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 冒険者達が敗北したという報告は瞬く間に広がった。

 冒険者達だけでなくNPCにも、その報告が伝わり、魔法障壁で守られた六大都市に人が押し寄せるという事態になってしまった。

 自由都市の防衛に参加した冒険者は一万人を超えていたが、それが為す術もなく叩き潰されたのだ。


 その衝撃は計り知れない。一体、どれだけの人数で挑めば勝てるのか、想像できなくなってしまい、それがより不安を募らせてしまっていた。

 その上、ヘルダインの計画である、冒険者だけでなくNPCも魔法障壁内でしか行動できなくするというものは、実質ゲームができなくなってしまうことになる。

 それがあっても運営からはなんの情報も降りては来なかった。一縷の望みも期待できない状況を打破するためには自分達で戦うしかないのだが、足並みが揃っていないのが現状であった。


 ゲームをプレイできなくなるのは嫌だという共通認識はあれど、それをまとめあげるものがいない。

 このまま、またデビルの軍勢が来れば、前回と同じ悲劇が繰り返されるかもしれない。

 ヘルダインの次の侵攻までに猶予は与えると言っていたが、それがどれほどのものかも分からない。


 考える事が山積みだが、ただの冒険者達には今以上の情報は伝わってはいない。

 スプーキーのギルドハウスでも暗い表情を浮かべている者が多い。

 その中でも落ち着いているのは一番レベルの低いミュウだった。


 ティアはその落ち着きが気になって問いかける。


「ねぇ、ミュウは怖くないの?」


「そりゃあ、怖いよ。でも、不安だからって考えを暗くしても意味ないじゃん」


「うん……。今の状態で勝てるかなぁ?」


「どうだろう。分かんないけど、難しいんじゃない」


「だよねぇ。どうしたらいいんだろう……」


 口から出してみても考えがまとまらない。その時、ドアベルがカランと鳴った。

 誰かが入ってきたようで、全員の視線が集中する。

 そこにいた人物にティアは思わず、あっ、と声を上げた。


 カゲツがいたのだ。


「カゲツさん? どうしてここに?」


 問われたカゲツはカラカラと笑った。


「僕はここのギルマスだからね。大変な事態の時まで席を外してらんないよ」


 ティアはそういえばと、ステータス画面を表示し、カゲツの情報を見たがギルド名は非公開になっていた。

 だから分からなかったのか。と、納得しているとハクトがカゲツに問う。


「ギルマスが来たってことは、何かしらの進展があったんですか?」


「まあね。一応、共通の敵として戦うことは決まったよ。ただ、ギルドメンバーの参加は任意ってことだけどね」


「それじゃあ、前回とほとんど変わらないじゃないですか」


「まあ、参加を表明したギルドの数は増えたから、そこはいい事なんだけどね。問題がやっぱりあってね」


 カゲツが頬を指でカリカリとかいた。


「誰がこのギルド連合の盟主となるか決まらないんだよ」


「やはりそこですか」


 ハクトはため息混じりに言った。

 そこが懸念点としては大きい。誰かがまとめあげなければ、個々で戦うのと一緒だ。

 バラバラで闘えば前回と同じ結果になる可能性が高くなる。


「大きなギルドを運営している人を選出したらいいんじゃないでしょうか?」


「そうだね。それもいい案だけど、大規模なギルドをまとめあげることができる人は限られるよ」


「スノーフレークのアンネマリーさんとかですか?」


「うん。ただ、アンネちゃんは敵が多いのも事実。表に出てまとめる感じではなかったね」


 前にカーミラが言っていたことを思い出した。ギルドを大きくしたのは良いが、その大きさを利用しているところがある。

 反感を買われるのは仕方の無いことかもしれない。


「ということで、あまりにも決まらなかったから、僕が提案したんだけど」


 カゲツの次の言葉を固唾を飲んで待つ。

 そのカゲツはもったいぶるように一つ間を開けた。

 

「選挙、することにしたよ」


「選挙って、あの投票をする選挙ですか?」


「そう。やりたい人に立候補してもらって、皆で投票するの」


「確かに、それなら公平でいいかもしれませんね」


 カゲツはこくりと頷く。

 選挙の決定ならば皆イメージはしやすいだろうから、納得できる人も多いだろう。

 

「んで、誰が立候補するかは各冒険者に任せることになったんだけどね」


「そうですよね。やりたい人がやるのが良いでしょうね」


「うちからは、ティアちゃんを推薦することにしました」


 ん? 首を傾げたティアはしばらく思考が停止してしまった。

 固まっているティアを見て、ハクトが慌ててカゲツに言う。


「なんでティアを推薦したんですか? そこはギルマスでもいいんじゃなかったんですか?」


「僕みたいなテキトーな男じゃダメでしょ」


「そ、それは……」


 口ごもるハクト。カゲツがテキトーな人物というのは正しいようだ。

 次第に思考が巡り始めたティアが大声を上げた。


「な、なんで私なんですかー!?」


 ティアの大声がギルドハウス内に響いた。

 その様子を見て、カゲツはニマニマと笑みを浮かべて言う。


「だって、ティアちゃん、ヘルダインに啖呵切ったらしいじゃん? 四大貴族相手にビシッと物申せる人なら適任と思ってさ」


「あれは、その場の勢いというもので……」


「じゃあ、あの時の言葉は嘘だったってこと?」


「それも違いますけど……。皆さん、助けてくださいよ~」


 ティアはカゲツ以外の人たちに助けを求めた。

 皆、唸るように考え込んだ。そうだ。皆で良い案を考えるんだ。

 ティアが考えようとしていると、ミュウが目くばせしてきた。


 これは良い案があるに違いない。ティアの目がキラキラと輝いた。


「ティアで良いんじゃないかな?」


「良いわけないでしょう!? ミュウ、何考えてるの!?」


「あんたが適任だと思ってるの。自分のこと分かってないようだけど、あんたは人を巻き込む強さがある。それに賭けたいと思うの」


 キッパリと言い切ったミュウの視線が眩しく、その光から目を逸らすとハクトと目が合った。


「確かにティアには、俺達が思っている以上の力を持っている」


「せやな。こっちの予想を超えることをしてくれるっていう点に賭けてみるのもありやな」


「二人とも!?」


 モカとカーミラも期待のこもった眼差しを向けている。

 逃げ場を失いつつあるティアにカゲツが真剣な表情で言う。


「ティアちゃんの真っ直ぐな心。それが人を動かすと僕は思っている。世界を救うのは、そういう小さな正義感から生まれるんじゃないかな」


「うぐっ」


 ここまで言われると、逃げ場がふさがってしまうというものだ。

 だが、カゲツの言う通り、ちょっとしたことが切っ掛けで、大きなうねりになるかもしれない。

 自分にそれができるか分からないが、ここにいる人たちは信じてくれている。


 それならば、返す言葉は一つしかない。


「出るだけ出てみます」


「さっすがティアちゃん。そう言うと思ってたよ」


「どうなっても知りませんからね!」


「サポートは得意だから任せてよ。んじゃ、スピーチ案を考えないとね」


 カゲツがあれやこれやと話を進めていく。

 本当にこれでいいのだろうか。悩みは尽きないが、デビルに負けたくない気持ちは本物だ。

 選挙で勝てないまでも、皆の心に少しでも残る言葉を伝えたい。

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