん、ほんとに長い間この家を守ってくれてありがと」


頭を下げるリーダー。タミリアがその肩をポンッと叩いていた。

 このふたりはギードが出会う前から同じグループで時間を共有してきた。

ギードが思うより、リーダーはずっとこの家に愛着があったのではないだろうか。

自分より彼の方が悲しいのかも知れない。

ギードは自分を被害者のように思ってしまったことを恥ずかしいと思った。

寂しいけど、これは決まってしまったことなのだ。

 倉庫と部屋を片付けなければと動き出す。彼のこの切り替えの早さは天才的である。




 王都への荷造りを終え、倉庫の中身を空にすべく整理をする。


(薪は全部配ってしまおう。後はファルが引き受けてくれるといいな)


いつもの雑貨屋の店主に「しばらく来れないかもしれないので」と話し、多めに置かせてもらう。


「聞いたわ、王都ですってね。気をつけていってらっしゃい」


はい、と下を向いたまま頭を下げる。

恥ずかしがり屋のエルフの青年に老婦人は微笑む。


「あのね、お願いがあるの」


ギードが少し顔を上げる。


「この間いただいたお薬ね、とっても効いたわ。ありがとう」


いえ、と小さな声が聞こえる。


「それでね、あの薬をうちの店で扱わせてもらえないかしら。きっと売れるわよ」


ギードがこの町で商売に苦労していたことは知っていた。

組合や他の商人に対して、ものすごく気を使っていた。

値段、品揃え、時間、商売の仕方だけでなく、容姿や声かけにも目立たないようにしている事が分かった。

あの薬も普通なら売れること間違いなし、なのに彼は売る気配が無かった。


「あ、あの」

「ね。だから帰ってきたら相談しましょう」


この気弱なエルフの青年を助けたかった。何故か分からないが、今、言わなければと思った。

手を取り「約束よ」と声をかける。

ギードは老婦人の手を握り返し「はい」と答えた。


 ギードは顔がくしゃくしゃになっている自覚はあったが、見られないようにするのが精一杯で、すぐにその場を立ち去った。

その足でファルのいる宿へ回り、彼に倉庫の鍵の入った袋を渡す。


「中のモノは自由に使っていいから」

「分かりました。じゃ、後日精算しましょう」


あっさりとした彼の返事が、これはただの日常で、特別な別れではないと主張していた。

ここでも言われた気がした。この町に帰っておいで、と。

家が無くなれば居場所がなくなると考えていた自分だが、戻ってきていいのかなと思えた。

ギードは涙がこぼれないよう、唇をかみ締めていた。



 家に戻ると二人分の荷物を抱えたタミリアと、あの栗色の髪の女性がいた。


「ギドちゃん、おっそーーい」


と荷物を丸投げされた。


「ご、ごめん。師匠もお待たせしてすいません」

「いや、気にするな。それに、私はお前の師匠じゃないしな」


そうでしたね、と女性の姿をしたイケメンを見る。


「絶対荷物持たされるのを回避するためですよね、その姿」


口調も気をつけた方がいいですよーっと、睨んでみる。


 二人分の荷物を持ち中央広場へ移動する。

そこには、麗しいエルフの奥方に、顔が半分以上隠れるほどのフード付の上着を着せた魔術師の男性と、移動だけなのだから普段着でもいいんじゃないかと思われる白銀の鎧装備の騎士様がいた。


「ご案内いたします」


と女装の師匠が恭しく頭を下げる。

胡散臭そうに白いローブのハクレイが見ている。

エグザスも何か言いたげだが、王都からの使いと聞いているので黙っている。


(王都か、どんなところかな)


 この日、王都の広場にある移動魔法陣に現れた一行。

その中に、やたらとガタガタ震えるエルフの青年がいた。

が、同行の者たちは見なかったことにした。

彼の妻でさえまるで他人の振りをして。



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