優秀なミソッカスの優秀すぎる部下軍団ができるまで
勢いで突っ走ったので矛盾点もあると思います。その場合は指摘してくだされば幸いです。
私には三人の兄と二人の姉がいるの。
一番目の兄は、剣の才能に恵まれた立派な方。綺麗な奥さんと、まだ歩くこともできないくらいの子供がいて、とても幸せそう。職業は王族の親衛隊の副隊長。出世の道にうまいこと乗っかったエリート様。
二番目の兄は、これと言った才能はないけど、努力家の立派な方。年下の恋人ともうすぐ結婚するそうで、とても幸せそう。職業は王宮の文官。努力が報われた秀才様。
三番目の姉は、とっても綺麗で魔術の才能がある立派な人。優しい旦那様との間に双子の兄妹が生まれて、とても幸せそう。職業は伯爵夫人兼王宮魔術師。結婚してからも研究に精を出す魔術師様。
四番目の姉は、物語を考えるのが上手な立派な人。婚期を逃したなんて言いながら、最近になってちゃっかりと同い年の婚約者ができて幸せそう。職業は作家。ベストセラーを次々に生み出す先生様。
最後の兄は、自分で才能をつかみ取った立派な人。可愛いお姫様とラブラブで、とても幸せそう。今の世間からの評価は、世界を救った勇者。魔王を封印して、破滅を防いだ英雄様。
そして私は、ただのミソッカス。恋人いない歴は年齢で、今はそこそこ幸せ。身分は学生。特筆できることの特にない穀潰し。
ここまででも大分嫌なんだけど、もう少しオプションで付加価値が付くのよ。
一番上の兄と二番目の兄は、子爵であるお父様と、前妻の間の子。二人とも、大事に大事に育てられ、今でもお父様の自慢だって言われている。
三番目の姉と四番目の姉は、前妻を亡くしたお父様と、前妻の妹だった後妻の間の子。この二人もやっぱり大事に育てられて、美しい花のようだって今でも皆が褒め称えるわ。
最後の兄と私は、お父様が浮気をしたときにできた双子の子供。兄は勇者になってからは国の自慢にまでなっちゃったわ。でも私は今もただのミソッカス。
私の苦労、わかってもらえた? 家での立場もよくない上に、特別な能力のない哀れな子。容姿が悪くないのは幸いだったわ。
学校では姉や兄と比べられて、家では使用人たちの冷たい目線に堪えないといけない。仲良くなったと思っていた人が、兄姉が目当てなんてことはもう慣れちゃったわ。
ねえ、同情してくれるわよね? だから私、ちょっとした下剋上を起こそうと思うの。私だって、比べられなければそこそこな人間のはずなのに、いつも素晴らしい兄や姉のせいでがっかりされるの。兄も姉もいい人だけど、それに比べられるのはもう嫌。だから、周りの奴らを見かしてやるのよ。
もちろん、貴方も協力してくれるでしょう?
◆◇◆
リーナ・チコッタに出会ってしまったのは、俺の人生で最大の成功であると同時に最大の失敗だった。
俺の名前はアルクス。リーナ嬢のクラスメイトで、成績は悪いけど悪巧みなら得意な貧民層出身の元貧乏庶民。今は一応親の商売が成功したからなんとか学校にも通えるけど、裕福でもない。今は格安の寮暮らし。とりあえず逆玉でも狙いたいとか思いながら、いろいろな女の子に告白しては惨敗しまくった。今では玉砕王なんてあだ名がついた。泣きたい。
そろそろ現実に目を向けて、自分に見合った身分の子を探そうかなぁ、と思っていた時、最後の最後でこのリーナ嬢に声をかけてしまったのが運の尽きだった。
彼女、リーナ・チコッタは子爵家の三女。成績は良く、生徒会副会長を務めたこともあるまじめな子だ。魔法も得意なようで、よく実技のお手本にされる。部活は家庭科部で、料理や裁縫も得意だとか。そして、ものすごく可愛い女の子だ。
背は低めで、少し痩せ型。ちょっと押したら折れてしまいそうなほど華奢で、儚げな雰囲気を醸し出している。白い髪は腰よりも長く、うっすらと水色にも見えるそれは透き通るように美しい。その髪を左右で結んでいるのが、派手すぎず地味すぎず、絶妙にリーナ嬢に似合っている。長い睫とパッチリとした二重に縁どられた目は青く、まるで夜の海を切り取ってきたかのよう。肌は恐ろしいほどに白いのに、頬や唇はバラ色に染まっている。
まさに完璧なお人形のような容姿。そして成績優秀、品行方正、家庭的なお嬢様。
だからつい、彼女に振られたら最後にしようと思って声をかけてしまったのだ。俺の好みドンぴしゃだったから。
断られるだろうなぁ、とダメもとでアタックしたのに、なんか拒絶されない。手作りのお菓子とかくれるようになった。
調子に乗って、チケットが余っているからと言って映画に誘った。二人だけどという俺の声が聞こえていないんじゃないかってくらい喜ばれた。
誕生日にプレゼントをくれた。マフラーと手袋だった。お礼に食事に誘ったら、やっぱり嬉しそうについてきてくれた。
なんだかだんだんと、最初の軽い気持ちよりも彼女が好きになっていくのを感じた。
よく二人で出かけるようになった。安い物ばかりで申し訳なかったが、何回かプレゼントも送った。安物だろうと、そんなことは関係ない、何かを送ってもらえるのが嬉しいと彼女は喜んでくれた。
あれ? これはまさか脈ありですか?
