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 夏休みも中頃になったがティアの怒涛の進撃が止まらない。

 レベルも60になり、メインストーリーのシーズン2も終了まであと少し。それに加えて、生産職の服飾師までレベルを上げているのだ。

 廃人レベルに活動しているティアを見たケーゴが言う。


「ティアちゃん、ごっつう頑張っとるけど。私生活に支障でてへん?」


「大丈夫です! ちゃんとバイトもしてますし、寝てますし、ご飯も食べてます」


 ということは、それ以外はゲームに費やしているのではないだろうか。ハクトとケーゴは見合って肩をすくめた。

 前々からゲームに前向きだったのだが、今度、友人がユニティを始めるからということで、今まで以上の活動をしている。


「まあ、ティアちゃん、ほどほどにな」


「はい!ありがとうございます」


 そう言いながら服の制作を行っている。最近はレベルが上がったためか、マーケットに出したら売れるようになってきたと言っていた。


「なぁ、ティアちゃん、なんかすごないか?」


「あれが学生のパワーなんだろう。俺達もあんな時期があった」


「ほんま、歳を感じるで」


 ため息をつく二人に気づくことなく、ティアは黙々と服を製作していく。


「まあ、ティアちゃんがええんなら、わいらも適当に過ごそうや」


「と言ってもイベントも終わったしな。デビルも出てきてないみたいだし、のんびりするのもありか」


「ティアちゃんが来る前はそんな日ばっかりやったけどな」


「たしかにな」


 一心不乱に服を作るティアを横目に、ハクトは飲み物を口に含んだ。

 思い思いの時間を過ごしていると、カーミラがINしたのか、工房の奥から顔を見せた。


「お疲れ様。先に来てたのね」


「お疲れ様です。とは言っても、今日は開店休業日みたいなものなんです」


「ティアちゃんが生産職にハマってしもてな、今日はそっちに注力したいみたいやな」


 三人の視線がティアに向いた。カーミラがINしたことも分からないほどに熱中している。


「ああなるのも分かるわね。私も無心で鍛冶してる時が楽しいもの」


「カーミラ姉さんみたいに生産職を極めるかもしれへんな」


「それはそれでいいじゃない。あんた達は寂しくなるかもだけどね」


 くすくすとカーミラが笑うと、ハクトとケーゴは苦笑しかできなかった。

 ティアと活動するようになって、数ヶ月になるが楽しい日々だった。ただ、ストーリーをひたすら追っていた彼女にも、それ以外の道が見つかったのは喜ばしいことだ。

 ハクトとケーゴはやれることはほぼやり尽くしているため、次の大型アップデートまですることはそれほどない。


 ジュークボックスからお気に入りの曲を選択しようとした時、ドアの方から人の気配を感じた。

 ドアベルが来訪者を告げると、その姿を見てハクトとケーゴは同時に声を上げた。


「ソウイチさん!」


 入ってきたのは、青いロングコートに優しい顔立ちをした青年ソウイチであった。

 ゆったりとした歩調で入ってきたソウイチの後ろをドタドタと歩く音が聞こえた。


「なんや、アイラも一緒かいな」


 四本の刀を背負った、勝気そうな顔立ちのアイラがケーゴの言葉に噛み付いた。


「なんだとはなんだぁ? 久しぶリにあった元ギルメンに言うことかよ」


「相変わらずうるさいやっちゃなぁ」


 二人の登場に気づいたティアが手を止めて、様子を伺っているのが見えた。


「ティアちゃん、会うのは初めてやな。ワイらの元ギルメンのソウイチさんとアイラや」


「やあ、初めまして。ソウイチです。よろしくお願いします」


 穏やかな挨拶をしたソウイチとは違い、アイラはティアに睨みを利かせつつ近づいた。


「おいおい、ケーゴ? こんなヤツがエクソシストなのか?」


「いきなり絡むなや。ティアちゃんはエクソシストやないで。ただの冒険者や」


「なんで、ただの冒険者がここにいるんだよ? ここはエクソシスト専門じゃなかったのか?」


「たまたまエクソシストが多かっただけや。別にそんな縛りもあらへん」


「はーん」


 アイラはティアの前に立つとマジマジとその顔を品定めするように見回した。


「お前、エクソシストになる気は?」


 突然の問いかけにティアが困惑している。ケーゴは助け舟を出すことにした。


「ティアちゃんは、冒険者ライフを楽しんどるんや。あんまり、縛らんといてもらえるか?」


「はん! そうかい。なかなかいい目をしてたから、残念ではあるけど仕方ない。エクソシストはいつでも大募集だからな」


