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 残暑と呼ばれる時期ではあるが太陽はサンサンと輝き、外にいるだけで汗が噴き出てしまう。

 その日差しを避けるためカフェに入った紗友里と美羽は冷たい飲み物を注文し、一息ついていたところであった。


「ああ~、夏休みも終わりかぁ」


 紗友里がぼやくと美羽は苦笑した。


「あんたの廃人ユニティ生活もこれで終わりだからね」


「そうなんだよねぇ。結局、深淵の入り口も六十階層を突破できなかったしさぁ」


「十分なんじゃない? まあ、紗友里はライバルがいるから、もっと強くなりたい気持ちがあるのは分かるけど」


 美羽の放ったライバルの言葉を聞いて、紗友里はグッと手を強く握りしめた。

 そうだ。ライバルの存在がいるからより頑張れる。ユニティ生活に一層のめり込むことがことができているのだ。

 世界最高のプレイヤーであるヨハンがどれだけの強さなのか判断ができないが、今の紗友里では相手にならないだろう。


「せっかくライバル認定されたんだから、しっかり頑張りたいよね」


「ま、ほどほどにねぇ。大学で留年しましたとか笑えないし」


「うっ。気を付けます」


 手痛い言葉を受けた紗友里はミルクティーを一口飲んだ。


「でも、美羽もかなりやってたじゃん? レベルも40超えているし」


「そりゃ、あんだけ連れまわされればね。楽しかったからいいけどさ」


 美羽は順調にストーリーを進め、今ではヒーラーとしての立ち回りを正確にできるようになっていた。

 紗友里と違い、勉強熱心の美羽は動画などで勉強しているという。

 それもあって、ハクトやケーゴがいないときにダンジョンに潜ったりしたときに、あまり上手でないプレイヤーと一緒になっても戦線が崩れるようなこともなかった。


「美羽もすごい上手になったよね。安心感があるっていうのかな。一緒に戦っていて心強いよ」


「ありがと。参考になる人が動画上げてるからさ」


「ヨハンさんは動画とか上げてないかなぁ? どんな戦いをするか見てみたいな」


「私も気になって調べてみたけど、見つからなかったんだよね。やっぱりギルド名を伏せているからだろうけどね」


「そうだよねぇ。フレンドになっても情報伏せることができるから、野良だと余計に知る方法がないよね」


 紗友里はフレンドにも加護が見えないようにしている。

 そのため、加護が七星であることを知っているのは美羽とハクト、ケーゴのみだ。

 美羽がカフェオレを口に含んで飲み込んだ。


「そういえば、十月から経験値アップ期間が始まるじゃん? シーズン4の発売を控えているから、一気に上げるチャンスだね」


 紗友里のレベルは今、64まで上がっている。ストーリーもシーズン2が終わっているので、レベルをカンストの70まで上げればストーリーを一気に進めることができる。


「美羽も強くなるチャンスじゃん。一緒に頑張ろうね」


「はいはい。学業もその調子でやろうね」


「ぐぬぬ」



 ユニティにインしてギルドハウスに向かう。

 ギルドハウスにはハクトとケーゴがいた。


「お疲れ様です」


 ティアが言うと、ハクト達も挨拶を返した。


「今日はミュウちゃんは一緒じゃないん?」


 ケーゴがティアの後ろを気にして言った。


「ミュウは後から来るって言ってました」


「なら、また四人でゲームしよか。ティアちゃん、アップルジュースでええか?」


「ありがとうございます」


 カウンター席に座ったティアの前にアップルジュースが差し出された。


「そういえば、このゲームってフレンドリーファイアができるじゃないですか? 必殺技を使っても巻き込まれるんですよね?」


 フレンドリーファイアとは、味方を攻撃できるというものだ。

 普段は混乱や睡眠などのバッドステータスを受けた際に行うものだが、広範囲の攻撃をした場合にも味方を巻き込んでしまう。

 ハクトやケーゴはベテランプレイヤーのため、攻撃に巻き込まれないように立ち回れるがそうではないプレイヤーも多い。


「必殺技も対象だ。フレンドリーファイアはダメージが少なく設定されているが、威力が高ければ巻き添えになるとそれなりのダメージが通る」


