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貴方が隣にいる世界 -Cthulhu Mythos-  作者: 柳野 守利
第九章 鏡合わせの観測者
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第128話 公園探索

生きてます。死にそうなくらい疲れてますけど。


また期間が空いたので簡潔なあらすじをば。


性別が反転した平行世界にきてしまった氷兎たち。風俗店がバグっていたり、風俗嬢が化物に変異する映像を見てしまったりと、大変なことに。急ぎ事態を収拾せよ。

 巨大な蜘蛛を見た。それは確かに現実で、けれど夢のようにも思えるような出来事。仕事の休憩中に視線を感じて、ふと部屋の隅の天井を見た時にソレがいたのだと。流石に悲鳴をあげ、不意に意識が途絶えた。起きた時には蜘蛛はいなくなっていて、首筋辺りがしばらく痛み続けたらしい。きっとあれは夢で、疲れて倒れでもして頭を打ったのだろうと、件の風俗嬢は話した。


 その言葉に偽りはなく、少しの脅えが感じられた。なにしろ今の風俗店の状態を見るに、もしかして夢ではなかったのではと不安になっているらしい。


 本人に動画を見せるわけにもいかない。けど、彼女は公園は寄る理由がなく、帰り道も逆側だと話していた。だとしたらあの映像はなんなのだろうか。理由もなく公園に向かう、なんてことはない。


 動画に映っていた辺りを西条さんが見回っているけど、何も収穫はなさそうだ。そもそも彼女からは神話生物らしい反応は見受けられない。CGだと思いたいものだ。


「西条さん、多分今探しても何も見つからないんじゃないですかね」


「未来の映像だとすれば、ここに何かあるはずだがな。理由もなく訪れるのであれば……おそらく、引き寄せられたと考えるべきだ」


「神話生物に、ですか」


「あぁ。人よりも大きな蜘蛛らしきものにな」


 人よりも大きな蜘蛛。そんなもの見たら、例え本来の蜘蛛の造形をしていても発狂ものだ。気味が悪い。糸で巻取られて喰われたりしたら……なんて、嫌な想像ばかり浮かんでくる。


 軽く鳥肌がたって身震いしていたら、遠くの方まで探索に行っていた先輩たちが帰ってきた。女性陣と仲良く話ながら帰ってくる先輩の姿は、大学生のパリピーに見えなくもない。そんな未来も、きっとあっただろうに。どうせ並行世界に行くというなら、平和な世界に行きたかった。誰に愚痴を言えるわけでもなく、そっとため息をつく。


「なんだよ氷兎、ため息なんかついて」


「別になんでもありませんよ。自分と西条さんだけ残して、女の子と楽しく話してることを僻んでなんていません」


「悪かったって。女の子だけで探索なんて危なっかしいだろ? 機嫌直せってー」


 そう言って背中に回り込んで、背後から首に手を回すように体重をかけてくる。鬱陶しい……けど、慣れたものだ。それに、こんな夜中に人気のない公園にいるのも心細い。そういった意味では先輩のこういうところは有難かった。


 抱きついてきてる先輩と俺の二人を見てくる周りの目は少しばかり痛々しいけれども。薊さんなんか、気味の悪いものを見たかのようにそっぽを向いてしまった。


「二人とも本当に仲良いねー。よーし、じゃあ私の氷兎も同じことする?」


「先輩のそういうところ、嫌いじゃないけど好きじゃないよ」


「……ホモとレズしかいないのか、このメンバーは」


「入力速度を考慮した結果だから仕方ないダルルォ!?」


「最速は『あ』だけに決まっているだろう愚か者め……」


 RTA芸人の先輩とRTAガチ勢の西条さんとでは多少の差はあるものの、誤差だよ誤差。もっとも、西条さんの世界ではその数秒に何人も走者がいる廃人共の巣窟なわけだけど。走り終わって、満ち足りた顔で身体を伸ばしている姿は確かに気持ちよさそうだが……そうなろうとは思えない。そもそもフレーム単位で動かすことができないからやる気もない。傍で見ていながら、はぇーすっごい……って言っている方が性に合っている。


「それで、そっちの方は何か収穫はあったのか?」


「いやー全然。そもそも魔術反応とかは氷兎ちゃんは感知できないし、普通に氷兎を連れていくべきだったわ。見た感じ何もなさそうだけどさ」


「……そうか。奴と契約していないから、向こう側の唯野に感知能力がないのか」


「そっちの氷兎くんってそんなことできるの? いろいろと恩恵受けてるんだねー。強力な存在との契約、他者にはわからないモノを感知し、人知れず世界を救う……くぅー、カッコイイ!」


「じゃあ先輩はそっちの私と付き合えばいいですね。もう世話してあげませんから」


「えっ、ちょっ冗談キツイよ! 虐めないでよ氷兎ーっ」


 拗ね始めた唯野さんに正面から鈴華さんが抱きつきにいった。演技だとわかっていても、その仲睦まじい光景は本物だろう。視界の隅でそわそわしてる先輩は放っておいて、とりあえずもう少し探索した方が良さそうだ。何も収穫なしでは方針も立てられない。