そう思って、大事な話があるからと言って彼女を食事に誘ったら、彼女からも話があると言われた。そこで期待した俺を責めないでほしい。
話し出しの譲り合いをした結果、彼女の方から話すことになった。そして冒頭の彼女の話を聞いたわけだ。そのあとに続けて言われた彼女の計画に驚いていたら、告白するタイミングは逃した。
彼女の家族はものすごいというのは公然の秘密だ(別に秘密にしていないようだけど)。全員が全員美しく、その上王宮仕えや伯爵夫人、今大人気のベストセラー作家など、とにかく凄いのだ。大物ばかりそろっている。
そしてついこの間、彼女の双子の兄、ルーカス・チコッタが魔王を倒した。そして隣国の第三王女と婚約したらしい。
もう冗談なんじゃないかってくらい完璧な家族。まあ現チコッタ子爵は浮気ばっか繰り返すろくでなしらしいけど。
そんな兄妹の中でのミソッカス扱いをどうにかしようと、彼女の思いついた作戦。それは、優秀な人材を自分の部下にすることだった。
◆◇◆
「何がどうしたらそんな結論に至るのか、頭の悪い俺に教えてくれるかな、リーナ嬢?」
「ふっふーん、一度しか言わないからよく聞いてね?」
「はいはい……」
紅茶を飲みながら胸を張るリーナ嬢。この子供っぽいところにも惹かれていったのだが、今は衝撃と何言ってるんだこの子はという気持ちの方が強い。でも可愛いな。
「今から特別な才能に目覚めるのは無理でしょう? だから、凄い人材を私が纏め上げればいいんじゃないかって思ったの。私は人を纏めることは得意だし、人を従わせるカリスマも一種の才能でしょ? 成功すれば皆私のことを少しは認めてくれると思うの!」
「なるほど……。で、凄い人材に心当たりはあるのか?」
「ええ、あるわ。この私が一月以上かけて仕上げた情報を見て頂戴」
本格的すぎて怖い書類を手渡された。中を見るともっと怖かった。まず名前、住所、彼女が凄いと思ったポイント、縮尺された肖像画が最初の数枚の紙に書かれている。ここまででも十分調べつくされていると思うのだが、そのあとの一人一人がさらに詳しく書かれた紙はもっと凄かった。家族関係、交友関係、好きな物、嫌いな物、今一番必要な物、昔の失敗、本人が一番隠したいこと、周りの評価、性格考察、好きなタイプ、嫌いなタイプ、今までの恋愛関係、財政状況等々……ここまで調べる必要がないんじゃないかっていうような情報まで載っている。
こんなに調べるから、一人分の紙が十枚を超えるんだよ。やばいよリーナ嬢の執念。でもそんなところも好きだ。そんな風に思う俺も結構重症だけど。
「……うん、君の熱意は分かったよリーナ嬢。次の質問だ。どうやってこの人材を部下にするんだい?」
「まず、性格の傾向が単純な人にはカリスマを見せつければいいと思うの。それでこのくらいはもう部下になってくれたわ」
リーナ嬢は十数枚以上ある簡易のリストを数枚持ち上げる。もうすでに計画は始まっていたようだ。彼女の行動力が凄い。そしてカリスマを見せつけるって、いったい何をしたんだろうか。考えたくない。
「あと、お金が必要な人にはいい職場を紹介したわ。恋人が欲しい人のために出会いの場も作ったし、こんな感じでさりげなく手助けした人は、部下ってほどじゃないけど私を今後も助けてくれるわ。人脈が広いっていうのも重要だと思うし、無理に部下にはしないわ」
さらに数枚のリストが分けられる。
「この辺は性格に難があるから後回しにしているわ。もう少し部下を増やして人脈を増やしてからアプローチするつもり」
「それで、この残りはどうなるんだい?」
後回しにする厄介者以外のリストは残り一枚。その中に書かれている名前を読んで、俺は驚愕する。
え、こいつまで部下にする気なのか?
