四章三話光の剣士④
◇◇◇◇◇
宮廷魔術士は、
自身の目の前で繰り広げられた
現実では、あり得ない状況に
遂に正気を保てなくなっていった。
『私はきっと、夢を見ているのだ…』
あの、有り得ない魔法力の数値は
何だったのか?
あの、光の剣士は何なのか?
瀕死の宮廷魔術士は、
一連の事態の衝撃に…
思考キャパが限界を迎え、
石化の如く固まっていた。
…もはや、思考する気力は完全に
失せているようだった。
そして、そのまま
宮廷魔術士の意識は
ついに闇の中へ落ちていくのだった。
「イル、もう大丈夫だ!」
光の中で前世の自分と
対峙していたイルは、
リーンの声で我に返る。
徐々に意識が夢想の空間から
現実に還り、
光もいつの間にか消え、
イルの姿も今までの小太りに戻っていた。
イルにとっては、数分にも思えた
自分との対峙だったが…
現実はほんの数秒の間だった。
気付けば…"ラスボス"もとい、自分は
再び水晶の中に封じられていた。
「ふう、なんとかなりましたね!
安物の剣で対峙しちゃったから…
剣がボロボロになってしまいましたよ」
見れば、ぼろぼろどころか…
原型すら留めていない有様だ。
しかし…
イルのもう片方の手には、
真新しい剣が握られているではないか?
「…イル、その剣…」
リーンから見ても懐かしい剣だった。
前世のイルが愛用していた剣…
「ふふっ、その辺は抜かり無く!
"自分"から、ちゃんと
拝借してきましたよ!」
イルは流暢な仕草で、
剣を愛おしむように、鞘に仕舞う。
前世のイルが愛用していた剣…
ブレイブソードは、
使用者が成長していった分、
剣もまた成長するという、
稀有な剣だった。
愛剣と、今世の身体で共に
成長していきたいのだろう。
「よし…結界は貼り直したし、
一旦町へ帰るぞ。
…ああ、そこの魔術士も
一応…連れて行くか?」
リーンはそう言い、
宮廷魔術士を一瞥する。
町ですぐに適切に治療すれば、
命を落とす事は無いだろう。
しかし、
今回の件で、多くの部下の犠牲を出した事、
単独で無謀に強行し、
ともすれば周辺地域に多大な被害を
及ぼす可能性があった、
その、危険行為も含め…
ギルドは彼に対し、
冒険者プレートの剥奪処置を下すだろう。
いや、
リーンが方々のルートから手を回し必ず
剥奪するように仕向けるつもりだ。
魔術士としては、
人並み以上に優秀だ。
己の所業を償い、
余生は後続の指導などして、
静かに過ごして欲しいとリーンは願う。
因みに…
既に彼の意識は落ちているが…
もし、審議の眼鏡越しに
彼女を…
この、リーンという少女を見ていたのなら
その数値は不可思議にも、
"術が使えない術者"の数値に
戻っていた事に面食らう事だろう。
それが…
勇者を封印する程の
膨大なエネルギーを使う
超魔術、全身全霊をかけた
代償の果てだという事を…
知っただろうに。
この封印は…
常時魔力を消費し、
張り続けなければならない。
魔王に匹敵する
超超強力な存在を止め続けるために…
◇◇◇◇◇
(四話へ続く)