「どうします、西条さん。公園から外れて、近くの捜索でもしてみますか?」


「宛もなしにか。非効率的で意味がないな」


「いや……そもそもだ。私たちは監視カメラの映像に映っていたからこの場所を捜索しているわけだ。あの女が、あの後どうしようとしていたのかはわからんだろう。家に帰れず、仕方なしに反対側に来ただけか。それか、また別の目的があったのか」


「その目的となるものがこの公園にあるかもしれない、という見解の元捜索していたわけだが。唯野が風俗嬢に何も違和感を覚えなかったのなら……まだ邂逅しただけで、神話生物に変化する理由はこれから起こるのではないか?」


「なら、あの女の周りを探るか、警護か。それとも……三日間放置してみるか」


「薊さんは、あの人を見殺しにする気ですか」


 俺の言葉に、彼女は何も言わず顔を背けた。三日目の夜には彼女は変異してしまう。それを待とう、と彼女は言うのだ。見殺しにするのと何ら変わりない。無論、そんなことをしようとは思わないが。


 彼女を助けるためには、この三日間の間に事件を解決しなくてはいけない。しかし、それらしい取っ掛りもなく、唯一の手がかりは未来の映像だけ。まったく、お手上げ侍だ。


「……風俗店がバグってんのも、その蜘蛛のせいなんですかね? 何か痕跡あるかもしれませんし、一旦戻ってみませんか?」


「一理あるが……俺は、どうも手がかりがあるようには思えん。あの現象と、今回の蜘蛛はきっと別問題だ」


「何か根拠が?」


「ないこともない……が、話すには諸々足りんものがある」


 そう言って西条さんは、未だに戯れている先輩たちの方を見て、また視線をこちらに戻した。先輩を見ていた、というよりは近くにいた唯野さんと鈴華さんを見ていたといった方がいいだろう。あの二人に関係があるのか。見ている限り、何も問題はないように思えるけど……。


 彼女らをまじまじと遠目で観察していたら、不意に舌打ちが聞こえてきた。舌打ちをしたのは薊さんのようで、彼女は眉間に皺を寄せてこちらを睨みつけてきている。両腕を組んで、いかにも不機嫌だとばかりに西条さんのことを鼻で笑った。


「貴様、随分と訳知り顔のような態度を取るな。本当は何が起こっているのか知っているんじゃないか?」


「あいにく、わからんことだらけだ。未確定要素が多すぎる」


「どうだか。見回りの時の態度といい……いや、そもそもだ。平行世界から来ただのと、訳がわからん。本当は、貴様が黒幕ではないのか?」


「ふざせたことをぬかすな。俺を化物の仲間扱いか。だとしたら、あのバカもコイツも、化物だと言いたいのか」


「己が化物の仲間でないと証明ができるのか?」


「ハッ、笑わせるな。現代科学を以てか。それとも摩訶不思議な技にでも頼ってか。いずれにしろ、貴様が認めん限り証明は通らんだろう。馬鹿馬鹿しい」


 お互いを貶し合い、鼻で笑い、しまいには隠してある刀を触りだした。このままだとお互い本気で抜刀しかけない。仲間割れなんて、それこそ馬鹿馬鹿しいだろう。


 至近距離で睨み合う二人の間に入って、西条さんの方は刀を触る手を抑えつける。こうでもしないと、俺がいるのをお構い無しに斬るだろう。


 邪魔されたことが気に喰わないのか、薊さんはより一層鋭く睨みつけ、そして見下してきた。彼女はほんの少し背が高い。その威圧に押されないよう、正面に向き直って対峙する。


「お二人とも、そこまでにしましょう。人間同士で争う方が、よっぽど馬鹿馬鹿しいですよ。含みのある言い方をした西条さんも悪いですし、薊さんもあまり突っかかるような言い方をしないでください。お互い同じ人物なんですから、やられたら嫌なことくらいわかってるでしょう」


「あぁ。だからあえてやってるんだ。信用ならんのだよ、貴様らは」


「だったら別行動にするか? 俺はその方が好都合だが」


「喧嘩をしない。意味もなく別行動もしない。協力しにくいなら、せめて二人とも距離をとってくださいよ。無理に仲良くする必要ないんですから。一緒に任務をこなす以上、最低限の付き合いは必要でしょうけど」


「……チッ」


 わざとらしく舌打ちをして、薊さんは離れていった。身内ならまだしも、他人には針地獄のようなトゲトゲしさで接する。今回は薊さんだっただけで、きっと西条さんも似たようなものなんだろう。


