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ETERNAL CHILDREN ~永遠の子供達~  作者: ラサ


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 陽が、傾いていた。

 一日が終わる。

 二人は裸足のまま砂浜を歩いていた。

 両手に靴を持って、まだあたたかな砂の感触を確かめるようにゆっくりと。

「マナ――」

 小さな声に、ユウよりもほんの少し先を歩いていたマナは、静かに振り返る。

「何?」


「帰っても、いいよ」


「え――?」

 聞き返したマナに、ユウは繰り返す。

「帰ってもいいよ。今なら、止めない。あんたは戻りたい場所がある。フジオミと、行けばいい」

 その言葉に、マナは驚きを隠せなかった。

 彼の口から、そんな言葉を聞こうとは思ってもいなかったのだ。

 ユウはマナと目を合わせないままだ。

「ユウ、あなたはどうするの」

「――俺は、もとに戻るだけだ。ただそれだけだ」

 そう言うと、ユウは再び何もなかったかのように歩きだした。マナを通り過ぎ、ただ静かに。砂を踏む音も波に重なり聞こえない。

 マナはしばし、その場に立ち尽くした。

 ユウの気配がそっと離れていくのがわかる。


 もとに戻る。


 簡単な言葉だった。

 けれど、そんなことはもうできはしないのだ。

 それを、二人が一番よく知っていた。

 老人はもういない。

 自分がドームへ帰ったら、彼は一人になるのだ。

 たった一人で、残る生涯を過ごすというのか。

「――い、一緒に行きましょう、ユウ。そうよ。博士に頼むわ。あなたが一緒に暮らせるように」

 振り返りざま、マナは言った。

「できない」

 振り返らずに答えるユウ。口調は苦しげだった。

 だが、マナにはわからなかった。手に持っていた靴を放り出し、駆けよる。

「一人なんて、だめよ。あたし、あなたをおいては行けない。お願い、一緒に行きま――」

「そうして、あんたとフジオミを見てろって言うのか!! 一生黙って!?」

 マナの言葉を、ユウが遮る。

 両手を伸ばし、力を込めマナを引き寄せた。

「――」

 マナの驚く間もなく唇が重なった。

 前とは違う、ほんの一瞬の、ただ求めるだけのくちづけ。

「なんでだ……」

 強くマナを抱きしめて、ユウは呟いた。

「あんたが好きだ。誰にも渡したくない。でも、わからないんだ。これがどんな気持ちなのか。あんたを母親として愛してるのか、違う女として愛してるのかわからない。ただ、あんたが好きだ。それしかないんだ」

 彼の身体は、震えていた。

「好きだ――好きなんだ、マナ。こんなに好きなのに、どうして駄目なんだ……っ!!」

 激しい感情が伝わる。

 ぎりぎりの理性を、危うい激情を、相反しながら内に保つことに、ユウもまた疲れていた。

 愛しているのに、こんなにも求めているのに、許されない想いに。

 マナは、そんなユウが愛しかった。だから、腕をのばして彼を強く抱きしめた。

 ユウの身体が強ばったのがわかった。

「ユウ。あたしも好き。あなたが一番好き。この気持ちは、なかったことになんてできない。あなたを愛してる」

「マナ――」

「あたし、もうドームへは帰らない。あなたと生きるの」

 ぎこちなく、ユウは抱きしめていたマナの身体を離した。

 狼狽えた瞳が、見返す真摯な眼差しのマナを見下ろしていた。

「マナ。俺はあんたに未来をやれない。残るものを、与えてやれない。それでも、俺を選べるのか」

「選ぶのではないの。そんな感情じゃ、ないの。あなたを好きなの。一緒にいたいの。未来の何も、関係ないの」

 一途な想いで、マナはユウを見つめた。

 それを感じとったユウは、恐れるように震える手でマナの頬に触れた。

「本当に、マナ…?」

「ええ」

「不便な生活しか、ないよ…」

「あなたがいるわ」

「子供も、やれない……」

「あなたがいればいい。ドームにあるどんな幸せより、あなたがいる幸せのほうがいいの」

 ユウはきつく唇を噛みしめた。泣きだしそうな顔で、マナをずっと見ていた。

「――俺も好きだ。あんたを愛してる。あんた以外欲しくない。こんなに、好きだ……」

 そのまま、二人は唇を重ねた。

 マナは、これを罪だとわかっていた。

 ユウも、わかっていた。

 けれど、二人とも溢れる想いを止められなかった。

 そして罪だとわかっていても、それでも二人は幸せだった。

「ユウ――」

「愛してる、マナ…」

 ささやきだけで、こんなにも嬉しい。

 抱きしめてくれるだけで、こんなにも愛しい。

 自分達は、会ってはいけなかった。

 惹かれてはならなかった。

 けれど、会ってしまった。

 惹かれてしまった。


 波の音が聞こえる。


 自分達は、たった二人でなんて遠くまで来てしまったのだろう。


 もう戻れない。

 戻れないのだ。




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