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 ジョブ会館の三階に着いた。

 長い廊下の左右に等間隔で部屋があるようで、入り口の傍にはジョブ名とそのジョブをモチーフにしたであろうシンボルが掲げられていた。

 ティアのお目当てである、ファントムフェンサーのマスターがいる部屋を探す。


 先を行くケーゴとハクトが足を止めた。

 そこにはファントムフェンサーの文字と、細い剣のシンボルが掲げられていた。


「おー」


 思わず声を上げてしまった。


「ティアちゃん、本当に反応がええなぁ。まあ、わいらも似たようなもんやったと思うけどな」


 ケーゴに言われて、また恥ずかしくなった。

 初心者丸だしの言動が続いてしまい、これから何度恥ずかしい思いをしてしまうのだろうかと心配になった。


「ささ、どうぞどうぞ」


 先に入るように促されたティアは、ごくりと喉を鳴らしてドアを開けた。

 部屋に入ると、そこには執務室といった具合に大きな机と壁には本棚が置かれていた。

 机で書き物をしているのは、金髪をオールバックにした神経質そうな男性だった。


「あの~」


「ノックは?」


「あ、すみません」


「ノックから出直してください」


「……はい」


 ガチャリとドアを閉めたティアが、あわあわと慌てだした。


「ど、ど、どうしましょう? 第一印象、最悪なんですけど?」


「気にするな。ノックからやり直せば良い」


 ハクトの慰めを受けて、気を取り直してドアをノックした。

 コンコン。

 反応がない。そっとドアを開けると、先ほどの場所から冷たい視線を送る男性がいた。


「あ、あ、あの~」


「二回のノックはエチケット用のノックです。トイレで使うノックですが、ここがトイレに見えますか?」


「す、す、すみませ~ん」


 バタンとドアを閉めると、ティアは顔から火が出そうになるほど恥ずかしくなってしまう。


「もうダメです~。私、他のジョブにします~」


「ティアちゃん、諦めたらあかん。頑張るんや!」


「ううう……。頑張ります~」


 コンコンコン。

 反応がない。どうしよう。入っていいよね。

 カチャリとドアノブを回した。


 そっと顔を覗かせると、先ほどの男性がまだ冷めた目を見せていた。


「ひぃっ」


「何故、怯えるのですか?」


「え? 入っていいんですか?」


「どうぞ」


「失礼しま~す」


 そろりそろりと部屋に入るティアに男性は机の傍にある、応接用のソファに座るように手で促した。

 再び、「失礼します」と言いソファに座る。

 男性の視線を受け続けているティアは、ここで気づいた。


 ハクトとケーゴが入ってきていないことに。

 振り返ってドアを見ると、苦笑する二人がゆっくりとドアを閉めた。


 知っていたなぁ~。

 こうなることが分かっていたから、ハクトは私の話を聞いたときに反応したんだ。

 はめられたことに怒りが沸々と沸いてきた。


 その時、ジョボジョボと音が聞こえた。

 見れば、男が高々と上げたティーポットからティーカップに何かを注いでいる姿があった。

 今度は何があるの~。


 びくびくしていると、ティアの前にティーカップが置かれた。

 ティーカップには紅茶のように赤い水色の液体が入っていた。


「どうぞ、お飲みください」


「あ、ありがとうございます」


 ティーカップの取っ手に指を通して、カップを持ち上げる。


「ティーカップの取っ手は摘まむものです」


 わわわわわ。

 慌ててティーカップをソーサーに戻してから、取っ手を指で摘まんでゆっくりと飲み始めた。

 口に含むと、とても爽やかな味がした。


「美味しい……」


「それは良かった。さて、ここにいらっしゃったということは、ファントムフェンサーにご興味が御有りということでしょうか?」


「え、あ、はい」


 怖いからやっぱりいいです。とは言えない。

 

「そうですか。では、ファントムフェンサーがどのようなものか、ある程度認識されているのでしょうか?」


「少しですが」


「ふむ」


 男性は少し悩むように眉を寄せると、静かに口を開いた。


「では、自己紹介とファントムフェンサーについての説明から致しましょう。私はファントムフェンサーのリンデン支部長のアレルトです」


「ティアです。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします。ファントムフェンサーは細剣を基本武器としながら、魔力で作り出したファントムソードも操作し戦う、というものです」


 ここまでは公式サイトに書かれていた通りなので、こくりと頷いた。


「ですが、忘れてもらっては困るのは礼節です」


「……え?」


「他のギルドのように戦い方を学ぶことだけが、ファントムフェンサーではありません。普段からの立ち振る舞い、マナーなども学ぶのです」


「……あの」


「何でしょうか?」


 断れ、私。負けるな、私。


「私、やっぱ――」


「残念ながら、貴方にはレディとしての振る舞いも欠けています」


「し、失礼な」


「ですが、ここで学ぶことで、貴方は立派なレディとなれるでしょう。強さだけではない、美しさも身に着けられます」


 ぐぐぐ……。

 立派なレディ。美しさ。どちらも魅力的に思えてしまう。

 確かに、女の子らしい振る舞いができているか問われれば、分からない。


 女子高、女子大と進学したので、女性として扱われたこともないし、兄からも嫌味を言われることが多々ある。


「貴方は磨けば光る原石です。私の元で磨いてみませんか?」


 これは褒め殺しではないだろうか。

 頭の中での天秤が揺れに揺れている。

 その時、開け放たれていた窓から声が聞こえた。


「誰か助けてー!」


 女性の悲痛な叫びであった。


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