二章・第三話ブレイブダンジョンへ④【挿絵付き】
◇◇◇◇◇
「イル!!」
鋭くダンジョン内に響くリーンの声。
「う、うわぁ⁈ご、ごめんなさい!!」
イルは思考の空間から還り、
脊髄反射並みに
謝罪の言葉を叫んだ。
「呆けているな、前見ろ!
牙ネズミだ!!」
続くリーンの言葉に、
今度こそイルは我に返る。
「牙ネズミ⁈」
前方を照らしたランタンの先には、
一メートルはあろうかという大きさの、
ずんぐりした物体が浮かび上がる。
二足で立ち上がった姿は、
人にも見えるし、熊にも見えた。
何より…
目を惹き存在感を際立たせたのが、
齧歯が変形した、
その長く醜い牙だった。
「う、うわ…牙が…
中剣くらいの長さあるんですけど⁈」
以前、対峙した魔ネズミより
数段に巨大で凶悪な容貌だった。
その長く醜い牙からは、
黄ばんだ唾液が滴り落ち…
毒は無くとも、
その汚い牙で噛まれれば、
何かしらの感染症にはなりそうだ。
イルは、戸惑いながらも、
鞘から剣を抜き構える。
稽古とは違う。
互いに命を賭けての勝負だ…
今世の体になってから、
ニ度目の真剣勝負…
前世での記憶では、
数え切れないほどに戦闘をしてきた。
この程度の敵など…
どうとでも対処できる…と。
意識では思っているのだが…
今世の身体が、現状の慣れない状況に
不安と恐怖を覚え、
勝手に肉体を萎縮していく…
キツく握り締めてる手のひらに
ジワリと汗が浮き出てくる…
気をつけてなければ、
汗で剣を落としてしまいそうだ。
一文字に結んだ口の奥…
噛み締める歯がガチガチと音を立てそうになる。
ああ…
前世では、こんなに緊張しただろうか?
かつての剣捌きを考えれば
考えるほど…今の肉体が動かなくなる
…まるで金縛りにでも遭ったみたいに…
昔は…何のために剣を
振るったんだっけ?
「とにかく急所攻撃だけは気をつけるのだ!
あとは……! …! …!」
緊張のせいだろうか?
自分の鼓動の音で…
リーン様の声が遠い…
また、最初の魔ネズミの時と同じだ…
◇◇◇◇◇
(ブレイブダンジョンへ⑤へ続く)




