また会う日を楽しみに
真っ赤な花束を手に、彼女は畑仕事から帰ってきた。
薄暗くなりかけた夕日に、彼女の手の花と、よく日に焼けた肌がやけによく眼に映る。
「この花、周りの人たちは不吉だなんて口にしますけれど、私は意外と好きなんですよ」
ほんのりと赤く見える顔は、夕日のせいだろうか。それとも手の中の花束のせいだろうか。
「くたびれて腰を下ろしたら、そこに見事に咲いていたものですから」
それでついね、摘んできてしまったんですよ。と、彼女は言い訳のように口にする。
そんな彼女の、少女に戻ったかのような表情を見ていると、とてもその花が悪いものだとは思えなくなってしまった。
「家に飾ると子どもたちが嫌な顔をするかしらね」
手元で花弁を弄りながら、残念そうな声を出す。
「子どもたちが普段入りたがらない、私たちの寝室に飾ったらどうだ?」
「あら、それこそ不吉さが増すというものですよ」
くすりと笑い、一本だけ欠けた前歯が見え隠れする。
あぁいつもの彼女だと、何故か少し安心してしまった自分がいた。
「それには毒があるというが…さて、どうしたものかな」
子どもたちに何かあったら…と言いかけると、あらあらといった表情で少女の心の彼女は答えてくれる。
「水にさらすと毒は抜けるんですよ」
女心と一緒ですよ、なんて冗談も交えて。
本当に少女に戻ってしまったのだなと感心しつつ、彼女の肩を軽く叩く。
「さあさあ、早く戻らないと。ほら、お迎えが来てしまったよ」
「あらまぁ。早くごはんを作らないといけませんね」
遠くで、おばあちゃん、と呼ぶ声が聴こえる。
この日は珍しく一緒に、長い長い道程の家へと帰っていく。
そろそろこの辺りにしておかなければ。
「婆さんや」
私は歩みを止めて、彼女に声をかける。
「なんですか」
何の疑いもなく私の顔を見つめてくる彼女の顔に、心の中で謝ってしまっていた。
「ここから先は、貴女ひとりで先に帰りなさい」
「どうしたんですか、急に」
寂しそうな眼で問いかけてくる。
「生きなさい」
再び肩を軽く叩いて、そして背を押し出してやる。
彼女は歩き出した。一度振り返ったが、私が首を横に振ると、眼にいっぱいの涙を溜めて、また歩き出した。