三章一話終わりへ進む者③
◇◇◇◇◇
イルが宿屋一階まで降り、
窓越しで見た場所…
中庭に着く頃には…
リーンの姿は既にそこに無かった。
見失った…と、辺りを見渡していた時、
緑に淡く輝く風のような存在が見えた。
それはまるで、
イルを誘うかのように…
光の尾を長く引き、
目的地を指し示すように
流れ…そして消えていった。
「あれは…以前見たシルフ?」
必ずしもシルフの行く方向に
リーンがいる訳ではないだろう…
だが、イルは何故か
誘われているように感じたのだ。
そしてシルフが向かった方向は…
ブレーブダンジョン。
…恐らく間違いない!
イルは夜道を走る。
ランタンでも用意しておけば良かったが、
あの時にそんな余裕は無かったろう。
月の光だけでもあるだけマシだ。
銀の月の中央は相変わらず
赤く神秘的な灯火が宿っていた。
イルは走りながら
赤く光浮かぶ月に祈る。
何事も無いよう…
この焦燥感は気のせいで
ありますように…と。
走り続け…
まさか、このままブレイブダンジョンまで
行ってしまうのでは…と
首を傾げていた時…
暗い道中、
ふと…人の声がした気がする。
慎重に耳を澄まし、
声がした方を探る。
「… …!」
やはり、人の声だ。
もし、それがリーンなら…
誰かと会っているのだろう。
やはり、逢瀬だったのか⁈
急に、自分が盗み聞きをしているのだと…
羞恥が過ぎる。
だが…
「うるさい!黙れ!」
ただならぬ雰囲気に、
一気に羞恥など吹き飛び
イルは事態を冷静に観察する事に努めた。
敵意ある言葉を浴びせられていたのは、
…やはりリーンだった。
氷のように冷たい表情のリーンに対し、
相手は激昂し、狼狽しているようだった。
『アイツは…前に町で見かけたな?』
イルは目を凝らしながら、記憶を辿る。
『そうだ!防具屋で遭ったぞ!
偉そうな態度で…確か…
どこかの国の宮廷魔術士だとか…?』
そんなお偉いさんと、
リーンに何の繋がりが?
宮廷魔術士の周りには、
数人の部下らしき術者が控えている。
奴らが万一、
リーンに危害を加えようものなら、
勝ち目は無いだろう…
…唯一所持してきた、
安物の剣をイルは握りしめる。
"仲間を絶対に見捨てるものか!"
自分が冒険者底辺の実力だろうが、
そんな事、関係ないのだ。
絶対にリーンは守る…!
イルの目には怯えや躊躇などはなかった。
◇◇◇◇◇
(終わりへ進む者④へ続く)




