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ブラジャーが液状化する日

作者: 鶴ヶ友護
掲載日:2026/08/26

 朝七時。

 姉の悲鳴で目が覚めた。

「ブラジャーが流れてる!」

 声のしたほうへと行ってみると、つるつると滑る液体を姉が追いかけ回していた。

 液体は床から壁、天井へと自由自在に滑り回っている。

「待てっ!」

 姉がなんとか捕まえた、かと思えば液体はつるりと指の間から逃げ出した。

 そんな姉をスルーしてテレビを点ければ、アナウンサーが落ち着いた声で言う。

「本日は高気圧の影響で、全国的にブラジャーの液状化現象が見られます」

 天気予報みたいに言うなよ。


 外に出てみれば、さらなる大混乱。

 コインランドリーでは液体のブラジャーが排水口から大脱走。

 下着売り場には『ブラジャーをお求めの方は容器のご持参をお願いします』と書かれた張り紙が貼ってある。

 その店には、タッパーを持った人が列を作っていた。

 家電量販店のテレビでは、液状化ブラジャー専門家なる人が映されていた。

『液状化したブラジャーは冷暗所で保管してください。冷蔵庫で保管する場合は野菜室にお願いします』

 知らない知識が増えた。


 夕方。

 家に帰ると姉は大量の液体が入ったボウルを抱えて、ため息をついていた。

「見て! 戻りそう!」

 姉が急に大きな声を出したので見に行くと、ボウルの中の液体がゆっくりと形を取り戻し始めていた。

 肩紐、カップ、ホック。

 形を作った液体は、ゼリーみたいだなと思った。

 こんな形のゼリーがあったら買う奴はいるのだろうか。

 くだらないことを考えている間に液体は見る影もなくなり、布へと姿を変えていた。

「よかったね」

「うん!」

 そんなことがあった翌日。

 またしても姉の悲鳴で朝を迎えた。

「靴下が粉になってる!」

 どうやら今日は、靴下が粉化する日らしい。

 そんなことを理解するのと同時に、今日は僕にも被害があるのか、と静かなため息をこぼした。

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