何とか生きねば
適当に読んで下さい。
神様によって地面の穴へと落とされた。
落ちている時間はとても長く感じられ、空気などの抵抗は一切感じない。暗い空間がどこまでも下に続いている。終わりが見えないくらいに深いようだ。
落ちている時に走馬灯のように思い浮かぶのは家で帰りを待っている動物達の姿だった。
おっちょこちょいでドジな所が可愛いコーギーのマル
12月24日の夜、雪が降る中拾った2匹の猫。黒猫の月夜と白猫の朝日。
愛くるしくて食いしん坊のハリネズミのコロン
お喋りでいつも俺に話しかけてくる九官鳥の黒子
何となく家に居ついてしまったコウモリのキュラ
知り合いが飼えなくなり譲り受けたコビトカイマンのワル子
子供の頃から飼うのに憧れていたジャクソンカメレオンのオペラ
おっとりした性格と動きでいつも癒してくれるハコガメのはーちゃん
みんな、俺の大切な家族なのだ。神様はちゃんと俺の願いを叶えてくれるのだろうかととても心配になってくる。
そんなことを考えていると、いきなり穴の下の方が明るくなってきた。なんだろうと目を細めて見てみる。
「地面だ!!」
目の前には薄茶色をした地面が迫って来る。自分が今、どのくらいのスピードで落ちているのかは分からなかったがこのままでは確実に衝突してしまう。
異世界に来てそうそう死亡はあんまりだ。しかしながら自分には対処する方法がない。地面との距離がどんどん近くなっていく。
俺は覚悟を決めて目を閉じた。
数秒間、目をつぶり再び開けると俺はどこか森の中の開けた場所に放り出されていた。
「ここが異世界なのか?」
自分が降り立った場所でキョロキョロと辺りを確認し、自分の体に以上が無いか手で確かめる。
「ヒゲが伸びたな。剃らないと」
顎を手で撫でながら呟く。穴の中では思っていたよりも随分と長い時間が過ぎていたようだ。
奇跡的に近くに小川が流れていたので顔を確認する。前の世界と同じく冴えない顔の男が目の前にいた。ヒゲの伸びた長さから考えるに大体1週間近く経過してる事が分かる。そして、ものすごくお腹が空いていることも。
持ち物は……何も無い。辺りを確認したがやはりどこにもないな。
こういう異世界転生みたいな状況だとお城とかの儀式で呼ばれたりするもんだと思っていたが自分は森。
みんなはお金を少しだけ持っていたり、武器とか防具とかあったりするもんなのに自分はスラックスにワイシャツのみ。
「ステイタスオープン」と叫んでみたが森の中で反響するだけで何も無い。
ゆうなれば、これは単なる遭難である。
「神様ァァァァ、これはあんまりですよぉ。俺の大切な家族はどうなったんですか?願い叶ってませんよ!?」
俺は絶望に打ちひしがれていた。でも、生きているという唯一の希望だけを見ることにした。生きていればいつかあの子達に会える気がしたからだ。
とりあえず、小川に沿って歩くことにした。どこかで大きな川と合流し、川の辺には村もあるはずだ。
数分歩いていると林の影でガサゴソと物音がした。
「なんだ!」
そちらの方に振り向いて少し歩く。音がした所に目を向けると半個体状の青い色をした1mくらいの物体がゆっくりと動いていた。俺は思わず声を上げてしまった。
その生き物はジェル状の中にある大きな目を1つだけこちらに向けて口をあけた。
「キモ!これってもしかしてスライムか?」
俺は自分の中の記憶と合算したがスライムはもっと可愛らしいものだと思っていた。スライムが通ってきた道を見てみると草木が枯れているのが分かる。
こんなの絶対危険モンスターじゃん。普通に倒してたりする、主人公って化け物か何かなのだろうか?
そうこうしているうちにスライムが近づいて来る。幸い動きは遅いので難なく逃げ切ることが出来そうだ。
スライムに背を向けて走って逃げようとした時にはスライムは体から何かを飛ばしてきた。
「ガッア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」
その液体状の物が俺の足に当たった瞬間ジュッっという音と共にスラックスが溶け、皮膚がひどい火傷のようになっていた。
「マジかよ!マジかよ!」
俺は片足を引きずりながらスライムから離れようとした。しかし、スライムは俺を追ってくる。
少し移動すると大きめの川が見えて来た。
俺はスライムが水に入れないだろうと賭けて川に飛び込んだ。スライムは追って来ない。
川の流れは案外早く、流れて来た流木に掴まるのがやっとの状況だった。そして、そのまま気を失ってしまった。
⚫
俺は気がつくと川辺に倒れていた。飛び込んだ川よりも大分広くなっていることに随分流されて来たようだ。
全身ずぶ濡れの状態では風邪を引いてしまう。元いい、スライムから受けた攻撃によって体はボロボロだ。持ち物は何一つないから傷を癒すことも火をつけて暖をとることも出来ない。
日はもう傾きかけている。このまま、夜になってしまえば俺なんてモンスターの格好の餌食さ。異世界に来てから1日も経たずしておさらばになる。
そんな、心身共に疲弊した俺の耳に何か物音が響いて来る。
川の側の小高い土手を必死に登ると西の方角から何かがこちらに向かってくる。
よく見れば、今立っている場所は踏み固められた道になっており、向こうから来るの馬車であることに気づいた。
俺は全身全霊の力を込め手を振り、声を上げて助けを求めた。
すると馬車は俺の前で停車し、御者をしていた男が降りてきた。
なんか嫌な予感がする。何も持たせてくれない神様だ。きっと……。
「¥%=々€%×÷2€^=&$?」
あああぁぁぁ、やっぱりな。
絶対そうだと思ったよ。
言葉が通じないなんて当たり前だよ。
なんせ、ここは異世界なのだから!
俺が知ってる異世界転生もの小説だと自動で翻訳されているイージーモード設定なんだよな……。
でも、この馬車には乗るしかない。これに乗せてもらえなければ俺は夜に死ぬ。
死にものぐるいで御者のオッサンにジェスチャーをして何とか乗せて貰えないかと交渉する。
「@#&¥%>〒&☆♪$?」
すると、オッサンが馬車の荷台を指差しながらこっちに来いと手招きをするのが分かった。そして、オッサンに付いて行くと馬車に乗せてくれた。終始、何を言っているのか理解出来なかったが、ひとまず俺は今日を生きられそうだ。
馬車は夕闇の中、俺を乗せてどこかへと向かっている。
読んで下さいましてありがとうございます。