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ディストピ飯  作者: 下田どんと
1/1

1.パンと牛乳

そろそろ夕飯の時間か。



俺の街では夕方の6時なれば夕飯が配給される。

自宅から5分ほどの場所にあるセンターで受け取るのだ。

今日の配給はパンと塩と牛乳。

仕事を終えた後はしょっぱい物が欲しくなるから

いつものパンに塩がつくのは少し嬉しい。


朝食もパン、昼もパン

でも大きさが少し違うのだ

夕飯のパンは少しだけ大きいのだ。


それに牛乳も一本もらえる。

水とは違って少し甘いから、一週間に一回の牛乳は楽しみだ。



一日が終わる、ようやく休める。

夕飯はそんな事を体に教えてくれる時間だ。


毎日のように配給されるパンに、たまに飲める牛乳


それだけが俺の食事だったのだが、それは突然崩される事になる。




ウウゥー ウウゥー ウウゥー


火事が起きた時のサイレンが鳴っている。

聴こえた方角から自宅の近くだと分かった

その時の俺は


ほっとしていた


「おいおいイワンじゃないか、家が焼けてたみたいだぞ」

走りながら俺の名前を呼ぶその男は、隣に住むエーロクという男だ


「またテロですか」


「ああ、最近はどうにも物騒だ本当に命が無事でよかったよ」


「俺もちょうど家が焼けただけと聞いて安心したところです」


「命だけは代えが利かないからな、うちも燃えてしまったから恐らく明日には配置換えだ」


「それじゃもう会う事も無いですね」


「難しいな、とにかく俺は一度センターに戻って転居申請をしてくるが・・・お前は?」


「俺はまだ夕飯を貰ったばかりなので、その辺で食べてからセンターに向かいます」


「そうか、じゃあこれがお前と会う最後になるのかな」


「ええ、また次の現場で会う事があったら仲良くしてください」


「勿論だ、それじゃ達者でな」


「それでは」





俺は転居申請もそうだが、ある一つの欲求で頭の中を満たされていた


腹が減った


早速近くの空き地に向かい、その辺に捨ててあったタイヤを重ね簡易的な椅子を作った

ようやく飯を食える

俺はビニール袋に入ったパンを取り出すと

ちぎる事なく大口かぶりついた


モグモグ


租借すると同時に、少し甘味が出て来る

でも味わう暇はない腹が減っているからとにかく腹の中に入れたくて

とにかく噛んで噛んで飲み込もうとする


ゴクン


案の定喉に詰まる

でもそれも計算のうちだ


ゴキュゴキュゴキュ


牛乳を飲む

パンを流し込むために牛乳を飲む

喉にまとわりつく甘い感覚

ああ、味って舌以外でも感じるんだな


そんな事を思っているうち、一口目のパンと牛乳は胃の中へ収められていった





・・・しまった




腹が減ってたし、久々の牛乳だ

しかし一口目のパンで半分も使うなんて、なんという失態

残りのパンは八割程度

配分を考えて牛乳を飲まなければいけない

気を取り直して食べ進めよう、今度はしっかり考えながら


ばくばく もぐもぐ ごくん


半分くらい食べたところで、俺はビニール袋の底に少しある塩をパンにつけた


いつもなら少し甘味があるパンが一転して

塩気があるおかげで、パンの甘味がいつもより増すのだ

そういえばエーロクさんが、パンにつけるのではなく直接指につけて舐めてたっけ


"だって、せっかく塩があるんだから直接塩のしょっぱい味確かめたいだろ?"


そんな事を言われた事がある


その言い分もわかるのだが、それでも単体で味わうより何かと一緒に味わうほうが絶対に美味しい

だから半分は普通に食べ、半分は塩で食べる

それが俺の流儀だった


「別に塩気がなくなるわけでもないのにな・・・」


夕焼けをバックにパンを食べながらポツリとこぼす

そんな寂しい人間をこの世界が笑ったのだろうか


ズズッ


座っていたタイヤが少しズレた

幸い転ぶことはなかったのだが・・・

残りのパンに残りの牛乳が全部かかってしまった


びちょびちょになったパン


それを持つ手


せっかくの夕食が、せっかくの休息の時間が・・・


俺は、パンだった物を見つめながら

それでもパンはパンだと言い聞かせ口に運ぶ


" "


ああ、やっぱりふやけてる

歯ごたえがない


モグモグ


あれ?でも決して悪い触感ではないぞ

パンの甘味と牛乳の甘味が合わさってるんだ


ごくん




・・・これ美味しい

口の中で牛乳とパンが混ざり合うのとはまた別に

完璧なまでに染み渡った牛乳が、パンのうまさを引き立てている

パンの冷たい感触も、いつもの食事とはまた別のベクトルで美味しいと感じさせた









"ふう"と一息ついたところで、俺は立ち上がった。

今日はこんなにも凄い発見があっていい日だった。

明日もきっといい日になるだろう。


手についたミルクの匂いを気にしつつ、センターへ歩を進めるのであった。

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