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 ケーゴの右腕が丸太のように太くなり、赤味をおびている。

 空気が焼けているようで、右腕の周りが揺らいで見えた。

 これは一体。驚くティアにカゲツが耳打ちする。


「あんまり知られたくないから、周りに言わないようにね」


「あの、あれって」


「なんの力からは今は置いておこう。ヘルダインを相手できるのは、彼以外に残ってはいない」


 確かに、エクソシスト達は先程の攻撃でほぼ壊滅している。今のケーゴを見ている者はティアとカゲツしかいないだろう。

 ゆらりと歩いていたケーゴの存在にヘルダインが気づいた。


「なんだ、その姿は? まるでデビル――」


 ヘルダインの言葉を遮るように、ケーゴが一瞬で距離を詰めヘルダインの腹を殴った。

 強烈なボディーブローの入ったヘルダインはくの字に体が曲がった。


「まだまだ行くでぇ!」


 右腕を引いて、一気に突き出す。

 あの巨体を誇るヘルダインをも吹き飛ばす一撃を繰り出した。

 これなら勝てるかもしれない。だが、その淡い期待は打ち砕かれる。


 ヘルダインの強烈な右手の拳が、ケーゴを殴り飛ばしたのだ。

 ケーゴは吹き飛ばされた先の建物の壁に叩きつけられた。

 呻くケーゴにさらなる一撃が放たれる。


 そのとき、一秒にも満たない時間、ヘルダインの動きが硬直した。

 そこがケーゴの反撃の時間になった。右腕でヘルダインを殴打し続けた。

 そして、全員の戦いの結晶がヘルダインの腹部に現れた。デビルの核。これを壊せば戦いは終わる。


 ケーゴが腹部を狙っての一撃を放とうとした瞬間、膝から崩れ落ちた。


「くそっ……。時間切れかいな……」


 突如倒れたケーゴを見てヘルダインが高笑いをした。


「冒険者にしてはよくやった。俺の核を出させるとはな。誇りに思え、冒険者」


 ヘルダインに踏みつけられたケーゴは光となって消えた。



 自由都市ホランドの近くにある高台から、戦いを見ている者がいた。それはヨハンであった。

 ハクトとケーゴの持つ不思議な力には少し心踊ったが、それも短いものだった。

 小さなため息を吐いていると、背後に気配を察知した。振り返ることなく応える。


「やあ、ホムラさんにクオンさん。君達も見に来たのかい?」


「ヨハンくんは相変わらず怖いねぇ。背後から襲うこともできやしない」


「その気になればできそうだけどね。戦いは、今のところデビルが優勢だよ」


 ホムラがヨハンの横に並んで、自由都市での戦いの有様を見た。

 巨人のデビルが高笑いをしている声が聞こえた。


「ほんとだねぇ。これは助太刀に行くべきじゃないのかな、ヨハンくん?」


「行く必要はないよ」


 ヨハンはキッパリと断言した。


「ほお。何かあるのかい?」


「あそこにはまだ彼女がいるからね」


 ね。ティアさん。



 ヘルダインの高笑いを聞き、ティアは思わず足を踏み出していた。

 勝者の笑いでは無い。戦った者を侮蔑するような、その笑い声が許せなかった。

 細剣を抜き放ち、ファントム・ソードを出現させた。


「ヘルダイン!」


 声を大にして言った。


「貴様はあの時の……。どうだ、この様は。貴様らが総力を合わせても、ここまでが限界だったということだ」


「いえ、まだです! あなたは私が倒します」


 ティアの言葉にヘルダインは再び、声を大にして笑った。

 たかが冒険者一人でなんになる。そう言いたげであった。

 でも、核は露出している。あそこを叩けば。ティアの視線が核に向いた。


 ただ、どう叩けばいい。ティアの体力も何度もくらった熱波によってかなり削られている。

 ちょっとした攻撃をくらえばやられてしまうだろう。

 一点で狙える攻撃はシューティングスターだが、それで本当に倒せるのか。


 決めるべきは必殺技のソード・オブ・オベリスクだ。あれを直接叩き込めば倒せるかもしれない。

 だが、その猶予を与えてくれるか。ティアは一瞬の思案で答えを導き出した。


「ファントムソード」


 宙に浮かべて、ファントムソードが融合していく。

 魔力が凝縮されたファントムソードが一つになると、細剣をビシッとヘルダインの腹部に向けた。

 天から放たれたファントムソードが飛んでいく。


 しかし、それをただ見ているヘルダインではなかった。

 手で防御をしようとしている。

 このままでは手に阻まれて、核を狙えない。


 そう。今のスピードなら。



 ヨハンは空気が軋むような圧を感じた。


「来る」


 それは確信であった。



「ソニックステップ」


 ティアが高速で動くなか、飛んでいるファントムソードを手にした。

 その勢いのまま、ヘルダインの腹部にある核にファントムソードを突き立てた。


「ソード・オブ・オベリスク!」


 ファントムソードが爆発した。そのとき大きな光の剣から吹き出たのは青い炎であった。



「ブルーム……」


 ホムラが言うと、ヨハンは嬉しそうに返す。


「彼女は良い。どんどん成長している」


「君のお眼鏡にかなう人物が出てきて嬉しいのかい?」


「そう。あなたと同じだよ、ホムラさん」


「あの子が可哀想だね……」


 ホムラは肩をすくめると、クオンを連れて去っていった。

 酷い言い草だと思ったが、今は何より彼女の成長を喜ぼう。

 ヘルダインに放ったソード・オブ・オベリスクに巻き込まれて、光となって天に消えたティアに向けて言う。


「お疲れ様。頑張ったね」



 ティアの攻撃でヘルダインは消滅した。

 だが、それと同時に自分の攻撃に巻き込まれたティアも倒れたことになり、神殿送りとなってしまった。

 いや、ただの神殿送りではない。自傷行為によるものであれば、ティアにはペナルティが課せられる。


 三十分。たかが三十分かもしれないが、誰もいない世界でただ一人過ごすことになる。

 その事で彼女が去っていった日の事を思い出した。

 俺は一緒にいてやれなかった。なりふり構わず、彼女と共にいるべきだったのだ。


 あの時とはシチュエーションは違うが、今のティアは彼女と同じように一人だ。

 このままでは、暗い過去を繰り返してしまうかもしれない。

 そうはならないと決めたでは無いか。それならば、俺にできることは。


 ハクト、自身のこめかみに銃口を当てると、躊躇いなく引き金を引いた。 

 

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