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悪鬼王の襲来イベントに参加したことで、ティアのレベルは57まで上がった。
夏休みに突入したということで、ティアは怒涛の勢いでメインストーリーを進め、シーズン1を終えた。
シーズン2を進めているところで、ミフユからランチの誘いを受けたので、ヘリオットのレストランに着ていた。
山の幸をふんだんに使用されている料理に頬を緩めて話をしていると、ミフユにストーリーの進捗を話した。
「メインストーリー感動したなぁ。これがまだ続くんだから、楽しみがまだまだあって嬉しいよ」
「シーズン2の話は私も好きだった。そういえば、ティアは生産職は始めたの?」
「生産職?」
そういえば、ストーリーの中で出てきたような気がする。メインストーリーに夢中でサイドストーリーなどは放置していた。
「やってない。やった方がいいのかな」
「シーズン1で基本的な街には行けるようになったから、生産職が解放されたの。生産職はアイテム作ったり、装備を作ったりできるんだよ。それを売れば金策にもなるから、やってみるといいよ」
なるほど。かっこいい、可愛いアバターはものすごい高値でやり取りされている。
そういうので欲しい物があった時にゴールドが必要になるから、普段から金策は欠かせない。
「ミフユはなんの職をしてるの?」
「錬金術師をしてるよ。錬金術師は回復用のアイテムやバフ用のアイテムも作れて割とおすすめだよ」
なるほど。確かにアイテムはよく利用する。効果の高いものは、冒険者の出品するマーケットにしかない。
それを考えると需要は高いのだろう。他にどんなのがあるのだろう。
「他にどんなのがあるの?」
「んー、木工師、鍛冶師、服飾師、調理師、彫金師だね。木工事は家を建てたり、家具を作るの。鍛冶師は武器や防具。服飾師は服やアバターかな。調理師は料理を作って、彫金師はアクセサリーを作れるの」
「へー。結構、種類があるんだ。どれがいいかなぁ」
自分が生産しているイメージをしてみる。木工師と鍛冶師は大変そう。錬金術師と料理人は割とイメージしやすいかな。
服飾師と彫金師は、うん、いい感じな気がする。この二つから考えてみると良さそうな気がする。
どちらがいいか。これは悩みそうな気がする。どうしようと考えていると、ピンと来るものがあった。
「ミフユ、私、服飾師になる」
「へぇー。いいと思うよ。何か作りたいのがあるの?」
「友達が今度、ユニティ始めるんだけど、最初の装備って可愛くないじゃない? だから、可愛い服を用意したいと思ったの」
「それ、すごくいい。友達も喜ぶよ」
どんな服が美羽には似合うのだろうか。考えるだけで色々な妄想ができてしまう。
「どこに行ったら、服飾師になれるの?」
「ちょうどここだよ。ご飯食べたら行ってみようか?」
「本当? 楽しみだなぁ」
◇
ヘリオットにある服飾師ギルドを訪れ、ギルドマスターに服飾師になりたい旨を伝えるとあっさり了承された。
まずは簡単な素材を使っての加工をするのだが、ただアイテムを重ねればいいと言うものでは無かった。
アイテムを揃えて加工を選択すると、加工のアクション次第でアイテムの質が変わるのだ。
よく分からないまま作り上げると、平凡な服ができあがった。
むぅ、といまいち理解できないティアに服飾師のギルドマスターがアドバイスをする。
「品質のいいものを作るなら、質の良いアイテムが重要よ。マーケットで買うか自分で採取するかはおまかせするから質の高い物を作りたい時は、アイテムから揃えるといいわ」
質のいいアイテムか。確かに装備の中では、通常とは違いブラス効果のついた装備が見かけられた。
そういうのは高いから敬遠していたが、自分で作るなら話は別だ。しっかりしたものを渡したいと思う。
まずはなんにせよ。服をいっぱい作ってレベル上げをするしかない。
マーケットに行ってアイテムを買っては服を作り続ける。慣れてくると楽しい気がしてきた。
色々なアクションを駆使して、服を製作し続ける。
作りたいものでマーケットに無い素材は自分で探しに行くしかない。
幸いアイテム欄から、欲しいアイテムがどこら辺で採取できるか書かれているため、そこに向かってアイテムを揃えてみよう
◇
山の上に咲いている花を手に入れに来たティアは、道に迷っていた。
地図では、この辺にあると書かれているが別の山を登ってしまったようだ。マップとにらめっこしていたのに道を間違えるなんて。
自分の方向音痴を呪うしかできない。山をゆっくり降りるのもありだが、少しだけ無理すればショートカットできそうだ。
少し傾斜のキツイ坂道を下っていると、踏み出した足場が崩れた。
ティアは踏ん張る事ができず、坂道を滑り落ちていく形になってしまった。坂道の先には崖が待ち構えていた。
落ちてしまえば高さによるが落下ダメージが入ってしまう。死なないまでも痛い思いをするのは間違いない。
そのとき、ティアの滑る先に光る剣が何本も地面に突き立った。
ティアはその剣の柄に手を伸ばし、剣を握った。勢いが削がれて、ティアは落下の直前で止まることができた。
ティアは手にしていた剣に見覚えがあった。ファントムソードだ。辺りを見回すと、坂の上に人影が見えた。
慎重に坂道を登ったティアはシルエットだけだった人の姿が見えてきた。
黒いドレスに外国のお葬式で使う黒いヴェールで顔を薄ら隠した女性であった。
その横には着物を着た快活そうな女性が立っていた。
「ありがとうございます。あのファントムソードを飛ばしてくれたのはどなたですか?」
「私です」
それは黒いヴェールの女性だった。この人はファントムフェンサーということだ。
「いやぁ、良かった良かった。あのまま落ちてたら大変なことになってたね」
快活な女性が言った。見た目通り、明るく通る声をしている。
「私はホムラだよ。こっちの愛想のない子はクオン。君は?」
「私はティアです。よろしくお願いします」
「礼儀正しい子は好きだよ。ね、クオン?」
「私はどちらでも構いません」
ホムラはクオンの返しに肩を竦めた。
「ま、こういう子だけどいい子なんだ。悪いように取っては欲しくないね」
それはもちろんだ。危ないところを助けてくれたのだ。なかなかできることでは無い。
クオンに再び礼を言おうと思ったとき、クオンは背中を見せて歩き出した。
「あの、クオンさん。本当にありがとうございました」
「別に構いません」
そういうとスタスタと歩き出した。呆けて見ているとホムラがティアの肩をポンと叩いた。
「自分の気持ちを伝えるのが不器用なんだ。分かってほしい」
「全然大丈夫です」
「じゃあ、私達は行くところがあるから、ここで失礼するよ」
「はい。助けてくださってありがとうございます」
ティアが頭を下げて礼を言うと、ホムラは笑みを浮かべ手を振って去っていった。
こういう出会いもあるのが、このゲームのいい所だと思う。一期一会。嬉しい出会いに感謝し、今度はショートカットせずに下山した。




