6、初めての魔法的なやつ
今日も3回目!
「アッシュさん!魔法を教えて下さい!」
「…へ?」
笑顔で問いかける俺と呆け顔のアッシュさんが顔を見合わせる。
ここはアッシュさんの勤めるズマナ村駐屯地である。アッシュさんを呼んだ俺は唐突そう切り出した。
この村に来てからハースさんには生活に大事なスキルや家事を教えてもらっていた。
しかし、せっかく剣と魔法の世界に来たのである、男なら魔法と剣で無双したいだろう。まあ今の俺の状態から鑑みるにアッシュさんみたいにあんな大剣に光を纏わせて魔獣を真っ二つなんてことはできないだろう。
でも魔法ぐらいなら使えるかもしれない。アッシュさんは俺を助けるとき魔法を使っているし、しかもアッシュさんの年齢は18らしい。そんな年齢で騎士になるほどの天才である。
アッシュさんの両親は魔獣に襲われて死んでしまったらしく、幼い頃からハースさんの元で育てられたらしい。13で首都にいる魔法の先生に魔法を、剣は自己流で学びわずか16で国の騎士試験に合格。首都勤めになる予定だったのを、直談判してここズマナ村に赴任されたという親孝行な人である。
そんな人から学べばきっと俺も魔法使えるようになると踏みここに来たわけである。
「ということで、魔法教えてください!」
「いや、ミズキちゃん、何がということでか分からないんだけど、まあいいよ、僕の今日の勤務は午前中だけだし午後になったら宿に迎えに行くよ!」
と、さわやかな笑顔を向けられた。この世界に来る直前の俺と同じ年齢でありながらなんというイケメン具合だろう。元男の俺としても惚れてしまいそうだよ。
「ありがとう!アッシュさん!やっぱりアッシュさんは私のお兄ちゃんだよ!」
なんて、笑顔でお礼を言うと、ちょっとアッシュさんが恥ずかしそうだ。そりゃ可愛い少女に笑顔を向けられたらロリコンじゃなくても照れてしまうだろう。
そういえば、俺が宿についてお風呂で自分の姿を鏡で見たとき自分の姿に色々と驚いた。
まずは顔、あどけさが残る顔ながら、きっと将来可愛く育つと予想できる感じだ。髪の毛は日本人特有の黒い髪が背中の真ん中辺りまで伸びている。
体型は少し痩せ型、身長は130ぐらいで平均よりは小さいぐらい。
そして、肌の色は日本人の肌がちょっと日焼けしたぐらいの色である。
まあ全体的に言えば保護欲をくすぐられる見た目だろうか。そりゃハースさんが撫でたくなるのも分かるわ。
(そういえば鏡を見ていたらハースさんが入ってきたっけ。あん時はすごい焦ったなあ。まあ今では一緒に仲良く入っているけどね。そもそも俺はロリコンじゃ無かったし、熟女にも興味はない。ハースさんは母代わりだしね。何より女だからかたまに宿でご一緒する女冒険者の皆さんを見てもどうも思わないしな。これは男として喜ぶべきなのか悲しむべきなのか…)
さて、先ほどアッシュさんと約束した時間になった。俺は宿のお手伝い用の制服から、普段着としてハースさんにもらったワンピースに着替えている。
(本当この、スカートってのには慣れないよなあ〜足がスースーするし)
初めて女の下着を着る時の俺の苦悩と言えば懐かしいものである。あの時失った何かに比べれば女装なんてのは大したことはない。自分の大事なものが無くなったんだなと改めて考えさせられる。もし、今より成長して胸が大きくなった時あれを付けなきゃならんと思うと…
「くっ…なぜ女の子で異世界に行ったんだよ!」
「どうしたの?ミズキちゃん頭なんか抱えて」
俺が頭を抱え自分の不幸を嘆いているとハースさんが来た。
(なぜこうイケメンなのだろうか…前世の私との違いはなんだったのか…やっぱり努力の違いなのか…)
と、前世の自分とのあまりの違いに嫉妬した俺は顔を上げると少し哀れむような目をしながら、アッシュさんをからかう。
「いやね、なんでアッシュさんがこんなイケメンなのに浮いた話一つも無いのかを考えてたんだよ。休みの午後とか普通は女の子とお出かけするもんだと思うのに、こんな年端もいかない私に付き合うなんてアッシュさんてコミュ障なのかとおもって」
「いや、そんなこと考えなくて良いから!ていうかミズキちゃんが魔法覚えたいって言うから来たんだからね」
「じゃあ、もし私が誘わなかったら?何してたの?」
「えっ…えっと…剣振って、寝転がってマンガでも読むかな」
最初のころ、すごい硬派そうなイメージでいたアッシュさんは次第に化けの皮が剥がれはじめ、今じゃこんな感じである。
この会話だけきいたらほんと元の世界の高校生と大して変わらない18歳だ。これが天才としてもてはやされる青年のありのままの姿である。
「まあ、アッシュさんのことはこの一ヶ月付き合いで大体知ってるしね。ま、そんなことよりほら魔法教えくれるんでしょ!さあ行こう!どこで教えてくれるの?」
「ミズキちゃんから言い始めたんじゃないか…まあいいけど、とりあえずちょっと行った先の原っぱに行こうか」
「りょうかい!」
俺とアッシュさんは連れ添って原っぱへと歩きはじめるのだった。
ーズマナ村のとある宿の一室ー
5人の男が一室に集まっている。
「頭領、準備は出来ました、いつでも決行できる状態です」
「解った、では最後の詰めといこうか」
リーダー格の男が他の4人にそう話す。その風貌は髭も髪も伸ばしっぱなし、しかし目の持つ鈍い光には彼が並の人間ではないことを物語っている。
「海の国の中でも重要な拠点であるここを潰せば海の国陥落に一歩近づける」
そう言って男達はとある作戦についての最終確認を始めた。
「しかし旦那、この村には絶刀の魔剣士がいますぜ」
1人の男が不安の声を上げる。絶刀の魔剣士。その名は今や世界中に知れ渡っている。
「それの対策は例のことをすれば大丈夫だ。それにやつ1人くらいは作戦に支障をきたすような存在ではない。それに好都合なことにやつは今日は午後からは休みのはずだ。」
そう言って男は卑劣な笑みを浮かべる。
「では決行は今日の夜中だ。野郎ども!てめーらの健闘祈ってるぜ!」
そう言って長髪の男はニヤリと笑いながら、杯に入ったお酒を飲みほした。
お読みいただきありがとうございます!
ということでついに事件が、近づいてきましたね
この事件がこの後の主人公の未来を大きく変える予定です。
とりあえず次回は魔法についての説明回となる予定です。
それよりもアッシュ君の変貌ぶりですよ、作者的にはどうしてもこういう弄られ役がいると話の筆が進むのでこうなっちゃいました。まあ、やる時はやってくれる男なので信じてください!
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