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トリス先生の日常 おまけ(エリエールの回顧録直後)

『エリエールの回顧録』の直後のお話です。

※短編集に入っている『エリエールの回顧録』のネタバレを含みます。

――墓参りの日の午後


「そっちは大事な薬草だから、絶対抜くなよ~」

 我が家の畑の中身は薬草が半分、いろいろな種類の野菜が半分と言ったところだ。


 朝の早いうちに出かけて、昼過ぎ戻り、ジャガイモ堀りを村の子どもたちとしていたのだが、ふと見ると、道を外れて、森に入ろうとしている。


 服装からすると、それなりの身分のある人だと覗える。


 私は、その男性のところに、とことこ走っていって、男性を呼び止める。

「あの、この森結構広いですから、迂回したほうがいいですよ。狼も出ますし」

「この森に用があるんだ」

 だから、危ないって言ってるのに。


「どうしても?」

「どうしても」

「じゃあ、これお守りです。30歩くごとにいてください。一滴か二滴ほどで十分ですので」

 私は、瓶をその男に手渡した。

 今朝、多めに持って行った分の残りだ。


「なんだ?」

「獣よけですよ。150ゴールド」

「どうしようかな~」

 迷う男性。ちょっと高いお守りと思ったら、それほど悪い値段ではないはずだ。 


「先生、父さんの時の二倍だね」

 村の人に渡す時は大体75ゴールドぐらいで売っている。ほぼ同額分の野菜との物々交換の場合も多い。

 身なりがいいから、十分払えるだろうと吹っかけたのだが・・・

 最近掛け算を覚えた子どもが得意げに話に割り込んできた。


「しー。余計なことは黙っている!」

 こっちだって、結婚したばっかりで、何かと入用なんだ。

 結婚にあわせて、住居兼学校を一つ建てたから結構お金が飛んだのだ。

 都会のおぼっちゃんからちょっとくらいぼったくってもいいだろう?


 結局、人生初のぼったくりは成功せず100ゴールドで手をうつことになった。


 ☆


 夜明け前にどんどんと戸を叩く音を聞いた。


 急患?ここはお医者さんじゃなくって、薬屋なんだけれどな。


 寝巻きのまま扉を開ける。

 一応、強盗の可能性も考えて、フライパンを後ろ手に持っている。

 こんなところで強盗するくらいなら、王都でやったほうがずっといいだろうが、念のためだ。


 開けた扉の先に立っていたのは森に入って行った男性ひとだ。

「こんな時間にすみません」

 男性が頭を下げる。


 11月の夜は寒い。早く身体を温めないと。事前に暖炉の火を入れ、ちょっとずるをして、彼から視えない台所の奥に熱を発する玉を置き、お湯を沸騰させて、茶を出す。


 ロザリーと結婚した時は本当に魔法の使用をやめようと決意したのだが、息をするのと同じくらいなじんだものをやめようと思ってもやめられられるはずも無く、決意は1日もたなかった。


「寒かったでしょう」


 彼の前に茶を出したあと、自分も机に座り、茶をすする。身体がじんわり温まっていく。

 彼は本棚から本を取り出して、たいして長くもない話を真剣に読んでいる。


「珍しい話が多いですね」

「そうですか?この村の伝説とか、言い伝えやら、あと私と彼女が考えたお話を書いているだけでして・・・」


 私は、朝食の準備をしているロザリーに目を向け、すぐに目の前の男に視線を戻す。

 その男はしばらく本をぺらぺらめくっていたが、本を閉じると、カップを持ち、一口だけ紅茶を含む。


 それだけだったら、身体あったまらないと思うんだけれどな――

 そんなことを思っていたら、彼はひたりとこちらを見据えた。


「森の中で会った素敵な女性からマフィンだけじゃ喉が渇くので、“あなた”のお茶を持ってくるように頼まれました」


「は?げほっ」

 私は、思わず紅茶を変に飲み込んでしまった。


 咳き込んでいる私に、彼は恐るべき言葉をぼそりと告げた。

「11歳 馬 大泣き」


 今度こそ、盛大にカップをひっくり返してしまった。

「それ、どこから聞いた?」

 たしか、あのことはロザリーにも言っていない。

 目の前の彼が、昨日供えたバラやらマフィンやらを見つけたとしても、200年前、私が11歳の時に馬が死んで大泣きしたことなんて知らないはずだ。


「エリエールじょうからの伝言です。『ご結婚おめでとうございます』と」


 その言葉に、不覚にも名前も知らない男の前で泣いてしまって、「私の前でしか泣かないんじゃなかったの!」って奥さんから怒られた。


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