 ガハハと高笑いしたアイラを見て、ハクトとケーゴは、ホッと胸をなでおろした。

 アイラは気風がいいやつだが、エクソシストのことになるとうるさいところがある。

 ティアについては悪いように思ってないようで安心した。


「ソウイチさん、今日はなんでここに?」


 ハクトが問いかけた。元ギルメンだが、最近はあまり接することがなくなっていた。


「近くに寄る用事があってね。少し思い出話でも、どうかな? て、言いたいんだけどね。君達の近況が気になってね」


 ソウイチは言うと、ハクトとケーゴだけに聞こえる声で話し始めた。


「ハクトくん、今も魔眼は使ってるよね? 別段おかしなところは無いかな?」


「え、ええ。特にこれといって」


「ケーゴくんは?」


「ワイは滅多なことやないと使わへんし、今のところなんもあらへんよ」


 二人の言葉を聞いて安心したのか、ソウイチは目を細めた。

 ソウイチは二人の力のことを知っている数少ない人物である。そのため心配してくれたのだろう。


「そうか。それなら良いんだ。その力についても調べてはいるんだけどね。収穫はなしだ」


「ありがとうございます。何かあれば連絡しますので」


「そうしてくれると嬉しい。心配しているのは僕だけじゃない。アイラも心配してくれている。ギルドがなくなったからといって、友人関係まで壊れたつもりはないからね」


 ソウイチの言葉がハクトには嬉しかった。

 魔眼について知っている数少ない人物だ。それが何か体に悪い影響を及ぼさないか心配して、色々調べてくれている。

 今のところは魔眼を使っても何も影響が出ていないので心配していないが、周りから見たら違うのだろう。


 ソウイチの視線がティアに向いた。


「彼女は知っているの?」


「ええ。少しですが。詳しいことは話していないです」


「それがいい。下手に話しても心配や疑念を抱かせるだけだからね」


 そういうとソウイチは席を立ってティアの傍に行った。


「ティアさん、ハクトとケーゴがお世話になっているようだね。ありがとう」


「えっ? いえいえ。そんなことはないです。お世話になりっぱなしです」


 ティアは恐縮しつつ言った。そんなティアを見るソウイチは目を細めた。


「二人を見れば分かるよ。君がいるから、二人は明るくなった。今までどおり、仲良くしてくれると嬉しい」


「もちろんです。いつかお礼ができるようになります」


「その心意気だけで十分さ。よろしく頼みます。本当はもっと話したいんだけど予定があってね。さぁ、アイラ帰ろうか」


「そんじゃ、行くとすっか。ハクト、ケーゴ、またな」


 二人は言うと、ドアを開けて去っていった。

 ドアが閉まると、ティアがハクトとケーゴに問いかけた。


「元ギルメンの方だったんですね。優しそうな方でしたね」


「う、うーん。今はそうやな」


「今は?」


 苦笑いをケーゴは浮かべると、頭を軽くかいた。


「前にいたギルドのギルマスの話はしたんのは覚えとるか?」


「ケーゴさん達を振り回していたって方ですよね?」


「せや。そん時、ソウイチさんはサブマスをしとったんやけど、ギルマスが自由奔放過ぎて、それを取り締まる役目をしとったんやが、めっちゃ厳しい人でな。ついたあだ名が青鬼や」


「そんな風に見えませんでした」


「素がああなんやろな。サブマスをしとった時はギルドをまとめなあかんって思っとたんやないかな」


 ケーゴは少し遠い目をした。

 ハクトもケーゴの言葉で過去に思いを馳せた。あの時のメンバーを思い出すと、楽しい気持ちと苦しい気持ちになる。

 あまり積極的に元ギルメンと関わらないのは、そのためだろう。


「そうや。ティアちゃん、銀の血盟ってギルド知っとるやろ? ソウイチさんはそこのギルマスなんやで」


「銀の血盟さんって、エクソシストの集まりですよね?」


「せや。ワイらとは違う世代の人たちで構成されとるから、関わりあったんはソウイチさんとアイラくらいやけどな」


「そうだったんですね。縁で繋がっているのって、良いですね」


「縁?」


 思わず、ハクトは声に出してしまった。


「はい。縁があるから今でも仲良くできているんだと思います」


「……そうだな。縁か。ティアも色々な縁があるし、これからも増えていくと良いな」


「はい。楽しみです」


 笑顔のティアを見て思う。新しい縁が生んでくれた喜び。縁が切れたことによって生まれた苦しみ。

 もし、縁が残っているなら、もう一度会いたいと思う。言えなかった言葉を言うために。

 一緒に行ってやれなくてごめん、と。


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