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修練場から出たところでミュウを待ち、合流したティアはギルドハウスへと向かった。
今日覚えた技のこと、そしてブルームが発動したことをハクトとケーゴに伝えた。
話を聞いた二人は目を丸くした。やはりすごいことなのだろうか。
「ティアちゃん、ほんまにブルームを使えたんか?」
「使えたというか、勝手に出ちゃいました。これって加護と関係があるんでしょうか?」
「いや、加護は関係ない」
ティアの問いかけにハクトが難しい表情を浮かべて答えた。
「昔、俺達が所属していたギルマスがブルーム使いだった。実際に見たこともあるが、彼女の加護は業火だった」
「加護は関係なしなんですね。じゃあ、アカウント毎に決められているとか?」
「どうだろうな。だが、難しく考える必要はない。必殺技が強化される時がある。と思えばいいだけだ」
「アレルトさんも、そんな風に言ってました。あんまり気にしなくていいんですかね?」
「ゲームを進めるという点では有効だしな。なにせ、ブルームについては運営からの発表も何もないからどうしようもない」
バグなら修正されているというのも分かった。
一部のプレイヤーにしか出すことのできないブルーム。一体、何なのだろうか。
「ねぇ、ティア、シャーマンの先生からピルレの洞窟を野良パーティーでクリアしろって言われんだけど、冒険者ギルドに行けばいいの?」
「あ、うん。私も行くよ」
「キャリーありがと。じゃ、ハクトさん、ケーゴさん、またね」
ミュウと共にギルドハウスを後にした。
◇
冒険者ギルドに到着し、受付でミュウが話しているのを見守っていると一人の男性がティアの横を通りがかった。
「ん? ティアさんかい?」
それはヨハンであった。大小二枚の盾を背負っており、頑丈な鎧を着ていた。
先日はもっと身軽な恰好であったのだが。アバターを変えたのかな。
「あ、ヨハンさん。こんにちは」
「こんにちは。クエストかな?」
「いえ、友達がクエスト受注しているのを見ていたんです。始めたばかりでピルレの洞窟に行くんですよ」
「へぇ。あの子かい?」
ヨハンがミュウを指さした。
「そうです。ヨハンさんはどうしてここに?」
「デイリーの消化みたいなもんさ。ダンジョン攻略の募集に入ろうと思ってね」
毎日一回だけだが、ランダムでダンジョンに入ることで多めに経験値やゴールドが貰えるミッションがある。
それを消化しに来たんだろう。
「じゃあ、もしかしたら、私の友達と一緒になるかもですね」
「かもね。申請に行ってくるから失礼するね」
ミュウと入れ替わりでヨハンが受付に立った。
ヨハンと話していたことに気づいていたのか、ミュウは横目でヨハンのことを見ながら言う。
「あのイケメンだれ?」
「ちょっとした知り合いだよ。何回か話したことがあるの」
「ふーん」
あまり興味のない回答だったのか、ミュウはそれで会話を打ち切った。
受付の女性からミュウの名前が呼ばれた。
「お待たせしました。ピルレの洞窟攻略メンバーが揃いました。お一人はこちらのヨハンさんです。残りの方とは現地集合になります」
女性がそういうと、ヨハンがティアに向けてウィンクをした。
「やあ、レディ。ヨハンだ。よろしくね」
「ミュウです。バリバリの新人だけどよろしく」
二人は挨拶を交わすと、冒険者ギルドを出て南門へと向かった。
「ミュウさんはシャーマンか。いいね。リズミカルな動作が多いが見ていて気持ちがいい」
「そうそう。動画で見たときにピンと来てさぁ」
他愛のない会話を交わしていると、門を出たところまできた。
ここから少し歩いたところにピルレの洞窟はあるが、ミュウはマウントユニットを持っていない。
徒歩で向かうしかないと思っていると、ヨハンが呼び鈴のようなものを手にした。
リーンリーンと鈴がなると、どこからか二頭の白馬に牽かれた馬車が姿を見せた。
馬車は豪華なもので乗り心地がよさそうな作りをしている。
「レディたちを歩かせる訳にはいかないからね」
そういうと、馬車のドアをヨハンは開けた。
ティアは一礼して、馬車に乗った。複数人乗れるマウントユニットがあるのか。
感心していると、ミュウとヨハンが乗ったので、馬車が動き出した。
◇
ピルレの洞窟についたティア達は、現地で集合した二人の冒険者と合流した。
その二人とヨハン、ミュウの四人がダンジョンの攻略に向かった。
暇な時間になったので、服飾師のレベル上げと金策を兼ねてアイテムの製作を始めた。
夢中になって服を作っていると、洞窟の方から足音が聞こえた。
「終わったよぉ」
ミュウがティアに声を掛けた。
「お疲れ様。ヨハンさん、ミュウが迷惑かけませんでした?」
「だから、あんたは私のお母さんか」
ティアの不安をヨハンは一笑して返した。
「バッチリだったよ。センスが良い。この先が楽しみになる戦いだったよ」
「ありがとうございます。よかったね、ミュウ」
「はいはい」
ミュウの返しに笑いが起きた。
攻略が終わったため、二人の冒険者はテレポートで去っていった。
「さて、俺も帰るとしようかな」
帰ろうとするヨハンを見て、ティアはフレンド登録をしていないことを思い出した。
「ヨハンさん、良ければフレンド登録しませんか?」
「もちろんさ。ミュウさんもどうだい?」
「じゃあ、ついでに」
三人でフレンド登録をし合うと、ミュウがステータス画面を凝視していた。
「ミュウ? どうかした?」
「ロイヤル・ブラッド……。ヨハンさん、あなたって?」
「ロイヤル・ブラッド?」
何か聞き覚えがあるような。首を傾げたティアとは違い、ミュウは何か確信を持った目でヨハンを見ている。
「フレンド以外には非表示にはしているんだけど……。ちゃんと調べているんだね。初心者とは思えないよ」
「私、事前に調べるの好きだからさぁ。ティア、この人のこと知らないの?」
「ん? どういうこと?」
更に困惑するティアはヨハンを見る。
「改めて、自己紹介しようか。ロイヤル・ブラッドのギルドマスター、ヨハンだよ」
「ロイヤル・ブラッドって」
ティアは思い出した。最強が集まったギルド。世界一のギルドのマスターがヨハンだったのだ。
「通称、蒼炎のヨハン。ティア、あんたと同じブルーム使いだよ」
ミュウの言葉を聞いて、ヨハンは大きく笑った。
「すまない。そこまで調べていたとは……。それにティアさんがブルームを使えたなんてね」
「おっと、余計なこと言っちゃったみたいだね」
「いやいや。俺の中では確信があった。君は面白いとね。同じステージに立てる人と会えて嬉しいよ」
「ヨハンさん?」
言い知れぬ不安を覚えたティアは、ヨハンから一歩遠ざかった。
「ああ、怖がらなくていい。これはゲームだ。競い合えるライバルが増えたのが嬉しいのさ」
「ライバルですか?」
「ああ。何かがあれば助けるし、何かがあれば戦える。最高の関係じゃないか。ティアさん、名残惜しいけど次の予定があってね。また会おう。次はどんな関係が良いかな?」
そういうと、ヨハンはテレポートをして消えて行った。




