殴られ、笑われ
適当に読んで下さい。
俺は夢の中で愛くるしい家族達と一緒にふかふかのベッドで寝ていた。可愛いあの子たちが俺の周りでスヤスヤ寝息をたてている。
小さな温もりを体いっぱいで感じながら1日の疲れを癒す。あぁ、なんて至福の時間なのだろうか……。
痛っ!
突然の後頭部への痛みで目が覚めたら、鬼の様な形相でこちら見つめているオッサンがいた。なんという落差なのだろうか。
俺はオッサンに引っ張られながら馬車から降りるとどこか街の門らしき所の前に着いていることに気がつく。
あれから何時間経ったのだろうか。辺りには森は広がっていない。道もしっかりと整備されている。
オッサンは入場するための手続きに並んでいる様だった。前の方にも何台か止まっており、皆同じように検閲を受けているようだった。
門の前には衛兵らしき鎧を身にまとった人が複数見受けられる。手にはしっかりと槍まで持っておられる。
そんなことを考えていると、オッサンは俺に向けて手を出してきた。何のことだろう。お手でも要求しているのか。
俺はそれを無視しているとオッサンが殴りかかって来た。訳の分からない言語で怒鳴り散らされても俺には何一つ理解出来ない。
ただ、オッサンが喚き散らしているのを"あぁ"だの"うむ"だので切り抜けようとするとオッサンは門の方へと歩いていってしまった。
危機はさったか。
そう思い、また一眠りしようと馬車の荷台に足をかけようとしたら後ろから強い力で肩を掴まれた。
後ろを振り返ると兜を被ったどう見てもデカい衛兵さんがいるではないか。
口はへの字に曲げていかにも怒ってる様子である。槍も強く握っている。
「ソーリー、ソーリー。ジョーダンデス」
通じるはずもないが一応、軽く流そうと謝る。
衛兵は俺に淡々と話しかけてくる。全く分からない。なんかやばそうな雰囲気だけは凄く伝わってくるが本当に何にも分からない。
これ、殺されるんじゃない?そう思い内心ビクビクしながら衛兵の様子を伺う。
すると、何やら諦めたように両手を上げて、大きな声で叫んだ。向こう側で検閲をしていた何人かの衛兵がやって来て俺のことを取り囲む。
「ちょっとちょっと、暴力は良くないよ。ここは冷静に話し合おう人間どうし!」
しかし、俺の言葉は彼らの耳には届かない。
おもむろに俺の体に触れてきたので避けようとする。後ろからがっちりとホールドされて全く身動きが取れない。
彼らは俺の身ぐるみを剥ぎ取り、何やら相談をしている。俺は今、パンイチで衛兵の前に直立した状態で放置されているのだ。唯一あるのは左手首にしてある腕時計のみ。
無抵抗な一般人にこんなことしていいとおもってるのか!!場所が日本ならお前ら全員訴えてやる!!と心で思いながらも鼻をすすり待っている。
話し合いが終わり、俺の方を見る衛兵。最後に手首の腕時計を指さされ渋々渡す。腕時計を見ると兜から見える口元がニヤける。
衛兵がオッサンに数枚の貨幣を渡すとオッサンは馬車に戻っていった。そして、俺も衛兵からお金を貰った。
なんか、銅色の貨幣を数枚。オッサンには銀色のをやっていたはずだが……。
まぁ、これで無賃乗車ってことではなくなったみたいだな。オッサンはもう検閲を終えて街の中に消えている。俺もまた、列に並び直して入ろうと試みる。
衛兵の前まできた。俺の番になると衛兵は手を出す。お金の要求だろうなと思い先ほど貰った銅貨を手渡す。
しかし、衛兵は俺の銅貨を地面に叩きつけて怒鳴り始める。俺には一体何の事なのか検討がつかない。
俺がそれを黙って聞いていると後ろから思いっきり蹴られた。俺は激しい痛みを感じながらパンイチの状態で地面を転げ回る。
それを見てか、周りの衛兵たちも俺のことを笑いながら蹴り始める。
俺はただ、頭を手で守りながら蹴り終わるのをじっと待った。
ひとしきり、楽しむと衛兵は俺のことを最後に思いっきり蹴っ飛ばし道の脇の草むらに追いやった。そして、最後には数枚の銅貨を投げつけてきた。
その銅貨を拾い集めて、力を振り絞り足を引きずりながら俺はその場を後にした。
壁沿いを歩いて、衛兵達の所から見えなくなるくらいの場所で壁に持たれながら座る。
体中はあざや傷だらけで、スライムにやられた太ももがまた少し痛く感じ始める。口の中も血の味がする。
早く何とかして壁の内側に行かないと夜になってしまえば自分を守る手段が無い。
パンイチの状態では野生モンスターの格好の餌食である。
