二章・第二話進めば暗雲④
◇◇◇◇◇
手の中の全財産を見ながら
躊躇するイル。
「うぅ…それは、怖いけど
明日からまた極貧食事生活かぁ…」
やっと少しだけ酒場で食べる食事に
彩りが出てきたのに…と、イルは項垂れるが…
極貧食事生活に戻ることより、
怪我は怖いことなのだ。
残念ながら、この町には
高位聖職者の常駐は無い。
致命傷ほどの大怪我でも蘇生術で
回復することは可能だ。
ただし、
蘇生術を使えるほどの術者は
この世界に数える
人数ほどしかいないだろう。
高位聖職者…その中でも、
ずば抜けて才能があり、
魔力(聖心力)が高く、
長く修行した最高位聖職者のみが
蘇生術を開花させる。
そんな高位聖職者は国の首都や、
王宮付きである事が一般で、
地方へ赴くことは殆ど無い。
しかも、
蘇生術の施術は無償ではないのだ。
ましてや、即死…
死んで生き返らせるなど
神様で無ければ不可能だ。
死のリスクと隣り合わせの冒険者は、
だからこそ慎重で、
万全な対策を取らねばならない。
「前世では…怪我をしても
アイツが回復してくれたもんなぁ…」
イルは前世での仲間を思い出す。
変わった奴だったが…
真最上位聖職者だとか、言ってたな。
あの頃は、本当に恵まれた環境だった
のだと…心の中で息を吐く。
「リーン様は何も買ってないですね?
僕ばっかで…
何か必要な装備は無いのですか?」
ふと、気付き…
おずおずとイルがそう呟く様子に、
リーンはほんの少し口元を緩める。
恐らく、
先刻の出来事も含めてイルは気にしているのだ。
商店街へ繰り出す前、
ニ人が意気揚々とギルドを
後にした直後だった。
冒険者(恐らく我々と同期くらいの)パーティが、
声を掛けてきたのだ。
「イルさん、ウチらのパーティと合流しないか?
ちょうど剣士がひとり欲しかったんだ」
イルはその声に立ち止まりはした。
…が、眉をひそめる。
所謂、勧誘…というものだが…
イルは違和感を覚えた。
「僕…?僕だけ?
…リーン様は?」
「いや…術が使えない術士がいてもなぁ?」
「この人、半年経っても全然成長してないじゃん?」
リーンにとって、
いや…
それは、
イルにとって非常に腹立たしい言葉だった。
「申し訳ないが断るよ!
リーン様には本当にいつも助けられてる。
色んな経験や知識を教えてくれてる…
今、僕が成長できてるのも
全てリーン様のお陰だから!」
普段は弱気なイルが
珍しく毅然とした態度で
そう言い放ち、さっさと歩いて行く。
いつもは冷静でポーカーフェイスな
リーンだったが、
心がジワリと温かくなっていた。
イルが自分を見捨てなかったこと
ではない。
ほんの少し、前世の頃のような
強いイルが垣間見れたからだ。
その心の成長が…
リーンには嬉しかった。
◇◇◇◇◇
(進めば暗雲⑤へ続く)
イル:「リーン様の衣装の秘密?ふふふ〜!
それは…明日教えてあげるよ!」




