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 迫りくる黒い影の鳴らす足音が響いてきた。

 地鳴りのような低い音で、その数の多さが感じ取れた。都市の入り口でそれを確認したティア達は街路に散らばった。


「ミュウちゃん。逃げ遅れた人がいないか、街中を見て回ってくれないかな?」


「分かった。皆、頑張って」


 ミュウが駆けていくのを見て、カゲツがホッと胸を撫でおろしたような表情を浮かべた。


「ミュウは戦わなくて良かったんですか?」


 カゲツの表情を見て、気になったのでティアは質問をした。


「戦うにはレベルがちょっと低いからね。味方がやられてしまえばしまうほど、士気はさがってしまう。それなら後方支援をしてもらいたかったのさ」


 なるほど。今、残った冒険者たちは戦う意思を固めてくれたが、押されていると思ってしまえば耐えきれなくなる可能性がある。

 それを踏まえての考えということだ。

 ティア達の前に化け物の大群が姿を見せた。


 化け物なのに似たような甲冑を着ており、槍や斧、剣などを持っている。

 まるで軍隊のような統一感がある。それが分かったところで、化け物の大群がなだれ込んできた。

 だが、カゲツの読み通り、襲い掛かってこれる数は限られていた。


 攻めて来れる数は五体が限度だ。それ以外は後ろで詰まっている。

 タンクのハルアキが大声を上げ、敵のヘイトを集中させた。

 五体の化け物に攻撃を受けたハルアキをカゲツが回復させる。


 ティアとトーカが二手に分かれて、化け物に攻撃を始めた。

 ティアのファントムソードが化け物を切り刻み、トーカの槍が敵を貫いた。

 攻撃を加えた手ごたえから分かる。それなりに強い。レベルも高くなったティアの攻撃でも大きなダメージは負っていないように思える。


 トーカもそれが分かったのか、無理な突撃を仕掛けはしなかった。

 攻撃力自体もそこそこ高いのか、ハルアキの体力がじわじわと削られていく。

 アタッカーの攻撃で仕留めるのが難しいとなると数を減らすのが難しい。


「ハルアキくん、少しずつ下がりながら戦って。トーカちゃんとティアちゃんは、ハルアキくんの前にでないように!」


 カゲツの指示に従い、ハルアキは徐々に下がり始めた。

 敵の攻勢をなんとかしのいでいるが、一体も倒すことができていない。

 ティアはシューティングスターを放ち、敵の腹部を貫いた。手ごたえがあった。


 倒れるかと思った敵がふんばって、再び攻撃を仕掛けた。

 耐久力が高い。今の攻撃なら倒れてもおかしくないのに。

 困惑していると後ろのカゲツが大声を上げた。


「ティアちゃん、敵の頭を狙って攻撃!」


 カゲツの指示に従い、ファントムソードを敵の頭部に殺到させると、敵はやっと崩れ落ちた。


「皆、敵はデビルだ! デビルの大群だ」


「はぁ!? デビルって、こんなに群れんの?」


 トーカが空を飛びながら、カゲツに言う。

 宙からの槍の突撃がデビルに突き刺さった。普通のモンスターならこれで倒れる。

 しかし、敵は倒れることなく、武器を振るっている。


「デビルは耐久値が高い。ダメージを与えると露出する核を攻撃しないと、倒すのに時間がかかるんだ。似たような姿をしていても、核の場所は変わってしまう」


「じゃあ、どこを狙えばいいか分かんないじゃない」


「うん。この甲冑はそれを狙ってのものかもしれない。核を直接狙えないとすると、火力で押し切るしかないけど」


「二人でどうしろってのよ!?」


 トーカの言うとおりだ。先ほどは頭に核が出たから攻撃できたが、甲冑で隠れた場所に核が出てきたら壊すのは難しい。

 敵を倒すのも難しい状態では、防戦一方だ。

 ハルアキは耐えているが、カゲツの回復では間に合わなくなってきている。

 

「どうすんの!? ハルアキが倒れたら、総崩れよ!?」


 焦りの色が浮かぶトーカの言葉に、カゲツは返すことができなかった。

 回復をしながら、どう戦うかを思案しているのだろう。

 アタッカーも攻撃を仕掛けてはいるものの、デビルの数は減らない。


 そうしていると、空に飛んでいく光が複数見えた。


「やられた?」


 他の街路で防衛にあたっていたパーティーがやられたのだ。

 となると、そこから敵が入ってきてしまう。最悪、入り込んだ敵によって挟み撃ちにされるかもしれない。


「カゲツさん、どうしましょう? 下がりますか?」


「今、背中を向けたらハルアキくんが耐えきれない。少しでも時間を稼ぐんだ」


 カゲツは苦々しい表情で言った。

 必死に耐えているハルアキだが、そのHPはもう残り少ない。

 そのとき、後方から足音が聞こえた。


 振り返ると、ミュウが肩で息をしている姿があった。


「避難は完了したよ」


「ミュウちゃん、ありがとう。十分だ。皆、全力ダッシュで戦線離脱」


「この借りは必ず返すからね。覚えてなさい」


 トーカが後方に飛んで駆け出した。


「ハルアキ、撤退しよう。私がファントムソードで時間を稼ぐから」


「ティアさん、あざっす」


 背中を見せたハルアキにデビルが襲い掛かるが、その行く手にファントムソードを飛ばした。

 一瞬だが逃げる時間を稼げた。ティアもそれを確認すると、走り出した。

 逃げるしかない。今まで経験した事のない悔しさがにじんできた。


 街中を走り回り、都市の外に出て、マウントユニットを召喚し、駆けた。

 振り返るとデビルたちは追ってくる様子は見られなかった。

 その代わりに、自由都市のあちこちで煙が上がり始めた。


 自由都市が陥落した瞬間であった。


「さぁ、皆で避難した人たちを連れて、どこかに行こう。ここにいたままじゃ、いつ襲われるか分からない」


「どこに行けって言うのよ? 着の身着のままに逃げ出したのよ?」


「ポーターギルドに支援をしてもらおう。どこかに避難所を作って、どうするか考えよう」


「結局、逃げるしかないのね」


 悔しさをにじませたトーカにカゲツは言葉を掛けず、ステータス画面を開いた。

 ピロンという音が響いたので、ステータス画面を開く。

 そこには、シャウトで悲しい言葉がつづられていた。


「自由都市ミルディンは崩壊。敵はデビルの大群。避難民の救援に協力してもらいたい」


 メッセージを送ったカゲツは火の手が上がる、都市を見つめている。

 その拳が震えているのを見て、ティアも悔しさがこみあげてきた。

 完敗したティア達は喋る言葉を持たず、都市に背中を見せ、避難民のところへと向かった。

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