このまま、ここで寝るわけにはいかないと傷を負った足を庇いながら立ち上がり壁に手を当てながら再び歩き始める。
日が地平の彼方に沈み始める、辺りがオレンジ色に包まれようとしている。
「どこまで行っても壁しかないなぁ……」
目の前にはそりたった壁がどこまでも続いている。本当にこの街は大きい。これではいつまでたっても中に入ることは出来ない。
そう絶望しながらゆっくりと進んでいると水が流れている音が微かに聞こえてきた。
急いでその場所に行ってみると濁った水が壁の中から堀を流れていたのだ。
その場を除きこんで中を確認して見ると格子は施されていないようでここを通れば中に入れるようだ。
しかしながら、こんな負傷した状態でこの汚い、多分下水であろう水路を通れば何かの病気にかかってしまうのは目に見えている。
多分、凄く染みるんだろうなぁ。
そんなことを思いながらも今いかないとどうせ夜にはモンスターに喰われながら死ぬのだ。どっちにしろ痛い思いをするなら少しでも生きられる方にかけるしかない。
俺は意を決して水路に入る。最初はものすごい激痛に襲われるが何とか耐え、前に進んでいく。かがみながら水路の中を進んでいくとトンネルを抜けた。
壁の中に侵入するとすぐ傍にあったハシゴを登り地面で一息つく。
周りを見渡して見るとみすぼらしい格好をした人らしき生き物が街の中を闊歩している。
街と言うよりはスラムと行った方が正しいかもしれない。建物も簡素な作りで煉瓦を使っているが今にも崩れそうだ。人々には生気が無く、皆疲れきった顔をしている。
門の外から見えた中の景色とは随分と違って見える。
多分ここはこの街の中でも最下層の住人が暮らしてい地域なのだろう。この世界でも富める者と貧しい者が分かれているのだと知った。
歩いている人はパンイチで座っている俺を脇目で見ながらも無視して歩いていく。
身ぐるみ剥がされた奴から何か盗もうだなんて誰も考えない。
ぐぅ……お腹が減ったなぁ。この世界に来てから何一つ食べていないことにようやく気がついた。
俺は銅貨を握りしめてこの地区での市場らしき所を探した。
少し歩いていくと何やら美味しそうな匂いがしてくる。その場所へと勝手に足が進んでいく。
そこには美味しそうなパンが並べられてあった。
パン屋の店主に話しかけるがやはり言葉は通じない。俺は持っている銅貨を台に置き、パンを指差しながらお腹が空いていることを何とか伝えようと頑張った。
すると、パン屋の店主は中くらいのパンを一つ俺に渡してくれた。俺の持っていた全財産はこのパンと同じらしい。ぼったくられたかもしれないがパンイチの怪しい男に売ってくれただけありがたい。
焼きたてのパンを俺は一口食べる。固めのパンであったが空腹の俺にはとてつもなく美味しく感じられた。不意に涙が溢れてきた。そして、泣きながらパンを食べる。
俺が無我夢中になりながらパンを頬張っていると小道の影から一匹の子猫が現れた。
みゃ〜と鳴く猫は俺のパンを求めているようだった。猫をよく見て見ると目が5つある。こいつもモンスターの様だがか弱い動物には変わりない。
そいつにパンちぎって渡すと加えながら小道に入っていった。
心配になって後を追うと足に怪我をして動けなくなった母猫らしきモンスターがいた。周りには子猫と同じくらいの猫が何匹かいたのだ。
パンを持ってきた子猫は周りの仲間と一緒に小さなご飯を分けながらたべている。
そんな様子を見せられてしまったら放っておくことなんか出来ない。俺は持っている全てのパンをそこに置いていきその場を後にした。
日がすっかり落ちて辺りは暗くなる。こんなスラムなのだから当然灯りもなく真っ暗だ。
お昼は太陽が出ていて分からなかったが夜になるととても冷える。パンイチの俺には体を温める手段が一つもない。
おまけにパンを猫にあげたのでお腹も空いている。体の傷も痛む。こんな状態でよく生きていられるなと関心するくらいだ。
しばらくすると睡魔に襲われてくる。こんな状態で寝たら最後、目を覚ますことはないだろう。そんなことは分かっているが生理現象には逆らうことは出来ない。
俺の命もここまでかと思った時に浮かぶのは会うことが出来なかった動物たちのことだ。俺の大切な家族。この世界でもあの子たちのために頑張ろうと思っていたがここまでのみたいだ。
「最後にもう一度、会いたかったなぁ」
そう呟きながらも俺は夢の中で会えることを祈り、深い眠りにつくのであった。
読んで下さいましてありがとうございます。