四章四話イルの変化⑤
◇◇◇◇◇
ずっと…
「ずっと一人で
頑張ってくれてたんですよね…
"結界術士リーン"様」
「そうだ。
なのに…キサマは勝手に転生しおって!
我がせっかく封印して肉体を
保存してた苦労を何だと…まったく」
リーンは頬を膨らまし
大袈裟に怒りを表す。
照れ隠しも…多少はありそうだったが。
「でも、それでは…
僕が嫌だったんですよ!
大事な仲間を独りきりで戦わせるなんて」
イルのそんな真摯な言葉を聞いても
リーンはそっぽを向く。
照れが隠しきれなくなり、
顔を見せられないのだろう。
普段はドライなリーンの
少し可愛い一面に
イルは満足し、
話題を敢えて変える。
「そういえば、不思議なのは…
肉体から魂が離れても
前世の僕…
動けてましたよね?
なんでだろう?」
「混乱の術の怖いところだな。
本人の意識とは関係なく、
闇が勝手に体を操作してしまうのだろう…」
他の仲間達もそうして…
各地で暴れ回り…
やむ無くリーンは仲間を封印していったのだ。
「そういえば…
魔王はあれから、どうなったんです?」
今も…追っている。と、
リーンは悔しそうに言った。
…今回の"護符"の件も…
何かしら、魔王が関連し、暗躍してる筈だ。
未だに、"混乱の術"を治癒できる者は出ず、
封印を壊し、闇堕ちした
勇者達を各地で再度暴れさせれば…
魔王にとっては、都合がいいのだ。
魔王さえ、凌駕していた当時のパーティ…
最強の英雄達…
彼らが闇堕ちしたまま、世に放たれれば
間違い無く、この世は崩壊するだろう。
未だに、
かつての己の身体は闇堕ちしたまま
封じられている事に、
イルは歯痒く感じる。
しかし、今は目の前の事を少しずつ
こなしていくしか無いだろう。
「はぁぁ…明日からも仕事、頑張りますかぁ」
ブレーブダンジョン…勇者の迷宮。
ブレーブ(勇者)ねぇ…。
明日からまた、
一層の牙ネズミ討伐の依頼を
再開するのだ。
今となっては、少しこそばゆい。
ネズミ一匹に涙目だった
数日前の自分を思い出す。
「初心に還るのもいいものだ」
リーンが揶揄する。
「お互い様でしょう?」
イルも笑う。
古の時代…
魔王さえ凌駕するほどの強さを誇った
冒険者パーティがあった。
彼らは英雄、または勇者と呼ばれ、
実情はどうあれ、魔王からこの数百年、
世界を救っているのだ。
物語は語り継がれる。
しかし、現在も未だ…
勇者達は戦っている事を、
多くの者たちは
知る由もないのだろう。
◇◇◇◇◇
(第一部終章へ続く)




