終章⑧
◇◇◇◇◇
宵の口をとうに過ぎた時刻だ。
室内の三人は顔を見合わせて、
アーファは応答しにドアまで歩いていく。
念のため、リーンとイルも立ち上がり
アーファの後ろから様子を伺う。
「はい?どちらさまでしょう?」
少し緊張気味ながらも
アーファは静かに誰何する。
一拍おいて、
控えめな声が答える。
「夜分にすみません。
そちらに…その…
リーンさんとイルさんという方は
いらしていませんか?」
再び室内の三人は顔を見合わせ
眉を顰める。
「あの…貴方は…?」
ドアの前で伺うように
アーファは尋ねる。
「すみません、申し遅れていました。
私は…
隣国、フィアロ魔導王国…宮廷魔術士の
元部下でしたレグンスと申します」
「宮廷魔術士の⁈」
思わずイルは言いかけてしまった。
何かを察したのか…
ドアの外の
宮廷魔術士の元部下は
すぐに続けて言葉を補足する。
「いえ…このままで
構いません…
もし…お二人と面識があるよう
でしたら…
伝言を…お願いできないかと
思いまして」
「伝言?」
アーファは振り返り、二人を見る。
リーンはアーファへ頷き
静かにドアの方へ歩く。
「リーン様?危ないかもしれません
僕が行きますよ!」
しかし、リーンはそれを
制止する。
「キサマがまた万一、
ペンダントを使えば…
町を破壊しかねぬだろう?」
リーンは胡乱気な目をイルに向ける。
「う…」
先だって、やらかしたばかりの
イルだ。
これ以上、反論は不可能だった。
リーンは、アーファに近づくと
アイコンタクトで意思疎通した後…
立ち位置をアーファと交代し、
ドアノブに手をかける。
ギイィィ…と、
ドアは軋みながら小さめに開く。
ローブを纏った細身の青年は
ドアを開けた人物を見て
少し驚く。
「あ… …
お話しをさせて…
頂けるのでしょうか?」
ローブの青年は、
気弱な震える声でリーンを見つめる。
「ふむ、ここでは誰が聞いているか
分からぬからな」
「ありがとう…ございます」
青年は身を縮こませ、
恐縮そうに礼をする。
宮廷魔術士一行の横柄さは
もう、青年には感じられなかった。
青年…レグンスが室内へ
おずおずと立ち入りると、
イルは彼をじっと見つめ…
「あれ?
君…どこかで会った気がするよ」
と、目を丸くする。
当然、あの時の
ブレイブダンジョンでの
一件で見かけたので間違いは
ないのだが…
「はい…!
あの時は…お世話になりました」
青年は深くお辞儀をする。
「あ…分かったぞ、イル!
八層辺りで、ガス中毒で
倒れていた部下だ!」
「あ!そうかぁ!
良かった、助かったんだな!」
「はい…
お二人が去ろうとした時に
なんとか意識が戻って…
リーンさんが、魔除けの札を
私に付けてくださっていて…
無事にダンジョンを
脱出することができました」
青年の目に薄っすらと
涙が光る。
確かにあの階層で…
無事に帰還できたのは奇跡に
近いだろう。
「して、我らに伝えることがあると?」
リーンは話しを切り替え、
青年に向き合う。
青年は頷き、話し始める。
◇◇◇◇◇
(終章⑨へ続く)




