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20 アイリスとハンスの日常2(試験日・試験日翌日)

トリス先生を見守ってきた二人。

前半アイリス視点で、後半ハンス視点になります。


 ☆☆アイリスの日常2☆☆


「試験は今日だったみたいだけれど、どうなったかしら?私はロザリーちゃんに押し倒されるほうに一票」

「押し倒されるって・・・せめて、押し切られるくらいにしとけよ」

 旦那は、苦笑いで答えた。


 他の可能性も、ちらりと頭の中に浮かんだが、私もハンスもその可能性は口には出さなかった。


 ☆


 私は、子どもたちに、先生の指にシロツメクサの指輪がはまっているか確認するようにしっかり言いつけて送り出した。


 長男のシャムローが、帰ってくるなり、一枚の紙切れを渡した。

「先生が、父さんか母さんに渡せって」

 先生の家に行ってみたら、先生がどっか消えているという事態にならなくて良かったが、はて?

「わたしら、こんなの渡されても読めないわ。あんた読みなさい」

 シャムロックが来る前の村では、文字を知っている人もわざわざ習おうなんて人もほとんどいなかった。私もハンスも字は読めない。


「『ロザリーのことうまくいったから、おやしろに来てくれ』って」

 おやしろなんて、新年の祈願や豊作祈願などの願掛けか出産の報告か葬式か――

「今から?」

「『できるだけすぐ』って。ああ、それと先生の指輪二つになっていたよ。シロツメクサとアカツメクサ。それとロザリー先生の指にも――」

 

 ロザリー先生?息子にいろいろ聞きたいが本人たちに聞いたほうが早いだろう。

 思いっきりがいいのかぐずなのか。はあ。


「あんたら、今すぐ一等いっとういい服に着替えなさい。で、早く着替えたほうが、父さん呼び戻して」

 長女と長男に指示を出すと私は末っ子のおむつ替えと自分の着替えに取り掛かかった。


 ☆☆ハンスの日常2☆☆


「シャムロック、おめでとう!」


 アイリスは先生を見つけるなり走っていって彼にぎゅっと抱きつくと彼の頬に口づけた。


「私だって、キス一回しかしてないのに・・・」

 俺の隣で取り残された花嫁はぽつりと呟く。


 その声がどれくらい聞こえたのか知らないが、アイリスは俺たちのほうを振り返る。

「花嫁さんと浮気したらダメよ」


 おい!俺ら並んで立っているだけだぞ。

「その台詞せりふ、俺はお前に言いたい」


 10年前は、美女の姿の上、中身はゾンビだって知っていたから、アイリスが抱きつこうがなんとも思わなかったが、今は男のうえ、美形だ。

 いくら嬉しいからって、旦那の前で抱きつくな!(俺の知らないところで抱き合っても困るが)


「ア、アイリス・・・。とりあえず離れてくれないか?」

 先生が、ちらちら、こちら――というよりか花嫁を気にしながら言う。


 アイリスは先生の言葉に頷くとぱっと離れて、今度は花嫁の前に来た。

「ごめんね。嬉しくて、つい。でも、唇は残してるから」


「あの・・・シャムロックって?」

 ロザリーちゃんが不安そうにたずねる。

 ああ、先生、なんにも話していないのか?

 俺は妻と顔を見合わせる。

 ずっと隠しおおせるとは先生も思っていないだろうが、俺らが勝手に彼の過去を暴露していいはずがない。


 妻はきっと先生に視線を向ける。


 ――あんた。奥さんになる人に何も言ってないの?――

 ――ごめん。説明漏れ。他は大体言ったから――


 二人のアイコンタクトは大体こんなところだろう。


 が、アイリスがロザリーちゃんの知らない先生の過去を知っているような発言をした上、目線での会話をおこなったせいで、ロザリーちゃんの機嫌はさらに急降下。


 アイリスはロザリーちゃんの不安を取り払うように、にっこり微笑む。

「先生のことで疑問があったら後でいくらでも答えてあげるわ。でも、ここじゃあちょっとまずいわね」

 お社には、ロザリーちゃんの両親も来ているのだ。


 さっきから、ロザリーちゃんの両親が――特に父親が険しい目でこちらを見ている。

 そりゃ、娘の結婚式で新郎が他の女性に抱きつかれた上、キスされていたら怒るわな。


 花嫁さんは「先生。せっかく求婚してもらって悪いですけれど、考え直していいですか?」などと言い出す始末。


 呼ばれて、急いで来たから、昼飯を食べてないのに。

 ああ、早く終わらせて、昼飯ひるめし食いてぇ。


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