12 37歳元ラノベ作家、自著を自炊代行業者に送る
今日の俺はいつもよりテンションが高い。
先ほど、銀行口座を開設したかどで、ポイントサイトから1500円が振り込まれたのを確認したからだ。
一般人からすれば、1500円なんて居酒屋で店員に向かって「唐揚げ」だの「焼き鳥」だの10秒ぐらい喋ってれば使い果たす金額だろうし、作家にとっちゃ「家でやると息が詰まるから」とかいうクソ理由で、ファミレスでこれみよがしに推敲とか赤入れやって、山盛りポテトフライとかドリンクバーとか頼んでいるうちに消える額だが、今の俺にとってはかなりの大金である。
また貧乏自慢かよと思われるかもしれないが、俺は、月の半分以上の食事を6個入り108円のレーズンパン2個でしのいでいる。そのため、ここ数年、俺の平均的なメシ代は36円になる。したがって1500円は約42食分のメシ代に相当する。一般人の平均的なメシ代を500円とすれば、55食分は22500円だから、だいたいそれぐらいの臨時収入があったと考えてくれれば伝わるだろう。
ついでに、これからも話に出そうだから、俺に1500円をもたらした「ポイントサイト」について説明しておくか。
簡単にいうと、広告をユーザーにクリックさせ、それによって発生した報酬をユーザーと山分けするネットサービス業者ってことになる。
たとえば、ある銀行が広告代理店に対し、
「新規で口座が開設されたら一件ごとに『3000円』お支払いしますので、当銀行の口座開設を促進する広告を作ってください」
と依頼したとする。
広告代理店は依頼を受けて、
「今、銀行の口座を開設すれば『2000円』をプレゼントします!」
と、消費者を金で釣る広告を作る。
広告を通じて口座が開設されたら、広告代理店は2000円を口座開設者に払わなきゃなんねーけど、銀行から3000円もらえるから1000円の利益を得られる。
【銀行】→3000円→【広告代理店】(1000円中抜き)→2000円→【口座開設者】
こんな感じな。
ポイントサイトは広告代理店と消費者の間に一枚噛んでくる。
こいつらは広告代理店が作った広告を流用して、
「当サイトの登録ユーザーさん、今、銀行の口座を開設すれば『1500円』分のポイントを付与します!」
とやるわけ。もしユーザーが口座を開設したら1500円払うことになるけど、広告代理店から2000円のキャッシュバックを受け取れるから差額の500円は確保できる。
金の流れは、
【銀行】→3000円→【広告代理店】(1000円中抜き)→2000円→【ポイントサイト】(500円中抜き)→1500円→【口座開設者】
こうな。
なんか、ポイントサイトは、広告代理店と直接やりとりすれば報酬を満額もらえることを知らない情弱相手のサービスっていう風に見えるかもしんねーけど、あながち、そうとも言い切れねーんだな。
ポイントサイトを通す一番のメリットは、金が入るスピードが速いってこと。なんで速くなんのかっつーと、広告代理店から「確かに広告をクリックして申し込んだことを確認したので一ヶ月後に報酬を払います」と連絡が届いた時点で振り込んでくれるから。つまり、報酬を立て替えて先払いしてくれるんだな。
一ヶ月後に2000円か、今、1500円か。
当然、後者選ぶわ。だって全然金ねーもん。
で、まったく使わない銀行、証券会社、FX業者の口座を合計で30ぐらい持つに至ると。残高合計も30円ぐらいだけどね。
ポイントサイトの説明が終わったところで、1500円の使い道を宣言しておくか。
気持ち的には食を優先して、俺にとっては贅沢品であるローソンの100円冷凍チャーハンを買いだめしたい。
ただ、臨時収入は普段使わないものに使いたいという気持ちがある。なんかさ、金が食費にだけ消えていくのって、よくわかんないんだけど精神的にくるんだわ。せめて一ヶ月に一回は、消える物じゃなくて残る物を買いたい。
そんな俺が今回選んだ臨時収入の使い道は、
『自著を自炊代行業者に送って電子書籍化』
具体的にいうと、ブックオフで買い集めてだぶっている、デビュー作から最終作まで俺のラノベフルセットをスキャン代行業者に送り、裁断とスキャンをしてもらい、電子書籍ファイルとしてメールで送り返してもらうという寸法。
いや、ファイルをネットにアップしてタダでダウンロードさせ、承認欲求を満たしたいとかじゃねーよ。
そうじゃなくて、漠然となんだけど、自分がこのまま年を取っていって五十、六十になって、必然的にホームレスになって、そのとき、自分は昔、作家だったということを示すものが一つもなかったらつれーなと。いろいろと。電子ファイルにすれば、きっとどこかに残しておけるからさ。
この間、ブックオフで自分の本を買ったとき、発売されてから10年も経っていないのに、ページがまるで煙草のヤニが溶け込んだ水につけたように変色していた。価値を見いだせない、見いだせなくなった人から見ればゴミだよ、あれ。
今、俺の本は全冊、アマゾンのマーケットプレイスで一円で買える。
でも、いつ買えなくなる日がくるだろう。売れ切れるんじゃなくて、売れずに廃棄されるから。
誰かの家にある俺の本も、いつか捨てられる。
小説家になろうとしていたとき、当然、プロとして本を出すことが夢だった。
その夢は叶ったよ。
でも、出した本を後世まで残せる作家にはなれなかった。
今、思うんだよね。
夢として抱くべきだったのは、こっちの方だったってさ。
スキャン代行業者のサイトを見るとさ、『受けつけられない著者一覧』みたいなのがある。
難しいことはよくわかんねーけど、著作権云々でスキャン代行業者の存在を認めていない作家とか漫画家が結構いる。代行業者はそういう人たちに訴えられるとやっかいだから、彼らの著作の受けつけを拒否しているわけ。
で、名前が挙がっている作家たちは例外なく才能豊かな大物、ベストセラー作家でね。
きっと、自分が書いた本があまねくゴミとして扱われ、この世から消えてなくなるかもなんて心配、したことないだろうね。
でも、世の中には残す努力をしないと全部廃棄処分され、自著が形として残らない元プロ作家もいるんだよ。多分、結構たくさん。
つーことで、俺の本はスキャン代行業者に送ってもらって全然いいよ。
つーか、捨てるぐらいならそうしてください。