「うふふ。そのために、貴方に協力してもらいたいのよ」
にこやかにリーナ嬢は笑う。可愛らしい、俺の大好きな笑顔なのに、この時の俺は嫌な予感で胸がいっぱいだった。
◆◇◆
「ルーカス、こちらはアルクス君。私と同じクラスの、私にとって大事な人」
「は、初め、まして。アルクス、です」
「もう、アルクス君ったら。そんなに緊張しないで?」
どうしてこうなった。
もう一度言おう。何度でも言おう。
どうしてこうなったんだぁぁああああああああああああ!!!!
「リ、リーナ? どうしたんだ、いきなり僕のところに友人を連れてきて」
「あら、ルーカスだってこの間お姫様を私に紹介したじゃないの」
「それとこれとは話が違うよ」
「いいえ、違わないわ。言ったでしょう? 大事な人だって」
「いや、でも」
「ルーカス、貴方には昔から迷惑ばかりかけたわ。優秀なあなたの陰に、私はずっと隠れて生きてきた。でももう大丈夫なの。だから、お姫様とお幸せにね? ルーカスなら、きっと兄様や姉様みたいに幸せな家庭を築けるわ」
双子の兄妹の会話を、部外者であるはずの俺が聞いているこの状況。そして、リーナ嬢自身はあくまでも友人としか思っていないであろう俺を、やけに思わせぶりな態度で双子の兄に紹介した彼女の真意。それは事前に聞かされていても、彼女の考え方を疑ってしまうようなものだった。
◆◇◆
「ルーカスはね、シスコンなの」
「……もう一度言ってもらえるかな?」
「だからね、ルーカスはシスコンなのよ。一寸の迷いもなく、私の自惚れでもなんでもなく、純然たる事実として、私の双子の兄はシスコンなの」
笑顔で言い切る彼女が、嘘をついているとは思えない。彼女は嘘をつくときに、前髪を少しいじる癖があるのだ。
……こんなことまで知っている俺はまるでストーカーのようだと若干落ち込む。告白のタイミング、次はいつになるのだろうか?
