二章・第三話ブレイブダンジョンへ⑨
◇◇◇◇◇
日が傾き、沈みかけの夕刻。
ギルド窓口は相変わらず
依頼の完了を申請する
冒険者で混み合っていた。
隣接の酒場も席が埋まり始め、
賑わいをみせている。
「初のダンジョンはいかがでしたか?」
窓口のギルド職員は労うように
イルに微笑みかける。
「はい…色々、衝撃でした…
最初は良かったんですけどね…」
疲れたと肩を落とすのは、
張り切って出発したはずのイルだ。
その腕には包帯が巻かれ、
満身創痍といった風貌だ。
「でも、初ダンジョンで
牙ネズミ一匹仕留められたのですから、
上々ではないですか?」
カウンターには、見事な大きさの
魔物の牙が提出されていた。
決して世辞ではなく、
成果を称えている。
初ダンジョン初日、なんの成果もなく、
ぼろぼろになって逃げ帰る…
そんな冒険者の割合は
半数以上にものぼるのだ。
また、下手をすれば全滅するパーティも…
初心者ニ人パーティで一匹仕留められ、
無事に帰って来たのだ、
本当に上手くいったと
ギルド職員は心から感心していた。
しかし、イルは更に顔を曇らせ言う。
「全てリーン様のお陰ですよ…
リーン様が居なかったら、僕はもう…」
ギルド職員は首を傾げる。
リーンとは…彼の隣で涼しい顔をしている
…術が使えぬこの少女の事で
間違いはないだろうか?
「リーン様が大コウモリを…殴り…
あ…いや…」
イルは何かを言いかけ、止める。
必死でリーンの顔色を伺い、
目を泳がせている。
ギルド職員は不思議そうに
リーン…彼女を見やる。
彼女の機転で命拾いでもしたのだろうか?
確かに…
彼女は"レベル定義無し"の
プレートタグ持ちなのだ。
(未だにギルド一同、信じきれてはいないが)
何か特別な能力があっても不思議ではない。
とはいえ…リーンのそんな
特殊な能力の話しは周囲からも
聞いたことはないが。
ギルド職員は、首を捻りながらも
リーンの事については、
そのまま聞き流すことにした。
(余り詮索するなと、上司からも釘を
刺されているしなぁ)
そういえば、
"レベル定義無し"は、もう一人いた。
先日…隣国の宮廷魔術士だとかいう、
重鎮のパーティがこの町を訪れていたっけ…
ギルド職員とて、そうそう
このプレートタグを目にする事はない。
何せ、国家レベルの大物…であるのだ。
ましてや、
一度にニ名もこの町で見かけるとは…
(でも、宮廷魔術士の方のプレートは
小粒のダイヤが一つ埋め込まれてた
デザインだったが…
リーンさんのプレートは…
全面が謎の虹彩を放っていたな…?
何の違いがあるのだろうか?)
疑問がいくつもふわふわと上がってくる
ギルド職員だったが、
ひとまずは仕事だ。
…と、頭を切り替える。
「では、こちらで
牙ネズミの牙は受理しておきますね。
また明日も頼みますよ!」
疲れがみえるイルだが、
職員からの言葉を受け襟を正す。
明日こそは…!
「はい!明日は二匹持って来ますよ!」
そう言って、ニ人はギルドを後にする。
早めに夕食を摂って、早めに休もう。
また、明日から戦えるように…
冒険者用宿屋の硬いベッドだが
今日はぐっすり眠れそうだ。
『最上冒険者ともなれば術士とて、
多少の格闘は嗜みだ!
しかし…格闘家だと変な噂が立つのは
不本意だからな…
この事はギルドには内密に!』
大コウモリを容易く倒した後、
リーンは少し居心地悪そうに、
そう呟いていた。
自分とリーンとでは…
どれくらいの経験差があるのだろう?
憧れと、悔しさが入り混じる。
追いつきたい…
追い抜きたい…
自分の中の前世とより共鳴し、
高みを目指す。
イルは心の中で誓い、眠りに落ちる。
明日も頑張ろう。
◇◇◇◇◇
(三章へ続く)




