終章⑨
◇◇◇◇◇
「あの時のお礼を伝えたかった…
というのも、あるのですが…
もう一つ、リガン様…
私の上司であった、宮廷魔術士からも
伝言があるのです」
「…な⁈」
イルは椅子から勢いよく立ち上がる。
「な、何?今更…」
イルは眉を吊り上げるが、
リーンはイルを制止する。
「落ち着け。
先ずは話しを聞くのだ」
青年は組んでいた両手をギュッと
握り締め、再び話し出す。
「我々と、あのお方のした事は…
決して許される事はないと思っています。
あのお方も、私も…
生涯をかけて、償いをしていく
覚悟です」
「ただ、その事とは別に…
身勝手であることは…
重々承知で…
お願いしたいことがあるのです」
青年は両手が白くなるほど、
握り締め、言葉を噛み締めながら
紡いでいく。
「我が国…フィアロ魔導王国にて、
最近特に、国王へ不満をもった民衆が
不穏な動きをしているようなのです。
…それ自体でしたら、
国の事情ですし、敢えてお伝えする
ことではないのですが…」
「我が上司だった、リガン様が
調査したところによると、
どうも…
不穏を扇動しているのが、
旅の吟遊詩人だ…
ということらしいのです。
リガン様が"かの"護符を
入手した人物もまた、
旅の吟遊詩人…
容姿などを聴き取るに
同一人物の可能性が高いらしく…」
「…!!」
リーンの眼光が鋭くなる。
「その、旅の吟遊詩人は…
まだ国に居るのだな?」
リーンの冷たく鋭い声音に
少し緊張しながらも、
青年レグンスは頷く。
「はい。
王都で…リガン様の部下の一人も
先日見かけたようで…
本来なら…
あの偽の護符の件を、
リガン様自ら問い詰めたかった
らしいのですが…
あのような、お姿では…もう」
俯く青年にリーンは
毅然とした物腰で言う。
「宮廷魔術士の無念晴らしの
件につき合うつもりはない。
…だが、
危険な護符をばら撒いた
旅の吟遊詩人…とやらを
野放しにはできぬな」
「リーン様…行く気なの?」
イルは少し顔を曇らせながら
不安そうに尋ねる。
旅の吟遊詩人とやらも、
まして、敵対してた宮廷魔術士の
話しとて…
間に受ける危険性はあるのだ。
「私も…
伝言を伝えた身でありながら、
言うのも矛盾してますが…
今、王都は混乱していて
非常に危険かと思います
恩ある、お二人が万一
災難でも遭ったら…」
青年は葛藤しているようだった。
上司の、切なる願いで、
二人に吟遊詩人の件を伝言
したのだが…
これ以上、二人を我々にまつわる件に
巻き込んでいいものだろうか…と。
「上司のたっての願いで、
伝言に応じましたが…
これは、あくまで我が国での問題…
お二人には、聞き流して
頂いても…」
しかし、青年の話しを
遮るように、リーンは身を乗り出し
青年に質問する。
「フィアロ国へは、
ここから、どれくらいで着く?
吟遊詩人に逃げられては困るからな」
「え…と、リーンさん?」
「リーン様?」
青年とイルは慌てたように
声をかける。
「あはは!
もう、決まっちゃったみたいだよ?
リーンさん、行くのね?」
アーファは苦笑いしつつも、
明るくリーンへ目をやる。
「うむ、
吟遊詩人…そ奴は恐らく…
逃してはならぬ存在だ」
イルはため息を吐きながら、
しかし、吹っ切れた様子で
側にある、冷めた茶を飲み干す。
「まぁ、リーン様が行くって
言うなら、僕は付いていく
だけですけどね!」
そんな二人の様子に
青年は困ったような、悲しいような…
申し訳ないような表情をみせ
「お二人とも…」
二人へ、深く深くお辞儀を
するだけで精一杯だった。
◇◇◇◇◇
(終章⑩へ続く)