目の前にあるお茶菓子を食べながら、自分への情けなさから意識を逸らす。適度な甘みが嬉しい。
「ルーカスは私のことが大事で大事で堪らないの。最近はシスコンを自覚して、それを隠そうとしているんだけどね」
「そうかい。でも、それでどうやって彼を部下にするつもりだい? 部下になってくれと頼むとか?」
「いいえ、自分から部下を求めるんじゃだめなのよ。もっとカリスマをアピールするために、自発的に部下になってもらうの。そのために、アルクス君には私の恋人のふりをしてほしいのよ」
……思い切りむせた。食べていたクッキーが気管に入った。
「アルクス君!? いきなりどうしたの? 大丈夫?」
「いきなりどうしたかって……訊きたいのは俺の方だよ、リーナ嬢。なぜいきなりそうなるんだい」
「嫌ならいいのよ。他の人に頼むわ」
「嫌、むしろほかの奴にその役目をやらせるのだけは嫌なんだけども。俺が聞きたいのは、そうすることでどうして君の兄を部下にできるかってことだ」
さらっと口を出た告白モドキに気付きもせずに、リーナ嬢は説明を開始しようとする。さすがに悲しくなってくる。もう、彼女の計画が一段落したら、次こそは告白しよう。
説明の前に紅茶で喉を潤した彼女は、俺にとって嫌な予感しか感じさせない笑顔で言葉を紡ぐ。
「だからね、私にはもう守ってくれる人がいるから、ルーカスはお姫様を幸せにしてあげてねって話の流れにするの。そうしたら、自分がもう必要ないみたいって思ったルーカスが勝手に部下になってくれるわ」
「そううまくいくものかな? 君の計画安易すぎて心配だよ」
「大丈夫よ。もしうまくいかなくても、お姫様とうまくいって欲しいのは本心だもの」
「そうかい」
そういう意味で聞いたんじゃないんだけど。
「だから、明日一緒にルーカスに会いに行ってほしいの」
俺が断るなんて全然思っていないだろうその笑顔を見て、俺は逃げ道がないことを悟った。
◆◇◆
というわけでさっきの場面になったのだが。
「リーナ、僕はもう君には必要ないのか?」
「いいえ、ルーカスのことは本当に大事に思っているわ。でも、私たちももう自立しないと。わかってくれる?」
「わかっている。わかっているけど、僕は君からは離れられないよ、リーナ。僕のことが大事なら、僕の頼みを聞いてくれ」
リーナ嬢の思惑通りに事が進んでいて、正直怖い。そしてこのルーカス・チコッタ、単純すぎる。世界を救った勇者がこれでいいのか?
彼女は全然ミソッカスなんかじゃないと思うし、部下を集める前段階からしてもうすでに優秀すぎるのがわかる。実際、この計画に意味あるのか疑問だ。そもそも、彼女は特筆して一つの才能がないだけで、いろいろなことを器用にこなし、それを繋げて自分の望みどおりの結果を生み出すことができる人だと思う。現に今そうしているし。
それでも、リーナ嬢が望むなら俺はそれに付き合おう。この後に残っている部下候補は曲者ぞろいで、正直ちょっと逃げ出したい気分だけど。でも、彼女が望むことなら、俺は多分、どんな面倒事でも引き受けてしまうだろう。
彼女が好きだ。最初の軽薄な気持ちなんて比じゃないほどに好きだ。
よく考えたら、こんな風に動く俺は、彼女からすれば最高に使い勝手のいい便利な部下だろう。俺の気持ちに気付いているとは思えないが(気付いていたら、彼女はもう少し遠慮する。そういう人だ)、このままだと永遠に俺は部下扱いだな。
ちゃんと気持ちを伝えないとな。
そう思いながら、俺は双子の兄と激甘な会話を続ける想い人を見守っていた。
◆◇◆
昔、一大組織を率いた女性が居た。
彼女はリーナ・チコッタ。まるで天使のように愛らしい容姿と、それに見合わないほどの底知れぬカリスマ性を持つ彼女に心服する部下は、誰もかれも優秀な者ばかりであったという。
その組織がなぜ結成されたかはわからないが、慈善活動や国の特産品づくりなど、様々なことに取り組み、人々の生活を支えていったと伝えられている。
さて、そんな組織の女帝、リーナ・チコッタの最初の部下と言われる男がいる。
平民の出ながら、彼女に仕え、そして彼女を愛したその男の名はアルクス。特筆すべきところはなかったが、組織の運営を担当するために様々なことを学んだ彼は、やがて組織のナンバー2に相応しく成長したらしい。
そして、組織が大体完成した年、リーナが十七になった時。アルクスの念願は叶い、リーナ・チコッタと結婚したという。
恐ろしいほど人の心を掌握することに長けたリーナ・チコッタが、彼の気持ちにまったく気が付いていなかったというのは、今でも有名な逸話だ。
最初の考えでは、乙ゲーの世界ということになっていたはずだけど面倒なのでなしになりました。あと最初は主人公は勇者系で、もっと本当に下剋上チックだったはずですが成り行きでこうなりました。
アルクス君は苦労人ポジションです。そしてリーナは実際超優秀ですが、劣等感が半端ないので自覚がないです。せいぜいちょっと優秀くらいにしか思ってない。
最初は本当に無能な主人公が周りを巻き込んで、優秀なライバルを数の力でぶちのめす話だったのに……なんでこうなったんでしょうか?
とにかく、こんな良くわからん話を読んでくださって、ありがとうございました!




