終章①
◇◇◇◇◇
「イル…やはり、暫くの間は
依頼は放棄して、大人しく身を隠しておく
べきだと思うのだ」
リーンは深刻な表情をして、
ブレイブダンジョンへ意気揚々と向かう
イルの背中に言葉を投げかけた。
ブレイブダンジョン最奥での
激闘はつい先日の出来事だ。
一日二日と休息を取り、
体の疲れは充分に回復した筈だ。
「リーン様?なぜです?
牙ネズミ討伐の依頼期限は
あと二日なんですよ…
ラストスパートで牙獲ってこないと
報酬もショボくなっちゃうじゃないですか?」
あの一件以来…
イルの雰囲気はかなり
変わった。
リーンとしては、懐かしい雰囲気に
戻った…とも言えるが。
何に対しても、臆病で自信のない
イルは消え…
明朗で活動的な人格になっていた。
ともすれば…
ギルド職員や冒険者仲間も、
その変化に気付く者はいるかもしれない。
イル自身もなるべく
ギルド受付や酒場内では、
戯けてみせたり、温和に対応し、
露骨な変化にならないよう
気を付けているようだが…
リーンが懸念している問題は
そこではなかった。
「先日の件…
どうやら、裏でギルドが調査を
しているみたいなのだ」
先日のブレイブダンジョン最奥での
出来事は、全く誰にも
知られない訳にはいかなかった。
宮廷魔術士一行には、
死者や怪我人が出たのだ。
とても…内密に出来る事には
できなかった。
町民、冒険者らの間では
その話題で持ちきりになった。
「あの隣国から来たって
宮廷魔術士一行…なんでも、
ブレイブダンジョン攻略失敗した
らしいよ」
「けっこう奥層まで行けたらしいけど、
強敵魔物が出現してしまったらしい」
「なんだ…宮廷魔術士って言うくらいだから、
物凄く強い人物なのかと思ってたけど…
大したことないのかぁ」
…など、
攻略失敗の報は一気に町中に
広まっていた。
そうでなくとも、
先日の商店街での、
宮廷魔術士の横暴だった様子は
皆の周知だ。
町民の心象も良くなく、
同情や心配の声はかなり
少なかった。
しかし、一方で…
最終的に何層まで到達したのか?
…等の、戦闘に関する具体的な
情報は殆ど噂として、
出回っていなかった。
その辺の詳細を聞きたい
冒険者らは、聞き込みをしたい
ところではあったが…
既に、渦中であった宮廷魔術士は
重症でありながらも、即本国へ
帰還し、現在は蟄居しているようだった。
ギルドとしても、この状況に
かなり困惑しているようだった。
怪我人や、ましてや死者まで
出してしまった、大事件である。
再発防止として、しっかり事の真相を
調査し、対処しなくては
ならないのだ。
基本、ギルドとしての規約では、
魔物討伐時の怪我や死亡事故に関して
特には罰や賠償を科す事はない。
戦闘はあくまで冒険者本人の
自己判断であり、自己責任なのである。
しかし…
今回のケース、
冒険者レベルが規約上の
ブレイブダンジョン、
侵入許可に達していない者が
許可外のフィールド(階層)へ
侵入した場合、
ギルド機関として、適切な処罰を科す。
…という事に抵触しているのだ。
つまり、宮廷魔術士だけなら、
虹のタグプレートにより、
ブレイブダンジョン内のどの階層へも
行けるが…
部下である魔術士に関して、
規約違反が発生している。
更に、その魔術士に対し
同行を命じた、宮廷魔術士に
関しても処罰の対象になりうる…
と、いうことだった。
こうして、ギルドは
宮廷魔術士に聞き込みをしようと
するも、既に彼らは出立し、
ギルド機関でさえ、立ち入れない
禁足領地に入ったと通達が来た為、
今回の件は頓挫しそうになっていた。
しかし…
一部の町民からの口込みで
当夜、宮廷魔術士とトラブルを
起こしていた人物がいるらしい…
という情報を得たようだった。
「ギルドが…
我らのことも嗅ぎつけるかもしれぬのだ」
◇◇◇◇◇
(終章②へ続く)




