ブラジャーが液状化する日
朝七時。
姉の悲鳴で目が覚めた。
「ブラジャーが流れてる!」
声のしたほうへと行ってみると、つるつると滑る液体を姉が追いかけ回していた。
液体は床から壁、天井へと自由自在に滑り回っている。
「待てっ!」
姉がなんとか捕まえた、かと思えば液体はつるりと指の間から逃げ出した。
そんな姉をスルーしてテレビを点ければ、アナウンサーが落ち着いた声で言う。
「本日は高気圧の影響で、全国的にブラジャーの液状化現象が見られます」
天気予報みたいに言うなよ。
外に出てみれば、さらなる大混乱。
コインランドリーでは液体のブラジャーが排水口から大脱走。
下着売り場には『ブラジャーをお求めの方は容器のご持参をお願いします』と書かれた張り紙が貼ってある。
その店には、タッパーを持った人が列を作っていた。
家電量販店のテレビでは、液状化ブラジャー専門家なる人が映されていた。
『液状化したブラジャーは冷暗所で保管してください。冷蔵庫で保管する場合は野菜室にお願いします』
知らない知識が増えた。
夕方。
家に帰ると姉は大量の液体が入ったボウルを抱えて、ため息をついていた。
「見て! 戻りそう!」
姉が急に大きな声を出したので見に行くと、ボウルの中の液体がゆっくりと形を取り戻し始めていた。
肩紐、カップ、ホック。
形を作った液体は、ゼリーみたいだなと思った。
こんな形のゼリーがあったら買う奴はいるのだろうか。
くだらないことを考えている間に液体は見る影もなくなり、布へと姿を変えていた。
「よかったね」
「うん!」
そんなことがあった翌日。
またしても姉の悲鳴で朝を迎えた。
「靴下が粉になってる!」
どうやら今日は、靴下が粉化する日らしい。
そんなことを理解するのと同時に、今日は僕にも被害があるのか、と静かなため息をこぼした。