「ですよね。野良でダンジョン攻略した時とか、結構気を使ってスキル使わないとダメだったりするから難しいんですよね」


「そこまで気にして立ち回れるなら、上級プレイヤーだな。このゲームは事故が多いから、失敗するとギスギスするしな」


「分かります。私も巻き込まれたこと、何回もありますから」


 ダメージの心配よりも、思わぬところからのダメージにビックリするというのがプレイヤーの共通認識だと思う。

 そこで、ティアはふと思ったことを聞く。


「自分で自分に攻撃できるんですか?」


「できるで。こっちもダメージは少ないんやけど自傷行為になるから、あんまり勧められへんな」


「どういうときにするんですか? あんまりイメージができないような?」


「普通はせえへんからな。それに自傷行為でHPがゼロになるとペナルティもあるで」


「ペナルティですか?」


 ティアの問いにハクトが答える。


「神殿で復活するまでに時間がかかるんだ。三十分間だがな」


「三十分もゲームできないのは嫌ですね」


「ああ。だから、自分からするやつはほとんど聞かないな」


 わざわざゲームができない時間を作る必要はないということだ。

 それから他愛のない話をしていると、ドアベルが鳴った。

 中に入ってきたのはミュウだ。


「お疲れ様~。待たせたみたいで、ごめんね」


「おっ、ミュウちゃん、お疲れ様。ほんなら、サクッとデイリー消化して、ストーリー進めよか」


「うん、そうしよっか」


 ティア達は席を立つと、ギルドハウスを後にした。



 ウルブラッドの視界が突然闇に包まれた。

 気づけば、一つの丸テーブルに四つの椅子だけがある空間に来ていた。

 悪魔四大貴族のみが入ることができる空間。


 ここに来たということは何者かが招集を掛けたということだ。

 暗闇の奥から姿を見せたのはグリードリッヒだ。


「やあ、ウルブラッド。元気にしていたかい?」


「君も元気そうだね。相変わらず、デビルをエクソシスト達に倒されているようだね」


「ははっ。色々と趣向を凝らしているんだけどな。エクソシスト共もバカにできない力をつけてきているようだ」


 戦えば、それだけ対応できるようになってしまう。

 だが、それでもグリードリッヒは様々なデビルを作りだして、戦わせている。

 シチュエーションを変えながら戦わせているが、最近は思ったような戦果はあげていないようだ。


「老人を呼びつけるとは。楽しい話であれば良いのじゃがのぉ」


 次に現れたのはブブルゼムだ。

 ゆっくりとした足取りで椅子の傍まで行った。


「おらんのはヘルダインか。ということは、いよいよかのぉ」


 椅子に座ったブブルゼムが背もたれに体を預けた。


「くくっ。面白い話になってきたねぇ」


 グリードリッヒが低く笑っていると、大きな足音が響いた。

 視線を向けると、そこにはヘルダインが立っていた。


「貴様らを呼んだのは他でもない。ついにデビルの軍団ができあがった。これより地上にでて冒険者どもを蹴散らしてくる」


「わざわざ、それを言いに集めたのかい?」


 再び、グリードリッヒが低く笑った。


「貴様らに余計な横槍を入れられたらたまらんからな」


「随分と信用されていないようだね。まあ、いい。君の活躍を見るとしよう」


「ヘルダイン。君の敵は冒険者だけか?」


 ウルブラッドが問いかけた。


「ふん。冒険者に手を貸す奴らも同様に捻りつぶす。生かす理由などないだろう?」


「余計な血が流れるのは見たくないね」


「恐怖が支配する世に、流れぬ血はない。邪魔だてするようならば、貴様であろうとも俺の敵だ」


「邪魔か……」


 ウルブラッドが目を伏せたのを見て、ヘルダインは背を向けた。

 暗闇に消えて行こうとするヘルダインの背に言葉を投げる。


「僕は君のことを好きでも嫌いでもないけど、生きて帰ってきてほしいとは思っているよ」


 ウルブラッドの言葉を聞いてもヘルダインは歩みを止めることなく、闇に消えて行った。

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