 ただ……やけに敵対視されてる気がする。これ以上とないくらいに警戒され、離れた今でも敵意が伝わってくるようだ。どうしてここまで彼女が俺たちに敵意を向けるのか……。西条さんだけが理由って訳でもないだろう。未だに平行世界の住人だと信じてもらえていないのもあるだろうし……西条さんの含むような言い方も気になる。彼は何かしらの答えをもう見つけているのだろうか。頭の回転はスパコン並だというのに、せめてコミュニケーションに容量をさいてほしい。多分1ギガも対人にメモリを使ってないぞ、この人。俺と先輩に丸投げはやめてくれ、本当に。


「おいおいおい、喧嘩すんなよ西条ー。お前自分自身を許せないありがちな設定持ったキャラだったか?」


「馬鹿をいえ。俺は自分自身を好んでいるとも」


 薄く笑うように彼は冗談を言った。珍しいこともあるもんだと思ったが……その後、離れた位置にいる女性陣に聞こえないような小さな声で、「だがな……」と続けた。


「あまり仲良くせん方が身のためだと、俺は思うがな」


「えー、氷兎ちゃんと仲良くしたいけどなー俺はなー」


「先輩、ぶちのめしますよ。そんなにデスソース食べたいんですか」


「嫉妬してる俺の後輩かわいくない? どうよ西条」


「なにがどうよ、だ。少しは頭を使えよボサボサ頭。脳みそ詰まってるのか」


「詰まってるよ! ギッチギチに詰まってるっての!」


 自分の頭を触りながら、馬鹿ではないと言及する先輩。西条さんとの軽口が続く裏では……女性陣たちも、笑いながら話をしていた。薊さんの顔は険しいままだけど。


 何を話していたのかまではわからない。この距離なら夜間だし聞こえそうなものだけど……。いや、待てよ。もしかして聴覚が強化されていないのか。それだけじゃなく、精神的な揺らぎも、身体強化もされていない……。月は満月に近いっていうのに……?


 何度か目を擦って、月を見直す。夜空に転々とある星よりも一際輝く、月。それを見ても、心はざわつかない。変だ。いつもなら、嫌な衝動が湧き上がってくるのに。


(……月が、偽物……なんてことはないよな)


 あんな巨大なものを隠すか、別の物と取り替えるなんてこと、そうそうできるもんでもない。そんな上位存在がいて欲しくない。身体強化がないのは結構困るけど……前と違って、今は魔術がある。今回はこれに頼る他ないだろう。


「しっかしまぁどうするよ。護衛でもするか?」


「……それしか手立てがない、か。唯野と向こうの唯野で、あの女の周りを固めて、俺たち四人で調査が妥当なところか。何かあれば、お前ならすぐにわかるだろう」


「わかるっちゃわかりますが……戦力として期待しないでくださいよ。どうにも、満月に近いのに調子が悪くて……」


「あら珍しい。いつも満月はバーサク状態なのに」


「……満月なのに、か。どうも、俺の仮説が仮説でなくなりつつあるな」


「仮説ですか」


「話せるような事じゃない。さっきもそう言っただろう」


 そう言って、俺たちにしかわからないように彼は親指で女性陣を指し示した。彼女たちにはまだ隠された秘密があり、西条さんは既にそれを暴ける段階まできている、ということなのだろうか。


 思い返せば、唯野さんの人工物のようなのっぺりとした瞳は、どうにも気になるところではある。けど今は、変に探りを入れるわけにもいかないだろう。彼女たちが神話生物じゃないことはわかってる。協力して、蜘蛛を突き止めるのが先決だ。





 ……結局、女性の護衛をしても何も得られず、調査は進展しないまま、俺たちは三日目を迎えてしまった。





To be continued……


3時間前まで課題をしていました。嫌になりますよ……。

生きてることは、私のTwitterで確認していただけると嬉しいです。不意に呟かない状態が続いたら、寝不足でくたばったんだなとでも思ってください。


ここからは、活動報告にも書いたことを書いていきます。


小説の続きが書けなくて本当に申し訳ない。建築系の大学クッソ辛いです。来たい人はつまり……覚悟をして来ている人ですよね?ってことです。一週間、二週間徹夜はざらです。


書く時間が無いので、クトゥルフと日陰者を他サイトで連載し始めたんですよ。まぁこれがまた読まれない。クトゥルフはまた序盤の書き直しが必要そうですね……。次の話を書く前に一話を書き直そうかな。


あとは、感想などでもいいのですが、Twitterで呟いていただけると、時折エゴサしている私が、いいねを押しに行きます。えぇ、コミュ障なので話しかけられませんが。なにとぞ、宣伝などして頂けたらなという思いです。正直書く時間もそうですが……疲労でモチベが……。




……そういえば淫夢が海外で学会発表されましたね。つまり淫夢だらけのクトゥルフも書籍化が可能に……? いいゾーこれ。海外兄貴の語録はすぐに音声素材になり、ご本人は嬉嬉としてダウンロードしたそうです。えぇ……(困惑)

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