第7話 狩りへの出発
ようやく狩りの初日を迎えた。
腰には借り物の刀と、名を刻んだ短刀。上から傷だらけの布鎧を羽織り、階段を降りる。
「おはよう、ベリア。眠れた?」
「……緊張で寝られなかったりして?」
待っていたアルモンとゼトが、いつもの調子で声をかけてくる。
「バカ言え。よく寝た。むしろ体を動かしたくて仕方ない」
肩と背を伸ばすと、ゼトがにやり。
「な、アルモン。こいつ戦闘狂だぞ」
「ふふ、可能性はあるね」
「ないから!」
そこへアリシアとダリが顔を出す。
「初陣なんでしょ、頑張って!」
「気いつけてな」
「行ってくる」
* * *
宿を出て大通りを北西へ。
「外に出るなら南門じゃないのか?」
「南は“安全な森”。僕らは西門から、“北西の森”へ行く」
アルモンが答える。
「北西の方が獲物がいいのか?」
「数が多い。そのぶん奥は魔獣も多いけどね」
「獣と魔獣の違いって?」
「簡単。体内の炎——魔火を“使えるかどうか”。
誰にでも魔火は流れてるけど、武器や体、術に乗せられるやつは一段上。“魔獣”はそれができる」
森で短刀に力を通した感覚が、腑に落ちる。やはり、あれが魔火。
ゼトが口を挟む。
「強さは魔火でだいぶ決まる。もちろん経験もセンスも大事だが、魔火の差は虫と獣くらいの隔たりが出る」
「質・量・練度、だね」アルモンが数える。
「質と量は素質寄り。誰でも伸ばせるのは練度」
「なるほどね。なんとなく心当たりがある。けど、魔獣ってとんでもなく強いのもいるんじゃないのか?」
「あぁ、奥に行けばね。北西の森、"ドゥーべの森"っていうんだけど、大陸の北側まで伸びているとてつもなく広大な森なんだ。中には人間では絶対に太刀打ちできない魔獣も住み着いているよ」
「その“とんでもない”魔獣、浅いところにもいるか?」
「大丈夫。森の浅いところならそんなに強力な魔獣はいないよ。」
「ま、ベリアなら平気だろ」ゼトが軽い。
「なんでだ」
ゼトが振り返り、俺の歩きを頭から足まで一瞥する。
「体の使い方と隙の無さ。どう見ても手練れ」
「それは僕も同感」アルモンもうなずく。
そんなやりとりのうちに西門へ。門番はいない。街の外周には“除獣香”が焚かれていて、獣は近寄らないのだと聞いた。
石畳が土に変わる。風が匂いを運ぶ。
俺たちは、"ドゥーべの森"へ歩を進めた。