第二話 俺たちは旅に出た1
どうやら俺たちは神に選ばれたらしい。いや、全然意味わからんが
「お兄ちゃんはさ、八百万の神って知ってる?」
「あれか?すべてのものには神様がいるってやつか?」
「うん、その八百万の神様に近い形なんだけど」
近いって、実際には違うみたいな言い方だな…
「神って言ってもね、すべてのことができるわけじゃないの、だから、世界を創るだとか、そんなことはできない」
「それじゃあ何ができるんだ?」
「うーん、負の力と聖の力で世界の調和を保つ、ってところかな?」
それって神様って言えるのか?どちらかと言ったら天使と悪魔じゃねえか・・・
「それって、どちらかというと天使と悪魔だよな?」
「うん、そうなんだ、天使と悪魔、でもお兄ちゃんの思ってる神様はいない、存在しないんだ、あくまであれは人間が考え出した理想像だから」
うわ、紗季のやつ、いきなりぶっちゃけやがった、神なんていないって断言しやがった、神に選ばれたとか言ったくせに
「でね、お兄ちゃん、これからはお姉ちゃんって呼んでいい?」
何を馬鹿なことを抜かしてるんだ我が妹は、いや、待てよ?今俺女なんだよな?外に出ててお兄ちゃんって呼ばれてたら確かにおかしいか…
「は?あ、そうか、そうだよな」
「それとね、お姉ちゃんは今女の子なんだから、女の子らしい喋り方がじゃないとおかしいと思うの」
いや、俺のアイデンティティはどうなるんだ、だが、見た目が女の子な今、確かにこの喋り方だとおかしい、それはわかってるんだが、認めたくない。
「お姉ちゃん?」
「わ、わかった」
「それじゃあ、お母さんとお父さんのいるリビングに行こうか」
は?今コイツなんつった!?親のとこに行く?いやいやいやいや、馬鹿じゃねぇの!?自分から処刑されに行くようなもんだぞ!?せめて隠すとか何とかしてくれよ!
「馬鹿じゃねぇの!?」
「お姉ちゃん?」
うわ、表面上はすごく純粋な笑顔なのに、目が笑ってないよ、どす黒いよ!?
「ば、馬鹿じゃないの!?」
「バカじゃないよ?」
今度こそ純粋な笑顔だ、ってそうじゃない!
「あのね?紗季、あんた、親が私のこの状態を知らないのにいきなり『お兄ちゃんがお姉ちゃんになりました!!』なんて通用するわけ無いでしょ!?」
「知ってるよ?」
何…だと?
「だから最初に説明したじゃん、お姉ちゃんはお姉ちゃんだったって」
どうでもいいけども紗季、お姉ちゃんはお姉ちゃんだったって表現すごくわかりづらいぞ…
「いい?お姉ちゃん?お姉ちゃんはね、昔は女だったの、でも5年前の事件をきっかけに、お姉ちゃんはお兄ちゃんになったんだよ?」
5年前、紗季が失踪した頃か…
「お兄ちゃん、ごめんね、私、実は失踪なんてしてないの」
今さらっと驚愕の真実を聞かされたような…
「とにかく、私の話は後でするから、リビングに行こう?」
そしてさらっと流された…
△▼△▼△▼△▼△▼
「紗季、大丈夫だったか?抵抗されてないか?濃厚な百合はちゃんと咲かせたkグべぇ」
リビングについて早々、父さんは紗季にぶん殴られていた。いや、当たり前だ、このエロ親父、ってうわぁ、母さんが般若面みたいになってる…
「あなた、水と火と空気どれが好みなのかしら?」
「ごめんなさい」
内心ほっとした、やっぱり家族はいつもどおりで、前までの関係が崩れるわけでもなく、父さんはエロオヤジで、母さんは怒ると怖いけどやっぱり優しい母さんで、紗季は一見すると根無し草だけど、しっかりしてて…でも俺は?
俺って、何なんだろう、私って、何なんだろう…
「お兄ちゃん!!」
紗季にそう呼ばれて、ハッとした、今、俺、何してた?自分の存在があやふやになって、もしかして俺、消えちゃうのか?
「お兄ちゃん、聞いて、これはとっても大事なこと、お兄ちゃんとお姉ちゃんは今、とっても不安定なの、どっちかの存在が消えるともう、帰ってこれなくなるんだよ?」
「なんだよ、それ」
俺が消える?いや待てよ?
「それなら、優希の方が消えればいいんじゃ…」
そう言った瞬間、紗季に頬をおもいっきしひっぱたかれた。
「お兄ちゃん、最低だよ、いくら自分がわけのわからない状況に立たされて、しかも存在が消えるかも知れないとか言われても、お姉ちゃんが消えればいい?ふざけないでよ!お父さんも、お母さんも、もちろん私もお姉ちゃんも!みんなで解決しようとしてるのに、ひどいよ…」
そう言った紗季は、泣いていた。
母さんも、俺も泣いていた。
「あれ?なんで?なんで俺、怒られてるのに泣いてんだ?」
感情が制御できない、まるで誰かに操られているように涙が流れる。
そうか、多分この感情はもうひとりの俺、優希のものだ、信じられないが、確かに今の俺は、大切な家族を身体の内にもうひとり持ってる。
いつかはわからないが、きっとコンタクトを取れるようになれば、いや、ならなきゃなんねぇ
「父さん、彼女とコンタクトを取る方法ってないのか?」
俺の質問に、父さんはしっかりと答えた。
「よく聞いてくれたな、いいか、彼女とコンタクトを取るにはお前の魔力、そしてお前の存在を鍛えることだ、そして、それができればきっとお前も男の姿に戻れるようになってる」
「ほんとか!?」
「ああ、まずはお前の武器を取りに八ヶ岳まで行くんだ、そこに俺の兄が居る」
八ヶ岳!?え?遠くね?
※八ヶ岳(やつがたけ、八ケ岳とも表記される)は、長野県の諏訪地域と佐久地域および山梨県の境にある山塊。南北30 km余りの山体で、大火山群である。登山家である深田久弥が選定した日本百名山の一つ。(Wiki参照)
ついでに山田家は千葉県にあります。
「優希紗季、これを持って行って」
母さんが冷蔵庫から取り出した物を渡してくれた。
「わあ!肉じゃがだ!!」
あっつ!!??なんだこれ!!え?いきなりギャグ要素!?てか、今さっき冷蔵庫から出してたよね!?
なんで冷蔵庫に入ってたのにこんなに熱いんだよ!!??
「冷めれば冷めるほど熱くなる肉じゃがよ?旅の途中に食べて元気出してね?」
「いらねーよ!!」
「よかった、いつものお姉ちゃんに戻った!あれ?お兄ちゃんでもいいんだよね?」
そうか、みんな俺の事を思って…
「頑張れよ、優希」
「母さんたちも応援してるからね?」
「うん、行ってきます」
こうして俺と紗季は旅に出た。
続く
次回予告
女になって初めて気づく、視線、視線!視線!!
そしてあらわれた敵(痴漢)!!
電車という閉鎖された空間の中で少女二人(中身男一名)はどうたちむかうのか!?
更新は4月6日予定です