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大勢の冒険者が向かうのは、自由都市テイラーである。
再び狙われるのが自由都市ということに疑問を覚えたティアはハクトに質問する。
「また自由都市が狙われるのって、何か理由があるのでしょうか?」
「俺にも分からないが、冒険者に対する挑戦状のように感じるな」
「挑戦状ですか?」
ティアが少し考え込むと、ハクトが言葉を続けた。
「自由都市は冒険者が作った街だ。そこを潰すことは冒険者と戦うことを意味する。冒険者を集めて叩きたいという気持ちの表れだと思っている」
「NPCまで巻き込んでいるのに……」
「デビルは見境なしに攻撃を仕掛けるからな。全く気にも止めないだろう」
確かにデビルはNPCが相手でも攻撃することに躊躇いがない。
だからといって、NPCを傷つけていいことにはならない。
ティアは自由都市テイラーの傍を通りがかったとき、まだ避難していない人が大勢いたのが見えた。
「ハクトさん、まだ逃げてない人がいます」
「なに? 仕方ない。俺たちで避難誘導をしよう。いいか、皆」
ハクトの言葉に異を唱える者はおらず、デビルの軍団へと向かっている冒険者たちから離れて街へと向かった。
避難していないもの達には街を離れるように言って回る。
前回の自由都市の崩壊の件を伝えると、多くのもの達が従って街の外へと向かう。
ティア、ハクト、ケーゴ、モカ、ミュウの五人で街の中を駆け回った。
デビルの軍団との戦いがどうなっているのか、ずっと気にはなっているがNPC達の避難が先決だ。
一通り街の中を巡って、残ったものがいないか探していると、宙に幾筋もの光が上っていくのが見えた。
戦いが始まったのだ。ティア達はお互いに連絡を取り合い、戦いの行われていると思われる東へと向かった。
冒険者が倒されたことにより、神殿へと向かう光がどんどん増えていく。
あれだけの冒険者がいれば、そう簡単に負けるとは思えないが。
その思いは甘かったことを知る。
空に上っていく光が絶え間なく、そして大量になって行った。
ティア達が戦場に着いた頃には、戦いは混迷を極めていた。
冒険者が戦っているデビルは集団で押し潰すように突撃を繰り返していた。
冒険者も4人パーティーを維持しているようで、タンクが攻撃を耐えているが、集団に攻撃されるとHPがどんどん削られていく。
タンクが倒されたパーティーはアタッカーもヒーラーも倒されてしまう。
こんな一方的な戦いになるなんて。冒険者達の中から、戦列を離れて逃げていくもの達が次第に出てきた。
そうなると戦線の崩壊が始まってしまう。デビルは対抗するパーティーが減れば減るほど、攻撃対象を変えて集中的に攻撃を仕掛けていく。
乱戦状態になってしまうと、デビルの方が耐久力が高いため倒すのに時間がかかってしまう。
本来であれば集中的に一体に攻撃を仕掛けて倒す事ができるが、冒険者達の数が減り逆に相手の数が増えていく。
そうなると壊滅は止まらなかった。
奮闘するもの達もその数を減らしていき、残ったのは数十名となった。
もう反抗する気力を失ったのか、冒険者達は膝をついて倒されるのを待つ身となってしまった。
ティア達もその様子を呆然と眺めていると、突然デビル達の攻撃が止まった。
何事かと思っていると、デビル達が道を開けるように左右に集まった。
その道をゆっくりと歩いて来るものがいる。
赤髪の大男だ。その者は残った冒険者達の傍まで来ると、辺りを見回した。
「冒険者もこの程度か」
そういうと、近くで倒れかかっていた冒険者を踏みつけた。
「これで分かったか。貴様らはデビルには勝てない。何度立ち向かって来ようとも、討ち果たしてみせる」
大男が踏みつけた足に力を込めると、その冒険者は力尽きたのか光となり天へと上った。
「例え、何度蘇ったとしても、殺してやる。その心が折れるまでな。手始めに全ての自由都市を破壊する。そして、次は町や村を燃やし尽くす。お前達を魔法障壁のある都市だけでしか生きられないようにしてやる」
「酷い!」
思わずティアが声を上げた。
「冒険者だけでなく、NPCの方々まで手を出すなんて。冒険者は弱くありません! 皆で戦えばあなた達だって倒せます」
「ほう。この状況を見てまだ、そんなことが言えるのか。お前達では何も守れぬ。ただ蹂躙されるのを待つだけだ」
「そんなことはありません! 皆強いんです。だから、負けません」
ティアが啖呵をきると、それが大男には面白かったのか、声を上げて笑い始めた。
「俺の名はヘルダイン。貴様、名は?」
「ティアです」
「そうか。ならば、しばらく時間をやろう。その間に冒険者の総力を集めて見せろ。そこで貴様らを圧倒的に潰してやる」
「望むところです! 今度は負けない。あなた達を倒して皆を救います」
「ふん。口だけで終わらせるなよ。全軍、撤収だ」
ヘルダインが背中を向けて歩き出すと、黒い穴のようなものが宙に現れ、その中に消えていった。
他のデビルも同様に消えていくと、残ったのは敗北した冒険者達だけであった。




