89
迫りくる黒い影の鳴らす足音が響いてきた。
地鳴りのような低い音で、その数の多さが感じ取れた。都市の入り口でそれを確認したティア達は街路に散らばった。
「ミュウちゃん。逃げ遅れた人がいないか、街中を見て回ってくれないかな?」
「分かった。皆、頑張って」
ミュウが駆けていくのを見て、カゲツがホッと胸を撫でおろしたような表情を浮かべた。
「ミュウは戦わなくて良かったんですか?」
カゲツの表情を見て、気になったのでティアは質問をした。
「戦うにはレベルがちょっと低いからね。味方がやられてしまえばしまうほど、士気はさがってしまう。それなら後方支援をしてもらいたかったのさ」
なるほど。今、残った冒険者たちは戦う意思を固めてくれたが、押されていると思ってしまえば耐えきれなくなる可能性がある。
それを踏まえての考えということだ。
ティア達の前に化け物の大群が姿を見せた。
化け物なのに似たような甲冑を着ており、槍や斧、剣などを持っている。
まるで軍隊のような統一感がある。それが分かったところで、化け物の大群がなだれ込んできた。
だが、カゲツの読み通り、襲い掛かってこれる数は限られていた。
攻めて来れる数は五体が限度だ。それ以外は後ろで詰まっている。
タンクのハルアキが大声を上げ、敵のヘイトを集中させた。
五体の化け物に攻撃を受けたハルアキをカゲツが回復させる。
ティアとトーカが二手に分かれて、化け物に攻撃を始めた。
ティアのファントムソードが化け物を切り刻み、トーカの槍が敵を貫いた。
攻撃を加えた手ごたえから分かる。それなりに強い。レベルも高くなったティアの攻撃でも大きなダメージは負っていないように思える。
トーカもそれが分かったのか、無理な突撃を仕掛けはしなかった。
攻撃力自体もそこそこ高いのか、ハルアキの体力がじわじわと削られていく。
アタッカーの攻撃で仕留めるのが難しいとなると数を減らすのが難しい。
「ハルアキくん、少しずつ下がりながら戦って。トーカちゃんとティアちゃんは、ハルアキくんの前にでないように!」
カゲツの指示に従い、ハルアキは徐々に下がり始めた。
敵の攻勢をなんとかしのいでいるが、一体も倒すことができていない。
ティアはシューティングスターを放ち、敵の腹部を貫いた。手ごたえがあった。
倒れるかと思った敵がふんばって、再び攻撃を仕掛けた。
耐久力が高い。今の攻撃なら倒れてもおかしくないのに。
困惑していると後ろのカゲツが大声を上げた。
「ティアちゃん、敵の頭を狙って攻撃!」
カゲツの指示に従い、ファントムソードを敵の頭部に殺到させると、敵はやっと崩れ落ちた。
「皆、敵はデビルだ! デビルの大群だ」
「はぁ!? デビルって、こんなに群れんの?」
トーカが空を飛びながら、カゲツに言う。
宙からの槍の突撃がデビルに突き刺さった。普通のモンスターならこれで倒れる。
しかし、敵は倒れることなく、武器を振るっている。
「デビルは耐久値が高い。ダメージを与えると露出する核を攻撃しないと、倒すのに時間がかかるんだ。似たような姿をしていても、核の場所は変わってしまう」
「じゃあ、どこを狙えばいいか分かんないじゃない」
「うん。この甲冑はそれを狙ってのものかもしれない。核を直接狙えないとすると、火力で押し切るしかないけど」
「二人でどうしろってのよ!?」
トーカの言うとおりだ。先ほどは頭に核が出たから攻撃できたが、甲冑で隠れた場所に核が出てきたら壊すのは難しい。
敵を倒すのも難しい状態では、防戦一方だ。
ハルアキは耐えているが、カゲツの回復では間に合わなくなってきている。
「どうすんの!? ハルアキが倒れたら、総崩れよ!?」
焦りの色が浮かぶトーカの言葉に、カゲツは返すことができなかった。
回復をしながら、どう戦うかを思案しているのだろう。
アタッカーも攻撃を仕掛けてはいるものの、デビルの数は減らない。
そうしていると、空に飛んでいく光が複数見えた。
「やられた?」
他の街路で防衛にあたっていたパーティーがやられたのだ。
となると、そこから敵が入ってきてしまう。最悪、入り込んだ敵によって挟み撃ちにされるかもしれない。
「カゲツさん、どうしましょう? 下がりますか?」
「今、背中を向けたらハルアキくんが耐えきれない。少しでも時間を稼ぐんだ」
カゲツは苦々しい表情で言った。
必死に耐えているハルアキだが、そのHPはもう残り少ない。
そのとき、後方から足音が聞こえた。
振り返ると、ミュウが肩で息をしている姿があった。
「避難は完了したよ」
「ミュウちゃん、ありがとう。十分だ。皆、全力ダッシュで戦線離脱」
「この借りは必ず返すからね。覚えてなさい」
トーカが後方に飛んで駆け出した。
「ハルアキ、撤退しよう。私がファントムソードで時間を稼ぐから」
「ティアさん、あざっす」
背中を見せたハルアキにデビルが襲い掛かるが、その行く手にファントムソードを飛ばした。
一瞬だが逃げる時間を稼げた。ティアもそれを確認すると、走り出した。
逃げるしかない。今まで経験した事のない悔しさがにじんできた。
街中を走り回り、都市の外に出て、マウントユニットを召喚し、駆けた。
振り返るとデビルたちは追ってくる様子は見られなかった。
その代わりに、自由都市のあちこちで煙が上がり始めた。
自由都市が陥落した瞬間であった。
「さぁ、皆で避難した人たちを連れて、どこかに行こう。ここにいたままじゃ、いつ襲われるか分からない」
「どこに行けって言うのよ? 着の身着のままに逃げ出したのよ?」
「ポーターギルドに支援をしてもらおう。どこかに避難所を作って、どうするか考えよう」
「結局、逃げるしかないのね」
悔しさをにじませたトーカにカゲツは言葉を掛けず、ステータス画面を開いた。
ピロンという音が響いたので、ステータス画面を開く。
そこには、シャウトで悲しい言葉がつづられていた。
「自由都市ミルディンは崩壊。敵はデビルの大群。避難民の救援に協力してもらいたい」
メッセージを送ったカゲツは火の手が上がる、都市を見つめている。
その拳が震えているのを見て、ティアも悔しさがこみあげてきた。
完敗したティア達は喋る言葉を持たず、都市に背中を見せ、避難民のところへと向かった。




