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09 37歳元ラノベ作家、ネットカフェで漫画を読む

 俺にとってネットカフェに行くのは、三カ月に一回ほどの贅沢だ。


 いるだけで料金が加算される場所など、一週間、有り金100円でどう粘っていくのかを考えている人間にとってはとんでもないところとしか言いようがなく、今、背もたれのあるフカフカのシートでふんぞり返りながらコーンポタージュ風スープを飲んでいる俺は、最高にリッチな気分に浸っている。

 空間の温泉に入っている気分っつうの? なんか、「ああ」というため息が出てくる。

 ドリンクメニューではオニオンスープも好きだし、最近はソフトクリーム食べ放題なところが増えてきたのもいいね。


 だけど、俺がネットカフェに来る最大な目的は、癒やしを求めてではなく漫画を読むため。


 漫画が大好きっていうわけじゃないが、ノンフィクションでは一番好きかな。読むのが楽だから。

 ブックオフで読んでもいいが、あそこには必ず読みたいものがあるというわけではない。近所にあった本屋は全滅だ。だから俺が確実に読みたいものを読むためにはネットカフェに来るしかない。

 コーンポタージュ風スープとオニオンスープを交互に飲んで、夏は皿に盛ったソフトクリームを食べながら、どさっと重ねた単行本を読んで、読み終えたら帰って行く。だいたい千円ぐらい使うけど、千円で得られる満足感としては、ネットカフェは俺にとっては最高に近い。


 俺が読む漫画には、今、流行っているものもあれば、昔のものもある。

 昔のは、ネットのまとめサイトなんかを参考にして選ぶんだけど、何十年も前のやつで、タイトルも作者も聞いたことねーみたいなのでも、面白いのってたくさんあるんだわ、これが。


 で思うんだけど、ジャンプとかマガジンとかサンデー、あとその辺の派生とか読んでて、世の中にある「すごく面白いもの」を全部知った気になっていた昔の俺って、ほんと足りなかったなって。


 そこそこ面白いものは探さないと見つからないけど、すごく面白いものは、何もしなくても自分の視界に入ってくるもんだと思ってた。

 探すのなんてめんどくせーから、すごく面白いものだけ読めればいいって思ってた。


 最初の担当に、「作家として成功したいなら、とにかく本を読め」って言われた。「はい、わかりました」なんて殊勝に答えていた俺だけど、心の中では、すごく面白いものは全部読んでるからそれでいいし、とか言ってた。


 でも、ラノベ作家じゃなくなってから、余りまくった時間を使って、他人がすごく面白いと思ったものを調べていくと、ラノベ作家だった頃の俺って、カレーとハンバーグとパスタばっか食べて、世の中のすごくうまいものはすべて知っている気になっていたぐらいの未熟に思えた。

 ジャンルを問わなきゃさ、すごく面白いものって、おそろしいほどたくさん、宝探しかっつーぐらい、世界中にばらまかれているようにあるんだよ。


 それなのに、カレーとハンバーグとパスタの味しか知らない料理人、つまり俺のことだが、プロの世界で長くやっていけるわけねーわ。和食を作れって言われても、でたらめな味のものしか出せねーんだから。


 じゃあ、たくさんの味がわかるようになればまたカムバックできる?


 それをやろうとしている人は決して少なくない。


 でも、うまくいった人は少ない。

 なぜか。


 俺にはわかるような、わかんないような。とりあえず、またいずれ。

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