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 ティアはハクトとケーゴ、ミュウを連れてピルレの洞窟に来ていた。

 ミュウにとっては初めてのダンジョンになる。緊張してるだろうか。と思ってミュウを見たが本人は平然とした顔をしている。


「ミュウちゃん、だいたいの戦い方は知っとる?」


「タンクがヘイトをとって、アタッカーが攻撃してヒーラーが回復させる感じだよね?」


「そんだけわかっとれば充分やわ。じゃあ、実演と行こうか」


 四人でピルレの洞窟に歩みを進めた。



 ミュウはゲーム慣れしているのか、それともティアから詳しく聞いていたからか分からないが、そつなく回復をしていた。

 ボスモンスターも余裕で倒した四人は反省会というより、お疲れ会をスプーキーのギルドハウスで行なっていた。


「ミュウちゃん、落ち着いとったなぁ。ゲーム慣れとるん?」


「VRは初めてだけど、他のゲームはちょこちょこしてたからかな? あんまり怖いとも思わないし」


「ティアちゃんとはまた別の感じやなぁ」


「ティアは普段ゲームしてなかったからね。だから、なんにでも反応が良いんだよ」


「なんか、それ分かるわ」


 ミュウとケーゴが話しているのを恨めしそうな目で見るティア。

 たしかにゲームはユニティが初めてだから言い返せないが。

 一通り会話が終わると、ハクトとケーゴとはここで別れて、ミュウと共にギルド会館に来た。


「あ、忘れてた」


「どしたの?」


「私、レベル60になったからスキル教えてもらえるんだった」


「じゃあ、別れて行動したら良くない?」


「大丈夫? 一人で行ける?」


「あんたは私のお母さんか?」


 結局、別々に行動することになり、ティアはアレルトのいる部屋へ向かった。

 ノックをして招く言葉を待ってからドアを開けた。


「ティアさんでしたか。お久しぶりです」


「アレルトさん、お久しぶりです。お元気そうでなによりです」


 テーブルのソファに行くように促され、アレルトの入れた紅茶を一口飲んだ。

 ここの紅茶が一番美味しいかもしれない。と紅茶の味の余韻に浸っていると、アレルトが腕組みをしてティアを見た。


「本当に成長というのは早いものですね。ファントムフェンサーになりたての頃を思い出しましたが、ここまでになるとは」


「アレルトさんのご指導のおかげですよ」


 戦い方よりもマナーの方に苦戦したことは伏せておこう。


「次にあなたに教えるスキルは強力な必殺技です。覚えれば高火力を出すことができます」


「そうなんですね。どんなのか気になります」


「では、早速、修練場に向かいましょう」


 アレルトにエスコートされて、修練場へと向かった。



 修練場では、様々なジョブのプレイヤーが訓練を積んでいた。

 その中の一角にティア達は向かい、案山子を前にしていた。アレルトが細剣を抜いてファントムソードを出現させた。


「ティアさん、今からお見せする技はファントムフェンサーの中で一番の火力を誇るものです。周りを巻き込まないように注意してください」


「分かりました」


 ティアは用心のため一歩下がって、アレルトの様子を伺う。

 アレルトの細剣の切っ先が天に向いた。その動きに誘われるかのように、ファントムソードも天に昇った。

 空に登っていく八本のファントムソードが一つ、また一つと合体していく。


 ファントムソードの全てが一つに合わさると、眩い光を放つ。

 そして、アレルトの細剣が案山子に向けられた。


「ソード・オブ・オベリスク」


 宙に浮かんでいたファントムソードが案山子の足元に突き立った。

 そのファントムソードから光が地割れのように広がっていくと、地面から巨大な剣が現れ、案山子貫いた。

 迫力から力強さが伝わってくる。今まで使っていたスキルとは別物だ。


 巨大な剣が消えるとアレルトはティアの方を向いて言う。


「ソード・オブ・オベリスクは強力な反面、魔力の消費量も高く、再使用も時間が経たないとできません。故に必殺技です」


「すごいです……。なんていうか、衝撃を受けました。かっこいい……」


「ティアさんも使う資格はあります。今からやり方をお教えするので、やってみて下さい」


 アレルトから手ほどきを受け、ファントムソードの扱い方や、合わせ方などを細かく指導してもらう。

 何となくコツを掴んだティアは早速試したいと言い、アレルトもそれに了承した。


「ファントムソード」


 十本のファントムソードが顕現した。スっと細剣を天に掲げ、ファントムソードを宙に向かわせる。

 ファントムソードが重なり合い、一つの剣になった。

 ここからだ。ティアは細剣を勢いよく案山子に向ける。


「ソード・オブ・オベリスク!」


 案山子の足元に突き立ったファントムソードから光が溢れる。

 そして、巨大な剣が現れた。が、それは青く光を放ち、炎のような揺らめきを見せていた。

 アレルトがやった時と違う。もしかしてどこかで失敗したのか。


 そう思い振り返ってアレルトを見ると、目を見開いていた。


「ブルーム……」


 アレルトはそう呟くと、ティアに視線を戻して、一つ咳払いをした。


「失礼しました。順を追って話したいことがあります。まずは、ソード・オブ・オベリスクの取得、おめでとうございます」


「あ、ありがとうございます」


 やった。あれで良かったんだ。安心していると、アレルトが少し難しい顔をした。


「次にですが、私とティアさんで違う点があったことには気づいていますか?」


「はい。あの、アレルトさんのはオレンジ色でした。私のはなんか青い光と、その……炎みたいなのがあったと思います」


「正解です。ティアさん、あなたが放ったのはブルーム。必殺技の最奥にある秘技のようなものです」


「ど、どういうことですか?」


 困惑したティアを見て、アレルトは落ち着かせるように丁寧に言葉を紡いだ。


「ブルームとは、ブルーフレイムの略語です。意味は青い炎。ティアさんは、クリティカルヒットは分かりますよね?」


「はい。時々出るやつですよね? 普段より強力な一撃を相手に与える感じだと思いますが」


「その認識で正しいです。ただ、クリティカルヒットはこちらの状況だけでなく、敵の状態も関係してきます。だから、意図して出せるものではありません」


 要は運ということだろう。納得したので頷く。


「ブルームはクリティカルヒットと違い、自分の行動のみから生じる現象です。一定量以上の魔力を集中させて放った時限定ではありますが」


「では、シューティングスターでは出せないんですか?」


「そうです。今回のような多量の魔力を消費した時のみに生じます。原因は分かりませんが、魔力が凝縮されたことによる反応と考える方が多いです」


「ということは、これも運次第ですか?」


 ティアの問いかけに、アレルトはあごに指を当てて少し考える仕草をした。


「私の見解になりますが。運だけが全てではないと思います。技術があれば出せるものではありません。かと言って、運が良いだけで誰しもが出せる訳では無いのです」


「そうなんですか?」


 アレルトはこくりと頷いた。


「ファントムフェンサーだけにはなりますが、私の知っている範囲では六人。……いえ、ティアさんもここに入りますから七人ですね」


「えっ!? そんなに少ないんですか? じゃあ、なにかのバグ技なんじゃ?」


「バグ技であれば修正されるでしょうが、そうはなってはいません。そういう現象もある、との認識でいれば良いでしょうね」


 ファントムフェンサーだけでも、数百万人はプレイヤーがいるだろう。

 その中の極々ひと握りのプレイヤーにしか起きない力。そんな力が自分に宿っているなんて。

 七星の加護がなせる技なのかは分からないが、悪いことが起きる訳では無いことは分かる。


 帰ったら、ハクト達に話してみよう。頭を切り替えて、修練場を後にした。


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