三章三話竜の脅威①【挿絵付き】
◇◇◇◇◇
「ひっ⁈⁈」
怖いもの見たさでイルは頭上を見ると…
自分の腕の長さほどの鋭い牙が見えた。
牙は数本どころではない。
それは数百本と噛み合わされ、
巨大な顎から不気味な形状で生えている。
その巨大さと背徳的なフォルムに
イルは、それが何なのか
分からないでいた。
「飛竜だ!
奴は気合いで逃げ切れることはできぬから…
こちらに入れ!」
早口のリーンに襟首を掴まれ、
引き寄せられる。
倒れ込むように入った先は…
隠し部屋だった。
「え…?こんな場所に隠し部屋?」
「うむ、
一旦、ここで体制を整えてから、
一気に最奥の入り口がある扉まで
行くのだ!」
リーンはそう言って、
隠し部屋から外の様子を伺う。
九層は、狭い通路や迷路はなく…
天井の非常に高い、
一つの空間になっていた。
この隠し部屋から直線距離で
三〜四十メートルほどだろうか…
薄っすらと見える先に
重厚な扉があるのが
辛うじて確認できた。
そんな九層の広い空間に、
一般人なら、恐怖で失神してしまいそうな
凶悪な牙を持つ飛竜が一匹、
縦横無尽に飛び回っていた。
飛竜…
竜種としては、中程度の存在だが…
その力は、一匹で町一つあっさりと
滅ぼせる程の強さである。
そもそも…
世界で竜種は十匹といない…
伝説の存在なのだ。
ギルドとて、古の文献で存在は
認めているものの…
所在すら把握できない希少な存在だ。
魔物のレベルで推し量る事のできない、
特級以上の存在なのだ…
それがまさか…この、
ブレイブダンジョンに存在していたとは!
奴こそが、最奥のラスボスではないのか?
そう、誰もが思うだろう。
イルもそんな事を考えていた時、
その悲鳴が思考をかき消す。
「あそこ…!人が…倒れてる!」
九層の中央付近に複数人の人間が倒れていた。
例の魔術士の部下達だろう。
しかし…
近くに寄らないまでも…彼らが既に
治療が手遅れな状態にある事が伺えた。
巨大な飛竜の牙にやられたのだ。
イルは眉間に深く皺を寄せ
唇を噛む。
古代の英雄達のお伽話には必ず出てくる、
凶悪な存在…
それが今、目の前にいて…
ハ層までの魔物ですら、
倒せていた、最強の魔術士団でさえ、
敵わぬ有様だった。
飛竜とは…
まさに桁が違う強さの存在なのだ。
自分らもまた、
絶対絶命の危機にあるという事実に
イルは愕然とする。
「ね、ねぇ?リーン様?
僕ら一生このままなの?」
九層のこの惨状を見ながら、
イルは涙目で
リーンに質問する。
そして、また人の悲鳴が…
少し離れた場所…
最奥へ行く扉の付近だろうか?
爆発音が聞こえる中、
何かが開く音も、微かに聞こえた。
◇◇◇◇◇
(竜の脅威②へ続く)




