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 ピルレの洞窟からリンデンに戻ってきたティア達は言葉を交わすことなく、ギルドハウスに戻ってきた。

 ギルドハウスにはハクトとケーゴ、モカ、カーミラがいた。全員からお帰りと言われたが、ティアの表情がぎこちないことを見て皆が不思議そうな顔をした。

 それを見たミュウが、実は、と今日の出来事を伝えた。


「まさか、ヨハンと繋がりがあったんか。それにライバルかぁ。結構、プレッシャーやなぁ」


「そうだな。現環境の最強プレイヤーからそんなことを言われたら、悩んでしまうのも分かる」


 ケーゴとハクトがティアを思いやるような言葉を発したが、ミュウは平静であった。


「ハクトさん、ケーゴさん、心配しなくて良いよ。ね? ティア」


 ティアは伏し目がちでハクトとケーゴのことを見た。

 その目を見て、二人は背筋に悪寒を感じた。


「はい。大丈夫です。ライバル……。ライバルなんですよね……」


 ティアはうつむきながらぼそぼそとつぶやくと、バッと顔を上げた。

 その目は輝いており、口角も上がっている。どうして、そのようになったのか分からないハクトとケーゴは困惑した。


「ライバル! ライバルですよ? 最高じゃないですか! 切磋琢磨する間柄ですよ?」


「お、おう。ティアちゃん、プレッシャーとかないん?」


「ケーゴさん、無理無理。こうなったティアはしばらくこんな感じだよ」


 ミュウがドリンクを飲みながら、小さくため息を吐いた。


「ティアは昔から、そういう中二っぽいことを言われると燃える体質なんだぁ。だから、今は興奮しているんだよ」


「そ、そうなんか? それはええこと、やなぁ?」


「中学と高校も一緒だったけど、ティアって運動部なんだよね。結構いい成績を残すアスリートだったんだよ。だから、ライバル視されるとテンションあがるんだよね」


「心配せんでええって言うことやな。まあ、ゲームのライバルなら楽しい間柄ではあるかもな」


 目を輝かせているティアを見て、ケーゴが安心そうに言った。

 心配していたハクトも笑みを浮かべている。


「ケーゴの言うとおりだ。楽しみが増えたと考えよう。それなら、ティアにはいい場所があるな」


「おっ。確かに、あそこがピッタリやな」


「何かあるの?」


 心当たりのないミュウに、ハクトは人差し指を下に向けた。


「深淵への入り口だ」



 ティアとハクト、ケーゴはテレポートで砂漠の都市サハリへ行き、そこからマウントユニットで数日かけて目的の場所にたどり着いた。

 そこは高い壁でぐるりと囲まれていた。


「ここが深淵の入り口だ」


 ハクトが言うと、壁に沿って馬を走らせた。

 それについていくと、少し先に二人の人影があった。


「お、先客かいな。ん?」


 ケーゴが何かに気づいたようだ。ハクトも気づいたようでケーゴに声を掛けた。


「あれはダークハウンドの?」


「やな。クロウとアドネさんや」


 二人が会話をしている間に、一人が壁の方へと歩いていく。

 そこは入口になっているのか門がある。門を開けた人はそのまま中に入り姿を消した。

 残った一人の傍まで行って、ハクト達はマウントユニットを降りた。


「アドネさん、お久しぶりです」


 ハクトが声を掛けると、アドネは振り向きはこちらに一礼した。


「ギガントワームの一件の際はお世話になりました」


 ティアが礼を言うと、アドネは首を横に振った。


「こちらとしても得るものがありましたので、お互い様です」


「ここにいるってことは、アドネさんも深淵に挑戦されるんですか?」

 

「いえ、私はマスターの見送りに来ただけです。あなた方も挑戦に来られたのですか」


「はい。初めて挑戦するので、頑張りたいと思います」


「頑張ってください。では、私はこれで」


 そういうと、アドネはテレポートで去っていった。


「あんまり愛想のない人やったな。まあ、ギルマスほどではあらへんけどな」


「ダークハウンドのギルマスさんって、そんなに不愛想な方だったんですか?」


「人の神経を逆なですることに関しては、ゲームで一番かもしれへんな」


 よほど嫌な思いをしたのだろう。ケーゴの口がへの字になっている。

 苦笑するハクトが門に向けて指をさした。


「あそこが入口だ」


「あそこが深淵の入り口なんですね」


「そうだ。あそこを開ければ、大穴が広がっている。道なりに降りて行けば、洞窟があるから、そこからは迷宮になっている」


「ずっと下に向かっていけば良いんですよね?」


「ああ。いつでもテレポートで戻れるから安心して良い。自分の限界を知るにはぴったりだ」


 深淵の入り口はソロで挑戦するコンテンツだ。一人で迷宮に潜って、敵を倒してひたすら下を目指していく。

 一番下がどうなっているのか、それはハクトもケーゴも知らないという。

 ソロで腕を磨くにはこれほど良いコンテンツはないだろう。出てくる敵も強敵揃いと聞いた。


 挑戦する前から胸がドキドキしている。

 最強から認められるためには、今のままではダメだ。もっと強くならなくてはライバルと思われなくなってしまう。

 私は追いつきたい。あの人に。


「ティアちゃん、あんまり気負わんときな」


「いえ。やる気に満ち満ちています。では行ってきます」


 ティアは門を開けた。そこには地面に大きなぽっかりと穴が開いていた。

 右手になだらかな坂があるので、そこを下っていく。行く手に洞窟が見えた。ここが入口。

 一つ深呼吸をした。


「よし。頑張るぞ!」


 細剣を抜き放ち、洞窟の中に踏み込んだ。



 闇が支配する世界に浮かぶ頼りない月の光を、屋敷の部屋からウルブラッドは眺めていた。

 月の優しい光が好きだった。月明りしかないこの世界は寂しいと思う者もいるかもしれないが、この静寂が好きだった。

 月を眺めていると、部屋のドアがノックされた。


「お兄様、起きていらっしゃいますか?」


 ドアの向こうから、可憐な声が聞こえた。

 ウルブラッドはその声に部屋に入って良いことを伝えた。

 中に入ってきたのは、艶のあるプラチナブロンドの少女であった。


 透明感のある少女はウルブラッドに少し憂いのある表情で口を開けた。


「ヘルダイン様の仰っていることは本当なのでしょうか?」


 デビルの軍団がもうじき完成すると豪語したヘルダインは、この夜の世界で軍事演習をしていた。

 それを聞いたのだろう。世界を滅ぼそうとしていることを。


「本当だろうね。もうかなり完成していると聞いている。そうなれば、あっちの世界に侵攻するのは時間の問題だ」


「止められないのでしょうか?」


「ルシーニュは優しいね。ヘルダインの軍団が攻め込めば大勢の血が流れるだろう。デビルも人もね」


「……はい」


 痛ましい表情のルシーニュは、血が流れることを憂いているのだろう。

 彼女らしい考えだ。


「どうなるかは分からない。でも、デビルと冒険者は戦う宿命なのは変わらない。僕が願うのは、それが少しでも先になることだけさ」


「お兄様……」


「おいで、ルシーニュ」


 近づいたルシーニュを優しく抱きしめたウルブラッドは、ルシーニュの耳元でささやく。


「ルシーニュも考えてほしい。僕はいずれ答えを出すだろう。君には、それでも、と考えてほしいんだ」


「お兄様?」


「考えるのをやめるのは可能性を捨てることだ。君には僕が導けなかった答えを見つけてほしい。優しいルシーニュ、お願いだよ」


 そういうと、ウルブラッドは少しきつくルシーニュを抱きしめた。

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