04 37歳元ラノベ作家、同じレーベルからデビューした同期たちを思い出す
インターネットほど安価に暇をつぶせるものはないと思う。
したがって、菓子パンの中では比較的安いヤマザキの白あんぱんですら定価で買えない最近の俺は、一日の大半はモニターの前にいる。
マウスをクリックしていると、若手のプロ野球選手が同期のグループを発足したという見出しが目に入った。
最近は一般人も作るんだよな。入社した年とか生まれた年が一緒という薄い理由で参加を強制する会。
ラノベ作家にもそういうのがあるのかは知らないけど、俺にとって同期にあたる奴らはいた。
活字の出版部門で年一回、ホテルで集まりがあって、一般書とかラノベ作家たちが集まって飲んだり食ったりするんだが、立ち位置が細分化されていて、ラノベのこのレーベルの作家たちの初期の立ち位置はここ、みたいになっていた。
だから、担当に連れて行かれた場所に集まっている人間は、同じレーベルでラノベを書いている奴ってことになる。ベテランや中堅は知り合いに挨拶するために、すぐどこかへ行ってしまうので、残っているのはみんな新人だ。
俺がデビューしたときは、俺を含めて男三人、女三人の合計六人の新人がいて、その中の三人とは授賞式で会っていて顔見知りだった。残りの三人とは集まりで初めて顔を合わせて、挨拶して、名刺交換をして、どこに住んでいるんですかと当たり障りのない会話をした。
その後、誰が言ったか忘れたが、同期でお茶でもしましょうということになって、ホテル内のカフェでケーキ頼んで、六人で話した。
まあ、新人作家だけになると会話には当たり障りが出てくる。
一人、妙に業界に詳しい奴がいて、なんとかというラノベ作家はひどいわがままで、あんなことやこんなことを要求してきて、編集者も相当手を焼いているとか言い出して、そうなってくると、実は私もこういう話を聞いたことがあるとかで噂話がどんどん飛び出すわけだ。
一応、フォローしておくと、みんな、他の作家の悪口を言うのが大好きってわけじゃない。
ほぼ初対面の同じような立場の人間が集まると、共通の話題が噂話と悪口しかないってあるだろ。お茶の前に酒も入ってたし。
お互いの作品も共通の話題といえるが、感想を述べ合うことはなかった。
だって、読んでねーし。
俺以外の奴はどうか知らないが、漫画ならさくっと読めても、興味のない小説を通して読むのはラノベでもめんどくさい。
だけど、彼ら自身には興味がないっていうわけではなかったから、その後、フォローはした。
あの人たち、本出してるかなと。
で、結論を言えば俺以外は二年持たなかった。
デビュー作がシリーズ化されたのは俺を含めて三人。
一人は単独作品を何冊か書いた。
残りの二人はデビュー作のみ。
同期の中では一番粘った俺も、結局、デビューから五年持たなかった。
一連の流れをイメージ化すると、
賑やかな音と紙吹雪が舞う中、編集者が手を挙げて作った歓迎アーチを潜り、出版社が飾り付けた門を通って六人がラノベ作家になった。
その後、各々が、ドアが開きっぱなしになっている、なんにもない部屋に一人でしばらく座らされて、「あ、出ていけっていうことか」と気づいて退場した。
そんな感じだな。
今、編集者に恨みなんて一つもないよ。いや、まじ。
同期たちもそうだと思う。お互い様で音信不通だから聞いたことねーけど。
でも、もし同期が集まる会があって、今、俺がそこに参加したら、他の作家の噂話じゃなくて、編集者に対して思っていることを一つ、みんなに言うだろうな。
なにかって?
うらやましいという気持ちだよ。
俺も会社員として物作りに携われていたら、今でもプロの現場にいられたのにとね。